地球インテリジェンスが気候変動リスクの管理に果たす役割Gartner Insights Pickup(338)

地球インテリジェンスとは、地球に関するあらゆるデータを収集し、行動につながる情報に変えることを指す言葉だ。商業や環境問題への応用で、ますます重要になっている。ビジネス価値の高いユースケースとしては、環境モニタリングや気象予報、山火事の軽減などが挙げられる。

» 2024年02月16日 05時00分 公開
[Nick Ingelbrecht, Gartner]

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 世界経済フォーラムがグローバルリスク報告書2023年版に、今後2年間に世界が直面する最も深刻なリスクのランキングを掲載しており、「自然災害と異常気象」が2位に入っている(1位は「生活費危機」)。だが、「地球インテリジェンス」の急速な技術イノベーションを活用することで、このリスクを管理、軽減できる可能性が高い。

 地球インテリジェンスとは、地球に関するあらゆるデータを収集し、そのデータを行動につながる情報に変えることを指す言葉だ。人工衛星から得られるデータは、半世紀以上にわたって利用されている。特に、軍事衛星や偵察機が収集する写真を専門家チームが分析し、敵対国の能力を把握しようとしてきた。

 だが、地球インテリジェンスは、商業や環境問題への応用でますます重要になっている。Gartnerは、「2028年までに、世界で管理されている主要な陸上資産の80%が、衛星の監視下に置かれるようになる」と予測している。この割合は2022年には、10%だった。

 地球インテリジェンスのビジネス価値の高いユースケースとしては、環境モニタリングや気象予報、山火事の軽減などが挙げられる。

 地球インテリジェンスの先進的な技術のエコシステムが、新たな洞察を再定義し、可能にしている。このエコシステムには、よりスマートなドローンや新しい衛星コンステレーション(※1)と高度なアナリティクスの組み合わせなどが含まれる。この組み合わせでは、商用航空や手作業による分析といった従来の方法と比べ、はるかに低コストでビジネスインテリジェンスを提供できる。

※1:衛星コンステレーションとは、複数の小型衛星群をシステムとして協調動作させる衛星の利用形態である

新しいスペクトル技術とセンサー

 宇宙から可視光線以外の波長を使用した地球観測によって、これまで得られなかった洞察を手にすることができる。新しい衛星コンステレーションや航空システムでは、さまざまな波長や技術を使ってデータを収集できるセンサーが装備され、コンピュータビジョンを用いてデータ分析を自動化している。

 ハイパースペクトルイメージングは数百の波長を利用し(利用できる波長が数千に及ぶ可能性もある)、アナリストが地上、地中、海中のさまざまな種類の物体、事象、物質を検出できるようにしている。

 これは、高度な分類技術の利用とトレーニングデータの検証により、さまざまな物質のスペクトルの特徴を識別することで実現される。ハイパースペクトルイメージングの用途には、植物の健康モニタリングや汚染検出、排出ガスモニタリング、土壌水分量測定などがある。

 マルチスペクトルイメージングは、可視光線以外の複数の波長(赤外線、紫外線など)を用いて画像を捉える。気象予報、森林火災の発見、山火事の監視とリスク管理などに利用できる。

 また、合成開口レーダー(SAR)は、地表や海面のわずかな変化を、地上や海上で目に見えるようになる前に発見するために使われることが多い。天候や環境条件にかかわらず、これらの変化を検出する目的でも使われている。

新しいデータアナリティクスプラットフォーム

 データアナリティクスプラットフォームは、より多くのデータへのアクセスを拡大し、前処理の効率を向上させ、分析の機会の幅を広げることで、土地管理における地球観測のより大きなビジネス価値を引き出し始めている。

 これにより、ユーザーは農作物の収穫量予測、洪水や火災の予測による資産保護、鉱床を特定するためのスペクトル地質学、損害が発生した場合の保険金請求処理と検証などのための観測アプリケーションを構築できる。

 データアナリティクスプラットフォームは、さまざまなプロバイダーからのデータを集約し、ユーザーに安価に提供することで、地球インテリジェンスのビジネス価値を支えている。さらに、多くのベンダーが、既製のデータ分析モデルに加え、開発者が独自のアナリティクスを適用するためのサンドボックスを提供している。

 データアナリティクスプラットフォームは、例えばモニタリングアプリケーションによって、土地管理に活用できる可能性がある。土地所有者が土地開発に関する法律を順守していることや、木材会社が伐採許可の要件を満たしていることを確認するために、こうしたアプリケーションを使用するといった使い方が考えられる。

導入課題の克服

 だが、地球インテリジェンスソリューションが土地管理のために広く採用され、受け入れられるためには、克服しなければならない重要な課題がある。ディープラーニングモデルのトレーニングが不十分であることと、グラウンドトゥルース(※2)の検証が、その最たるものだ。

※2:直接の観察や測定によって得られる情報。

 グラウンドトゥルースの検証は、地球インテリジェンス技術について適切な精度を確保し、ユーザーの信頼を高める上で重要だ。AI(人工知能)の進化は、データ分析の精度の向上と、グラウンドトゥルースの検証の改善につながっている。

 他にも主な導入課題として、ユーザー教育が不足していることが挙げられる。衛星データの範囲や種類が拡大していることを、新たな洞察を可能にし、ビジネス価値を引き出すセンサーとデータ統合の技術とともに、周知する必要がある。

 地球インテリジェンスは、政府機関や企業の業務に不可欠なツールに急速になりつつある。今後10年間に、刻一刻と変化する環境や状況に関する高品質な地球観測データの分析が、かつてない洞察をもたらすと予想される。

 同時に、規模の経済と競争圧力の高まりにより、地球インテリジェンスを業務に取り入れるコストは低下するだろう。

出典:Earth intelligence’s role in managing climate change risk(Gartner)

※この記事は、2023年11月に執筆されたものです。

筆者 Nick Ingelbrecht

Sr Director Analyst


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