Windows 11に生成AI(人工知能)機能「Copilot in Windows」を搭載するなど、Microsoftは生成AIに力を入れている。Windows 11だけでなく、企業向けのMicrosoft 365などにも生成AI機能のオプションを追加するなど、各製品への展開を図っている。この「Copilot」は、どのような特徴を持つものなのか、ChatGPTなどとはどのような点で異なるのか、Copilot製品の概要をまとめてみた。
Microsoftのプレスリリース「Microsoft Copilot(現 Bing Chat、Copilot in Windows)を12月1日より正式提供開始。個人のお客様向け機能の紹介」によると、MicrosoftのAI(人工知能)チャット機能「Microsoft Copilot」が2023年12月1日に正式提供となった。
現在、Microsoftは、同社製品へのAI導入を着々と進めており、Windows 11だけでなく、「Microsoft Office(Microsoft 365)」やCRM製品「Dynamics 365 Sales」などに対しても、AIによるサポート機能の搭載を開始している。そのため、さまざまな製品に「Copilot」と付けられた機能が存在し、少々分かりにくいものとなっていた。そのためか、この発表に合わせて名称を整理した(後述)としている。
「Copilot」と付けられた製品も増えてきたことから、現状のCopilot製品について簡単に整理しておこうと思う。なお本稿では、単に「Copilot」としている場合はMicrosoftの生成AI製品全体を、「Microsoft Copilot」としている場合は従来のBing Chatを指すことにする。
Copilotは、MicrosoftのAIサービスの基盤で、さまざまな製品に対して生成AI機能を提供するものである。Copilot(副操縦士)の意味が示すように、ユーザーや製品をAIで支援するものという位置付けだ。
Microsoftは、ChatGPTを開発するOpenAIに大規模な投資を行っており、パートナーシップも締結している(Microsoftのプレスリリース「マイクロソフトとOpenAIがパートナーシップを拡大」)。そのため、CopilotはOpenAIが開発した、大規模言語モデル「GPT-3.5/4」をベースにしている(違いは後述)。
原稿執筆時点では、下表のようなCopilot製品が提供されている。
製品名 | 概要 | |
---|---|---|
一般(家庭)向け | ||
Microsoft Copilot | WebブラウザやMicrosoft Edgeのサイドバーで実行できるチャットAI機能 | |
Copilot in Windows | Windows 10/11のサイドパネルで実行できるAIチャット機能。Windows OSの設定変更などに対応する | |
Microsoft Copilot Pro | Copilotの一般向け有料プラン。月額3200円で優先的なGPT-4/GPT-4 Turboへのアクセスが可能で、一部のMicrosoft 365アプリでCopilotを利用した文書の下書きなどが可能 | |
仕事向け | ||
Microsoft Copilot for Azure | Azureのリソース情報を取得したり、Azure CLIスクリプトを生成したりするなど、Azureの管理を支援するための機能 | |
Microsoft Copilot for Microsoft 365 | Copilotを利用した文書の下書きなどが可能になる企業ユーザー向けの有料サービス | |
Microsoft Copilot for Sales | CRMシステム(「Dynamics 365 Sales」や「Salesforce」)と連携してOutlookのメールから取引先の担当者一覧を作成したり、メールを要約したりするなどの販売支援機能を提供 | |
Microsoft Copilot Studio | 独自のCopilotの構築が可能なローコードツール。独自のデータソースを指定して、そこからの情報を元にした回答をCopilotに生成させることができる | |
Microsoft Security Copilot | Copilotを使った脆弱(ぜいじゃく)性の調査やインシデントレポートの作成支援などの機能を提供する | |
開発者向け | ||
GitHub Copilot | プログラムコードの作成支援を行う有料の開発ツール | |
個別の製品で利用できるCopilotは、「Copilot in Windows」のように「Copilot in <製品名>」で示される。また、ファミリー製品およびプラットフォームで利用できるものは、「Copilot for Microsoft 365」のように「Copilot for <製品名>」となる。Copilot for <製品名>の中には、そのファミリー製品に含まれる個別製品ごとに「Copilot in <製品名>」が提供される。例えば、「Copilot for Microsoft 365」では、Microsoft 365に含まれるTeams向けに「Copilot in Teams」や「Copilot in Microsoft Excel」があるという具合だ。
Copilotは、「Microsoft Copilot」や「Copilot in Windows」のように無料で利用可能なものもあるが、基本的には有料(サブスクリプション)サービスとして提供されている。
前述の通り、CopilotはChatGPTをベースに開発されている。しかし幾つかの点で違いがあるので、ここでその違いについて整理しておこう。
Copilotは、大規模言語モデルとして「GPT-3.5」と「GPT-4」が使われている(GPT-4は、GPT-3.5を進化させたモデル。画像データの処理が可能になり、画像データを解析してテキストを出力することなどが可能になっている)。利用者の多い時間帯(ピーク)以外はGPT-4を利用するが、ピーク時はGPT-3.5になってしまうようだ。なお、スマートフォン用の「Microsoft Copilot」アプリでは、GPT-4を有効にするスイッチがあり、月額サブスクリプションの「Copilot Pro」では「GPT-4およびGPT-4 Turboへ優先的にアクセスして、パフォーマンスを高速化し、作業をより迅速に完了する」機能がある。
一方、ChatGPTは、GPT-3.5ならば無料で利用でき、GTP-4の利用には月額20ドルの有料プラン(Plusプラン)へのアップグレードが必要になる。
また、回答に使われる情報にも違いがある。ChatGPTの場合、GPT-3.5が2022年1月まで、GPT-4が2023年4月までの情報を使って回答を作成するようになっている。一方、Copilotでは、検索機能のBingなどを使って収集した最新の情報を加えて、回答が作成される。
例えば、「JAXAが打ち上げたSLIMは月面着陸に成功しましたか?」という質問に対して、両者の回答は以下の通りだ(回答は記事執筆時のもの)。
■Microsoft Copilotの回答
はい、2024年1月20日午前0時20分(日本標準時)に、JAXAが打ち上げた小型月着陸実証機(SLIM)は月面に着陸し、地球との通信を確立しました。SLIMの主ミッションであった100m精度のピンポイント着陸の技術実証も達成されたと考えられます。しかしながら、SLIMの着陸時の姿勢等が計画通りではなかったことから、太陽電池からの電力発生ができず、同日午前2:57(日本標準時)に地上からのコマンドにより探査機の電源をオフにしました。SLIMの月面着陸の結果・成果等については、JAXAの公式サイトで詳細を確認できます。
■ChatGPT 3.5の回答
私の情報は2022年1月時点までのものであり、その後の出来事についてはわかりません。2022年1月時点では、JAXA(日本航空宇宙研究開発機構)が開発したSmart Lander for Investigating Moon (SLIM)は、まだ打ち上げられておらず、月面着陸も行われていませんでした。最新の情報を確認するためには、JAXAの公式ウェブサイトや信頼性のあるニュースソースを参照することをお勧めします。
このようにMicrosoft Copilotでは、最新の情報が加えられた回答を得ることができる。一方、ChatGPTでは最新の情報が反映されない。新しい事柄についての回答を得たいのであれば、ChatGPTよりも、Copilotの方が最新情報を得られる確度は高くなる。ただ、最新の情報が必ずしも正しいとは限らないし、場合によっては評価が確定していない情報をあたかも事実のように回答してしまう可能性もあるので注意が必要だ。CopilotとChatGPTは、どちらも一長一短があり、両者の特徴を理解し、適材適所で使うのがよいだろう。
また、Copilotは製品に組み込まれているため、製品の設定や製品内のデータを活用できるという特徴がある。例えば、Copilot in Windowsの場合、AIチャットを使ってダークモードへの変更を指示したり、「メモ帳」アプリを起動したりといった操作が可能だ。同様に、Copilot in Microsoft Excelでは、AIチャットを使って、シート上のデータを分析してグラフ化したり、数式を生成したりできる。
Microsoftは、MS-DOS時代のコマンドライン、Windows OSのグラフィカルユーザーインタフェース(GUI)に続く、第3のユーザーインタフェースとしてAIチャットによる操作を位置付けているようだ。ユーザーがやりたいことを自然言語で指示することで、コンピュータが理解し、実現するという世界である。指示は、テキスト入力でもいいし、音声でも構わない。AIが急速に進化している現在、意外と近い将来に実現する世界かもしれない。
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