ソフトウェア開発に「インパクトマッピング」を適用する方法ソフトウェア開発チームの行動をビジネス目標につなげていく計画手法

インパクトマッピングは、関係者全員の共通理解を生み出すことで、ソフトウェア開発ライフサイクルの柔軟性を高める手法を指す。インパクトマッピングをソフトウェアプロジェクトに適用する方法を解説する。

» 2024年05月17日 08時00分 公開
[Gerie OwenTechTarget]

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 インパクトマッピングとは、プロジェクトの目標を定め、仮説をチームに伝え、ソフトウェア開発チームの行動をビジネス目標につなげていく計画手法の一つだ。これを正しく適用すれば、より効果的な意思決定につながる。

 戦略的計画や要件開発に使われる「ユーザーストーリーマッピング」などの手法と違い、インパクトマッピングではプロセス全体を通してビジネス目標に注力する。インパクトマッピングは、戦略的開発のあらゆる取り組みに採用できる。ビジネス目標に注目することから、アジリティと変化が求められると同時にスコープクリープ(意図しないプロジェクトの拡大)を制限することが必要なソフトウェア開発プロジェクトに適している。

 インパクトマッピングには柔軟性があるため、ビジネス目標への注目を失うことなく、競争状況の変化に応じて、各プロセスを調整できる。ビジネス目標に注目することで、プロジェクトが当初のスコープを越えて拡大したり、過剰な設計になったりする可能性を減らすことができる。

 インパクトマップを作成するには、ソフトウェア開発プロジェクトの管理者が、開発チーム、テストチーム、ユーザーエクスペリエンス(UX)チームの代表者や業務部門の代表者など、全ての関係者を巻き込む必要がある。

インパクトマップを作成する方法

 ソフトウェアコンサルタントのゴイコ・アジッチ氏は、自書『Impact Mapping:Making a Big Impact with Software Products and Projects』(『Impact Mapping:インパクトのあるソフトウェアを作る』)の中で、インパクトマップの作成を容易にする目的で、「why(なぜ)」「who(誰が)」「how(どのように)」「what(何を)」という4つの質問を使っている。この質問の答えは、インパクトマップにおける「goal(目標)」「actors(アクター)」「impact(インパクト)」「deliverables(成果物)」の4つに対応するものとなる。

Why(なぜ)

 インパクトマップの中央に「why(なぜ)」、つまり「goal(目標)」を配置する。業務チームもソフトウェア開発チームも、プロセス全体を通してこの「なぜ」に注目する。そうすれば、顧客のニーズや競争環境の変化に対応するための調整の重要度を理解できる。

 目標を明確に定義することで、業務チームとソフトウェア開発チームの想定を一致させることができる。目標は、解決策ではなく、問題点に注目する。目標はSMART(Specific:具体的、Measurable:測定可能、Action-oriented:アクション指向、Realistic:現実的、Timely:タイムリー)である必要がある。テスト担当者は、曖昧さのない質問をすることで、目標の定義に重要な役割を果すことができる。

Who(誰が)

 「who(誰が)」は、目標とする結果に影響を与える可能性のある「actors(アクター)」を表す。「誰が」は顧客やユーザーに限定されない。目標の達成を促進または阻害する関係者全員を含む。目標に影響を与える社内外全てのインフルエンサーを忘れずに追加する。ステークホルダーも忘れてはならない。規制当局が、開発中の製品や開発プロセスに及ぼす影響も検討する。アクターは、可能な限り具体的に定義する。ユーザーの希望やニーズは異なるため、一人一人が及ぼす可能性のある影響を理解することが欠かせない。

How(どのように)

 「how(どのように)」は「impact(インパクト)」要素に関係する。「どのように」では、各アクターが目標に及ぼす影響を定義し、アクターが取るべきアクションと取るべきではないアクションを検討する。その結果、開発者は最も重要な作業を特定して注力することが可能になる。インパクトをドキュメントにする際は、アクターが取るべきアクションだけでなく、変える必要のあるアクションを具体的に説明することが重要だ。

 その際、変えるべきではないアクションも含める。変えるべきではないアクションは、テスト担当者が特定するのに特に役立つように、否定的なテストケースに変換される。肯定的なインパクトだけでなく、否定的なインパクトを早期に認識することで、リスク軽減にかける時間を増やすことができる。

What(何を)

 「what(何を)」という質問は、可能性のある「deliverables(成果物)」の観点から対象範囲を表す。インパクトを生み出すアクションを可能にするために必要な特性や、場合によっては、インパクトを生み出すアクションを阻害する特性を概説する。ここでは、創造力を発揮し、予期せぬ事態を考える。製品マネジャーは、後からいつでも、成果物の詳細や優先順位を記述できる。

インパクトマップの例

 セレクト商品を月額制で毎月届けるサブスクリプションボックス企業のインパクトマップテンプレートの例を考えてみる。同社は、顧客が四半期ごとにアドオンボックスを追加購入するよう促すことで、売上を伸ばしたいと考えている。現在は、顧客が最初に選択した商品を基に、スタイリストがアドオン商品を提案している。また、ボックスに追加する商品を顧客が選べるようにもなっている。

 各コンポーネントをインパクトマップのカテゴリーに重点を置き、インパクトマップを表現すると下表のようになる。

目標 アクター インパクト 成果物
アドオンによって収益を25%増やす 既存顧客 スタイリストが選んだアドオンを受け入れる スタイリストがアドオンを選ぶ料金が免除される
追加のアドオンを選ぶ アドオンの選択に追加の割引料金を提供する
新規顧客 アドオンを含むサブスクリプションボックスを選択する アドオンを含む新しいサブスクリプションプランを追加する
追加のアドオンを選ぶ 追加アドオンの選択にさらなる割引料金を提供する
スタイリスト アドオンを提案する 顧客とコミュニケーションを取るためにSMS機能やメール機能を追加する
アドオンの販売を促進する アドオンの販促に追加歩合を提供する

 同じ例をマインドマップ形式で表現すると下図のようになる。この形式では、意思決定が全体的な目標からアクター、インパクトと流れ、最後に個別の成果物へとたどり着く。各決定が目標にどのように貢献するかがより明確に示される。

マインドマップ形式の例 マインドマップ形式の例

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