ターゲットは「生成AI導入が停滞している企業」 アップデートから読み解くMicrosoftのAI戦略Microsoft Buildの発表内容を分析

TechTargetは「AI開発者向けのMicrosoftの製品アップデート」に関する記事を公開した。Microsoftが発表したのは、生成AIの実験段階で行き詰まっている企業を支援するアップデートだ。

» 2024年06月27日 08時00分 公開
[Beth PariseauTechTarget]

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 TechTargetは2024年5月21日(米国時間)、「AI開発者向けのMicrosoftの製品アップデート」に関する記事を公開した。

画像 AI開発者をターゲットにするMicrosoft Visual StudioとAzureのアップデート(提供:TechTarget)

 大手クラウドベンダーや生成AI(人工知能)のスペシャリスト、OpenAIやAnthropicなどのスタートアップ、そして多くのエンタープライズITベンダーが宣伝しているにもかかわらず、2024年5月時点において主流企業での生成AIの利用が進んでいないとTechTargetのベス・パリゾー氏は言う。

 ある調査結果によると、技術の普及度を表す「ハイプサイクル」(Gartnerが提唱)において生成AIは「幻滅期」を迎えている可能性が示唆されている。また、Gartnerが実施した企業のAIに関する調査(米国、英国、ドイツの企業管理職703人を対象に実施)の結果によると、AIプロジェクトの半数以上(52%)が本番環境に移されていないことが分かっている。

 Gartnerのジェイソン・ウォン氏(アナリスト)は「導入に失敗した、もしくは『思ったほど画期的ではない』と判断され、生成AIの導入が進んでいない企業は多い。プロジェクトが頓挫する理由は主に2つ。“完全な製品”として使うにはデータ品質が不十分なこと。または、試してみたがコストに見合う価値が得られないと判断したかのいずれかだ」と語る。

 ウォン氏は「AIOps」が盛り上がったときと同様、「『ツールの有効性は、そのツールを適用する前のIT自動化のプラクティスとデータ管理の品質に大きく依存する』と気付く企業が増えるだろう」と話す。

 「現状、われわれの“検索”は機能しているとはいえない。多くの企業は、『Microsoft Copilot』などに委ねることでこうした混乱を解消できるはずだと考えている。ただ、Microsoft Copilotを使うためには自社のデータにラベルを付け、データをカテゴリーごとに分類する必要がある。最初にその作業をすることでより優れた検索が可能になるだろう」(ウォン氏)

AIとの連携やガイダンスを強化するMicrosoft

 2023年5月にMicrosoftが開催した「Microsoft Build 2023」では、データの統合と分析に対応する新たなSaaS(Software as a Service)データ管理プラットフォーム「Microsoft Fabric」(以下、Fabric)が発表された。また、2024年5月に、ユーザーによるデータパイプラインの構築を容易にする目的でFabric内で利用できるチャットbot「Copilot in Microsoft Fabric」が一般公開された。

 Microsoftのプレスリリースによると「Fabricのプレビュー機能『AIスキル』はアナリストやクリエイター、開発者の他、技術的な最小限の専門知識を持つ人が、インサイトを手に入れるための直感的なAI体験をデータを使って構築するのに役立つ」という。

 2024年5月のアップデートでは、AIによって開発しやすくする機能が開発ツールに追加されている。例えば、Microsoftの商用エンタープライズIDE(Integrated Development Environment)である「Visual Studio」の17.10バージョン(Visual Studio 17.10)には、GitHubのコードアシスタント「GitHub Copilot」との統合が正式に組み込まれ、一般提供が開始されている。

 この統合はVisual Studioの複数のリリースでプレビュー機能として提供されている。Microsoftの無償軽量ツール「Visual Studio Code」エディタでは長きにわたってこのGitHub Copilotがサポートされている。「Visual Studio 17.10 Preview 3」の公式ドキュメントには、「GitHub Copilotと『GitHub Copilot Chat』の両方を1つのパッケージにまとめ、単一の拡張機能としてインストールできるようになった。全てのワークロードに組み込まれており、デフォルトで推奨されている」と記載されている。

 MicrosoftはGitHub Copilotを、Visual Studioのコード補完ツール「IntelliSense」とも統合した。両ツールには一部重複する機能もあるため、最初は混乱するかもしれない。だが、ITプロフェッショナルの中には「この組み合わせは企業が特に魅力を感じる可能性がある」と述べる人もいる。

 Blue Shieldのニック・キャシディ氏(主任イノベーションエンジニア)は、「あくまでも個人的な意見」と前置きし、次のように語る。

 「IntelliSenseは関連するライブラリを見つけるのに役立つ。だが、そのライブラリに変数を追加するには現時点ではGitHub Copilotを使っている。そのため、新たにコードを記述するのなら、恐らくIntelliSenseを使わずにGitHub Copilotを使うことになるだろう。だが、既存のコードを変更するのであれば、両方を利用できることがメリットになるはずだ」

 クラウドコンサルタント企業RobustCloudのラリー・カルヴァリョ氏(フリーランスアナリスト)は、新しいテクノロジーを使い慣れたツールに統合することで、開発者は使い方を素早く理解できるようになるという。

 「開発者は自分がよく知るIDEを選択するだろう。そして、多くの開発者に人気があるのはMicrosoftのツールだ」(カルヴァリョ氏)

 カルヴァリョ氏は「Visual StudioとGitHub Copilotの統合によってMicrosoftは、競合他社よりも開発者支援の点で先んじることになる」と予測している。

 2024年5月のMicrosoft Buildでは生成AI管理ツール「Azure AI Studio」の一連のアップデートも発表された。このアップデートは、Microsoftの顧客が生成AIの利用における障壁を乗り越え、本番環境に生成AIを広げるのを助ける可能性がある。アップデートには、「Azure OpenAI Service」のレファレンスアーキテクチャ、ランディングゾーンアクセラレータ、サービスガイドのアップデート、「AI Models as a service」のプレビュー、LLM(大規模言語モデル)アプリケーションパフォーマンスの新しい監視サポートなどが含まれている。

 ポルトガルの最大手民間銀行Millennium BCPのヌーノ・ゲデス氏(クラウドコンピューティング責任者)は「AIを導入する多くの企業には、さまざまな課題がある。AIのスキルを有する人材の雇用、四半期単位で進化する(または置き換わる)テクノロジーを土台とするアーキテクチャの定義、重要なサービスレベルを支えるハードウェアリソースやパートナーの確保などだ。Microsoft Buildでの発表は、こうした導入の障壁を低減する包括的な取り組みを示している」と語る。

 2024年5月のアップデートによって、「Microsoft 365」のユーザーには、Microsoft 365の「Microsoft Copilot Studio」や「Teams Toolkit for Visual Studio」で、Atlassianの「Jira」などのサードパーティー拡張機能のプレビュー版も提供される。ウォン氏によると、この拡張機能は「カスタムチャットbotの設計を目指す技術系以外のユーザーや市民開発者にとって注目に値する」という。

 「クライアントとの会話から、Microsoft 365のCopilot(Copilot for Microsoft 365)の実装に着手したIT部門はMicrosoft Copilot Studioに対する関心が非常に高いことが分かった。一方で、『他のシステムやデータソース、アプリケーションからロールベースのデータを取得するにはどうすればよいか』という質問を受けることが多い。こうした機能に取り組んでいるクライアントもいるが、全ての機能がプラグインとして提供されるのはまだ先のことだ」(ウォン氏)

過剰なツールとROIの混乱を整理するIT担当者

 キャシディ氏によると、企業が生成AIの導入をためらう理由には、データ品質やセキュリティ、データプレイバシー、ガバナンスに関する懸念がある。それに加えて、生成AIを使った開発ツールやインフラ自動化ツールの選択肢が多過ぎることも原因となっているという。

 「私が現在取り組んでいるのは、競争の激しい生成AI市場において例えば『IBM watsonx』とGitHub Copilotをどのように比較するかといった問題だ。こうした比較が重要なことは多くの業界が気付き始めている。一方、生成AI関連ツールの発表の中には単なる雑音とも言える、ただ混乱を招くだけの情報が紛れていることがある。それらは情報が不明瞭であるため、発表内容について深く考えたり、次に何が起こるかを予測したりすることが難しい」(キャシディ氏)

 ウォン氏によると、Gartnerの顧客で生成AI製品を試験的に導入している企業も、生成AI関連ツールをどう評価すればいいのか悩んでいるという。

 「ツールを評価するには投資利益率(ROI)の精査が必要だ。『利益があるだろう』という推測だけで信じて投資することはできない」(ウォン氏)

 同氏は「AIによる開発者コーディングアシスタントの導入が急速に進んだのは、ツールが評価しやすかったからだ」と主張している。そのツールが開発者チームの生産性を向上させるかどうかは、コーディングアシスタントを利用するチームと利用しないチームの生産性を比べるだけで済むからだ。

 だが、キャシディ氏は「そんな簡単な話ではない」と反論している。

 「開発者のパフォーマンスには多くの変数や要因が影響する。だが、調査では『コーディングアシスタントに満足していますか』といった簡単な問い掛けをしているだけだと推測している。特に経験の浅い開発者においては、コーディングアシスタントを過信し、常にそれ(コーディングアシスタントの出力)が正しいと思い込んでしまうことがあるだろう」

 このように生成AIの導入には幾つかの課題があるが、少なくともゲデス氏が勤める銀行では、コーディングアシスタント以外で幾つかの生成AIプロジェクトが実用化されている。同氏によると、実用化されたのは、比較的小規模で、短期的な反復に重きを置く、ROIが比較的明確な作業に対処するものだという。今のところ成功しているのは、製品チームやカスタマーサポートチーム間での社内情報へのアクセスの改善、音声のテキスト変換などのマルチモーダル変換、感情分析、品質評価などのプロジェクトだと同氏は説明している。

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