こうした過程を経て、新たなスキルを身に付けた人材は「サーバレスネイティブ」なエンジニアとして、日々、試行錯誤を繰り返しながら業務課題の解決を図っていると佐藤氏は説明している。
「“サーバレスネイティブ”なエンジニアは、Webアプリ開発における過去の常識だったWebサーバやサーバベースのスクリプト言語、さらにはコンテナ的な概念も知らない。その代わり、AWSが提供している『Amazon S3』『AWS Lambda』『Amazon API Gateway』といったサービスを組み合わせて、APIを呼び出しながら次々と業務アプリを作っている。サーバレスのため、サーバのお守りが不要になり、実装に集中できることは大きなメリットだと感じている」
APIコールによる機能実装が主流となっていることは、近年注目を集めている「生成AI」の活用方針にも影響を与えている。
「生成AIは急速に進化を続けている段階であり、『特定の技術があればほとんどの課題が解決する』といった段階ではない。ユーザーとしては、ベンダーが次々とリリースする、早く、安く、高性能なサービスをAPIベースで“取っ換え引っ換え”しながら使っていくのが、現状の最適解だと考えている」
戸田建設は生成AI活用に向けた取り組みも進めている。例えば生成AIによる「議事録作成」の支援システムや、約70万ファイルにのぼる社内の技術系文書を自然文で検索できる「ベクトルサーチシステム」などの開発が進んでいる。技術系文書の検索システムでは、組織独自のデータを参考にして回答を生成する「RAG」(Retrieval Augmented Generation)の仕組みも取り入れている。RAG環境の構築に当たっては、AWSがGitHubで公開している「AWS CDK」(Cloud Development Kit)を活用することで、短期間での実現が可能だったという。
同社における内製化の取り組みは、現場業務向けのシステムだけでなく、建設業としてのコアビジネス領域に対してもアプローチを始めている。現在、その対象となっているのは、2024年秋の落成を計画している「TODA BUILDING」だ。
「TODA BUILDING」は、戸田建設の本社オフィスを含む複合ビルだ。このビルでは、空調、照明、警備、防災などを受け持つ各システムをソフトウェアで統合的に制御できる“スマートビルディングサービス”の提供を計画している。そのためには提供者もシステムも異なる各サービスを、統合されたプラットフォーム上に集約し、連携させる高度な仕組みが必要になる。
「さすがに、それら全てを内製することはできないため、外部パートナーと連携して開発しており、戸田建設からは3人のエンジニアが参加している。われわれとしては、竣工(しゅんこう)後の維持管理フェーズにおけるデジタルツインの実現に可能性を感じている。BIM(Building Information Modeling)モデルを管理画面に組み入れることで、不具合が発生したり、定期点検の時期を迎えたりした設備に対し、3次元の図面から必要な情報を即座に取り出すようなことができないか、そのためのユーザーインタフェースは、どのようなものが使い勝手が良いかなどについて、試行錯誤しながらプロトタイプを作り始めている」
佐藤氏はセッションの最後に、聴講しているユーザー企業、SI(システムインテグレーター)ベンダーのそれぞれに対するメッセージを述べた。
ユーザー企業に対しては「少しでも内製にチャレンジしたいという意思があれば、まず、これまでのような“丸投げ”をやめよう」と訴える。
「われわれが内製で活用しているAWSは、サービス部品の集合体のようなもの。それぞれの部品は、想像以上に高度化、多様化が進んでいる。その使い方をベンダー任せにしてしまっていると、どれが良いもので、自分たちに役立つものなのかが評価できない。まず、自分たちでそれらの部品を組み立て、出来上がったものを運転できるようになることを勧める。認定資格の取得などは“若い社員がやればいい”と考えている人もいるかもしれないが、それは間違い。監督する立場の人間が技術を理解できていないと、やりたいことの説明を受けても、その内容をジャッジできない。むしろ、そうした立場の人こそ、率先して資格を取るべきだ」
SIベンダーに対しては「内製化を進めているとは言っても、ベンダーが不要になるとは思っていない」と述べた。
「ただ、これからは“ユーザーに言われたことだけやる”という姿勢はやめてほしい。ベンダーこそ、新しいことをどんどん勉強して、ユーザーに教えてほしい。そうした関係性を通じて、ユーザーとベンダーが共にバリューアップしていければよいと思っている」
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