孫請け企業が雇った有期雇用エンジニアが元請け企業に転職希望のメッセージを送っていたために、契約を解約された下請け企業(ややこしい)。「ならばうちも」と孫請け企業との契約を解除したら訴えられてしまった。なぜだ!!!
謹んで新年のお慶びを申し上げます。
早いもので、本連載を始めてから11年余りが経過し、記事の数も130を超えることとなりました。当初は想像もしていなかった長い期間連載を続けられたのは、読者の皆さまのお支えあってのこと、改めてお礼を申し上げます。
この間、ITの世界ではアジャイル開発の普及、クラウド化、AI(人工知能)、量子など技術的にもプロセス的にも大きな変化がありました。ただ、本連載で取り扱うITプロジェクトを巡るさまざまな紛争は、ユーザー企業とベンダーをはじめとするさまざまな関係者の意思疎通不足、認識の食い違い、信頼の欠如といった「心」の部分に起因する、極めて人間らしさがもたらす事象であることは変わりありません。これは将来にわたっても変わることがないだろう、というのが私の予測でもあります。
技術が進歩し、システムの開発や運用、利用の在り方が変わっても、ITプロジェクトの完遂は関連する人間の心に大きく依存するものである。であれば、私のような文系人間による発信もいくばくかは皆さまのお役に立てるものと信じ、今後も学習と研さんを続けていきたいと考えるところです。
本年もよろしくお願いいたします。
IT訴訟事例を例にとり、システム開発にまつわるトラブルの予防策と対処法を解説する本連載。今回は、下請け企業が孫請け企業への契約を一方的に解除した事案を巡る裁判を取り上げる。
実は孫請け企業には契約解除されても致し方ない点があった。しかし、あまりに一方的な解除の場合は、それによって生じた損害を解除した側が賠償する責任が生じる。本件は、その点が争われた。
まずは概要から見ていこう。
最終顧客からシステム化の委託を受けた大手コンサル会社(以下、元請け企業)が、その一部(パッケージ導入作業の一部)をITベンダー(以下、下請け企業)に依頼し、下請け企業は別のITベンダー(以下、孫請け企業)にこれを委託した。孫請け企業はこれを、有期雇用契約を締結した技術者(以下、本件技術者)に委託した。
ところが本件技術者は、このプロジェクトの勤務時間中に、元請け企業から貸与されたPCとそこにインストールされた「Microsoft Teams」を使って、元請け企業のマネージングディレクターや人事担当者に対し、転職したい旨のチャットを送ったことが分かった。
メッセージの中にはプロジェクトの内部情報(営業秘密に該当する)も含まれており、これを問題視した元請け企業は下請け企業との契約を解約する旨を連絡し、これを受けた下請け企業は孫請け企業との契約を解除した。孫請け企業は仕事を完成できず(債務不履行)、対価の支払いの一部を受けられなかった。
これについて孫請け企業は、自身が債務を履行できなかったのは下請け企業の一方的な契約解除が原因であるとして、対価の支払いを求めて下請け企業を訴えた。
事件番号 令3(ワ)26424
本件技術者の売り込み行為は、元請け企業から貸与されたPCを使用したものであり、さらに営業秘密に関わる情報を送信した可能性もあることから、内部的な処分や契約上の制裁の対象となり得る。孫請け企業としても、その非を認めざるを得ないだろう。
だがそれとは別に「下請け企業が直ちに契約を解除したことは一方的過ぎる」と孫請け企業が考えるのも無理はない。
通常このようなケースでは、下請け企業と孫請け企業の間で協議が行われ、契約解除に至る場合でも損害賠償額などについて合意形成が図られる。そうした手続きを経ずに一方的に契約解除がなされることを孫請け企業が容易に受け入れられないのは理解できる。
契約では多くの場合、解除の条件を取り決めて契約時点で契約書に記し、それに該当する場合に解除される(約定解除)。契約書上に発生した事象に該当する取り決めがない場合は、法律の定めに従って契約解除可能かどうかが判断される(法定解除)。
法定解除は原則として、債務不履行の場合(本件では作業が完成しないこと)に限られ、しかも解除した側(本件では下請け企業)に何らかの責任があれば、解除により発生した損害の賠償を求められることになる。
本件の場合、孫請け企業は仕事を完成できなかったが、それは「下請け企業が一方的に契約を解除したからであり、そこで発生した損害(本来、支払いを受けられるはずだった対価)を下請け企業によって賠償されるべき」というのが孫請け企業の言い分である。
たった1日連絡しなかっただけで契約解除ってどういうことですか!?
何でスキル不足のエンジニアをアサインしたからって訴えられるんですか
取った資格は俺のもの、もらったお金も俺のもの
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