顧客企業のプロジェクトのために下請け企業が用意したのは、プログラミングのいろはも知らないエンジニア。結局、契約期間途中で退場することになったが、責任は誰が取るべきなのか――。
仕事を受注したが、メンバーのスキルが足りずにプロジェクトが失敗に終わった――。皆さまにはこんな経験はないだろうか。正直にいえば私にはある。
私の場合は幸いにしてそこまで大ごとにはならなかったが、こうしたことがあると自社に金銭的な損害を与える上、顧客に多大な迷惑を掛けるし、信頼も失墜する。スキル不足によってデスマーチ化したプロジェクトの中で、自信喪失したメンバーの心身が害されてしまうことが何より心配だ。スキルアンマッチは関係者を皆不幸に陥れかねない重大な問題である。
今回はこの問題を取り上げる。さまざまな争点を孕んだ複雑な事件だが、本稿ではスキルアンマッチの論点に絞って紹介していく。
ある企業(以下、元請け企業)が顧客企業からITプロジェクトの参加を依頼された。プロジェクトは顧客企業内で行われる開発であり、元請け企業にもメンバーを常駐させて顧客企業側メンバーと共に作業を行ってほしいというものだった。
元請け企業はこの依頼をそのまま別のIT企業(以下、下請け企業)に出し、下請け企業のメンバーAが顧客企業で作業を行うこととなった。
ところがAのスキルは顧客企業の望むレベルに達しておらず、元請け企業にクレームが入った。元請け企業は下請け企業に改善策の提示を求めたが、結果として交渉は決裂し、下請け企業は契約期間をまだ残したままメンバーを撤退させた。
顧客企業が元請け企業に残期間の費用を支払わなかったため、その相当額を損害として下請け企業に賠償を求めて裁判となった。しかし下請け企業は「この契約は事実上元請け企業側から解除したものだ」として、本来支払われるはずだった費用の支払いを求める反訴を提起した。
出典:Westlaw Japan 文書番号 2021WLJPCA12208002
1つ書き足しておくと、この要員のアサインは形態としては派遣に近いように思えるが、契約は業務委託だったようである。
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