「頼んだサーバ、PCが届かない……」 生成AI需要で狂うIT調達「待てば安くなる」は過去の話? PC調達難と価格高騰

生成AIの急速な普及と世界的な物価上昇が、企業のIT調達の前提を大きく変えつつあります。市場動向を整理しつつ、経営層との新たな合意形成の在り方を考えます。

» 2026年03月29日 08時00分 公開

 企業はこれまでにない構造変化に直面しています。生成AI(人工知能)の普及に伴うソフトウェアライセンス価格の上昇、AI需要によるハードウェア不足です。

 これらが同時に発生したことで、「必要なソフトウェアは高くなる」「必要なハードウェアは手に入りにくい」という二重の問題が、企業のIT部門を直撃する事態となりました。

 これまでIT部門は、ベンダーとの交渉や運用効率の向上によって、コスト増を「現場の努力」で吸収してきたいきさつがあります。しかし、現在の状況はもはや一部署の努力だけで解決できる範囲を超えつつあるのが実情です。IT調達の不確実性が高まる今、IT部門はその「戦い方」自体を見直す必要に迫られています。

AI統合を背景とした「ライセンス値上げ」が進む

 まず直面しているのが、主要ソフトウェアの相次ぐ値上げです。2026年7月1日に予定されている「Microsoft 365」の価格改定は、新機能の追加を理由に実施されるものであり、業務基盤として広く利用されているクラウドサービスの値上げは多くの企業に直接影響します。

Microsoft 365の新旧リスト価格比較(提供:Microsoft) Microsoft 365の新旧リスト価格比較(提供:Microsoft)

 ソフトウェア価格上昇の背景には、生成AIの統合が挙げられます。AI機能は従来のソフトウェアとは異なり、大量の計算リソースを継続的に消費する特性を持ちます。特に大規模言語モデル(LLM)の処理にはGPUなどの高価なインフラが必要となり、そのコストがライセンス価格に反映されやすい構造となっているのです。

 ユーザーにとってAI機能は大きな利便性をもたらす半面、ソフトウェアの価格構造そのものを変えつつある側面も否定できません。

 IT部門としては、単に「値上げされた」と受け止めるだけでなく、その機能が自社にとって本当に必要な投資なのか、あるいは代替手段が存在するのかを冷静に見極めることが求められます。

 ベンダーから突然の値上げ要求を受けるケースも少なくありません。ガートナージャパンは、リスク対応の基本である4つの原則「回避」「軽減」「移転」「受容」の観点から対策を検討する必要があると提言しています。

値上げリスクに対応する4つの対策(提供:ガートナージャパン) 値上げリスクに対応する4つの対策(提供:ガートナージャパン)

 ガートナーが提案するように、契約更新の直前に対応するのではなく、早期に交渉を開始し、ベンダー側の論理や価格構造を理解した上で交渉するなど、より戦略的な対応が重要です。

AI需要が招く「調達難」と価格高騰

 コスト増の波は、ソフトウェアだけではありません。ハードウェアの調達環境も大きく変わりつつあります。これまでIT機器は「待てば安くなる」と考えられてきました。しかし、その前提は崩れ始めています。

 AIサーバが大量のメモリや高性能ストレージを必要とすることから、AIプロバイダーがサーバ向けのメモリやストレージを買い占める事態が発生し、一般的な企業向けPCやサーバの調達にも影響が波及しています。

 本来、2025年度のPC市場は、「Windows 10」のサポート終了に伴う買い替えとAI PCの普及促進により、大きな需要が見込まれていました。しかし、メモリ不足による価格高騰が、買い替え控えを招いたのです。

 この余波は現在も続いており、調査会社IDCの予想では、2026年のPC市場規模は当初予測の2.4%減に対し、最悪の場合8.9%減となる見込みです。加えて、平均販売価格も最大8%上昇する可能性があるとの予測が示されました。

悪化が見込まれるPC市場(提供:IDC) 悪化が見込まれるPC市場(提供:IDC)
世界のPC出荷台数と成長率の推移(2016〜2025年)(提供:Omdia) 世界のPC出荷台数と成長率の推移(2016〜2025年)(提供:Omdia)

 「予算は確保できているのに、希望するスペックのPCが納期未定で入手できない」といった事態も報告されるようになりました。こうした調達難の課題はIT部門の問題にとどまりません。PCやサーバなどのリプレースが遅れれば、デジタル化推進や業務効率化が停滞し、企業のビジネス継続そのものに影響を及ぼす懸念すら生じます。

 IT部門は、既存デバイスの延命運用を検討する一方で、早期発注や調達ルートの多角化など、より戦略的な調達計画を立てる必要に迫られているといえるでしょう。

IT部門の戦い方はROIから「COI」への視点転換

 こうした状況の中で、IT部門が最も注力すべきは「経営層との合意形成」といえます。

 従来のIT投資は「導入すればどれだけ利益が出るのか」というROI(投資対効果)の観点で評価されることが一般的でした。しかし現在のような不確実性の高い環境では、「今、投資の意思決定をしないことで将来的にどれだけ損失が発生するか」という「COI」(Cost of Inaction:不作為による損失コスト)の視点を持つことが不可欠です。

 新入社員のPC調達をコスト削減のために先送りした場合を考えてみましょう。目先のコストを惜しんだ結果、以下のような目に見えない損失が膨らむ可能性があります。

  • やむを得ずサポート切れの旧型機を延命利用することによる重大なセキュリティリスク増
  • 代替機の頻繁なトラブル対応に追われるIT部門の工数増
  • 端末の処理速度低下に伴う、日常業務の生産性低下

 さらに調達難に直面すれば、この状況はより長期化しかねません。PCと同様の問題はサーバでも、ソフトウェアでも起こるといえるでしょう。コスト削減のためにライセンス更新を遅らせたり、旧バージョンの利用を続けたりすると、サポート終了によるセキュリティリスクや運用コストの増大につながるためです。

 このように、短期的なコスト削減の判断が、結果としてより大きなコストを生むケースは珍しくないのです。だからこそ経営層に対し、「この方針は短期的なコスト削減になるが、将来的にはこれだけの損失リスクを伴うことになる」と数値で示すことが重要です。これは、ビジネスリスクを可視化し、経営層とともにリスクへの対応方針を検討する上で重要なプロセスとなります。

 この局面でIT部門に強く求められるのは、技術的な専門知識に基づく判断にとどまらず、市場の調達リスクやコスト高騰が自社の競争力低下に直結するという現実を、単なるITの課題ではなく「経営課題」として共有する姿勢でしょう。

 「ライセンス値上げ」や「調達難」といった外部環境の変化は、IT部門の努力だけでコントロールできるものではありません。「自部門でコントロールできること」と「外部要因による不可抗力」を明確に切り分け、経営層に示すことが欠かせません。

 曖昧なまま現場でつじつまを合わせるのではなく、将来起き得るビジネスリスクを可視化し、組織全体で議論する。そして経営層は、IT部門の現場感覚に耳を傾けながら、戦略的な投資判断を下す。こうした双方向のコミュニケーションこそが、不確実な時代に企業が競争力を確保し、ビジネス価値を高め続けるために不可欠なアプローチとなるはずです。

 外部環境が大きく変わりつつある今、IT部門と経営層が共通のリスク認識を持ち、調達やIT戦略の在り方を見直すことが求められているのです。

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