普通の企業で「コーディングエージェント」を定着させるための3ステップ OpenAI Japan瀬良氏が説明「認知負債」「理解負債」の課題にどう向き合うべき? 見解を聞いた

生成AIが外部のツールやデータを駆使し、複数のステップを自律的に実行できるAIエージェントへと進化する今、コード補完や不具合の修正といった補助ツールとしての位置付けのままでは真の価値を引き出すのは困難だ。OpenAI Japanの瀬良氏がコーディングエージェントの真の価値を引き出し、組織に定着させるための「3つのステップ」を解説した。

» 2026年04月22日 05時00分 公開
[石川俊明@IT]

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 Microsoftは2026年2月、「AI(人工知能)モデルの進化のスピードと、企業におけるAIの使い方との間のギャップが急激に拡大している」との見解を示した。生成AIが「複数のステップを自律的に実行し、目標を達成できるAIエージェント」へと進化を加速させた一方、多くの企業がその能力を生かし切れていないという見方だ。

 多くの企業で生成AI活用が最重要課題になると同時に、ソフトウェア開発の現場でも生成AIの利用は常態化しつつある。だが、コードを補完させたり、エラーを修正させたり……といった旧来の使い方のままでは、最新のコーディングエージェントがもたらす価値を引き出すことは困難というわけだ。

 では、どうすれば普通の開発組織において生成AIを補助ツール止まりにせず、自律的に業務を遂行させる段階までステップアップさせられるようになるのか。真の価値を引き出すためにはどのような取り組みがポイントなのか――2026年4月8日に開催された記者説明会で、OpenAI Japanの瀬良和弘氏が、3つのステップを解説した。

「コーディングエージェントはインテリジェンスに優れた新人」

 OpenAIは対話型サービス「ChatGPT」の他、コーディングエージェント「Codex」を提供している。2026年3月までに提供を開始した「Codex アプリ」は、複数のタスクを並行して実行するエージェントを管理する「オーケストレーションツール」として位置付けられている(関連記事)。瀬良氏によると、公開からわずか1年足らずでグローバルでの週間アクティブユーザー(WAU)が300万人を突破したという。

Codex アプリの画面(提供:OpenAI) Codex アプリの画面(提供:OpenAI)

 瀬良氏は「2025年後半からのモデルとツールの進化により、現在はタスクの実行をAIエージェントに100%任せ、人間は意思決定や細かい調整に注力するスタイルへと移行しつつある」と説明する。

 では、コーディングエージェントを組織に定着させ、真の価値を引き出すためにはどうすればよいのか。1つ目のステップとして瀬良氏はまず「『インテリジェンスに優れた新人』として扱うこと」を挙げた。

OpenAI Japan Developer Experience Engineer 瀬良和弘氏 OpenAI Japan Developer Experience Engineer 瀬良和弘氏

 「インテリジェンスという観点では、個々のソフトウェア開発者をしのぐ能力を持っているといっても過言ではありません。ただ、だからといっていきなり巨大なシステム改修を任せるべきでもありません。新しく組織に加わったメンバーへのオンボーディングのように、まずは『AGENTS.md』(関連記事)の整備や簡単なテストコードの追加など、スコープを絞ったタスクから与え、コーディングエージェントがどのような挙動をするのかを人間が理解すると同時に、コーディングエージェントにもプロジェクトを理解してもらう。『人間がツールに慣れ、ツールを環境に慣れさせる』ことが重要です。Codexの場合、1個の画面でエージェントによる作業が並列で動く仕様であることを理解し、開発者自身の作業スタイルを再構築することも大切です」

エージェントの良さは分かった では、どう組織に展開すべきか

 2つ目のステップは、部門、組織全体にコーディングエージェントを広めることだ。

 瀬良氏が普段対話するソフトウェア開発者やIT部門の担当者の多くは、既にCodexの有用性を十分に理解している。だが、「コーディングエージェント(Codex)をどのように部門や全社に展開し、定着させていくか」という点で課題を感じているという。

 そこで瀬良氏はポイントとして「標準化」を挙げる。エージェントの作業手順を「Skill」(関連記事)として定義し、チームの共有ディレクトリ(.codex/agent/skillなど)に配置する取り組みだ。

 こうした標準化の取り組みは、チームの開発ワークフロー全体に拡張できるという。瀬良氏はその実例としてOpenAI社内の取り組みを紹介した。タスク管理ツールの「Linear」とGitHubを連携させ、Codexのクラウド機能を活用した開発ワークフローの標準化だ。

 OpenAI社内のSlack上で「この機能に不具合がある」という会話が出た際、「@Codex」とメンションを飛ばして修正を依頼すると、Linearでタスクとして起票され、Codexが自律的にコードを修正する。作業が終わると、Slack上でCodexから「完成しました」と自動通知が来る仕組みが整備されているという。

Slack連携によるCodex活用のイメージ(OpenAIの開発者向けドキュメントより) Slack連携によるCodex活用のイメージ(OpenAIの開発者向けドキュメントより)

 つまり、コーディングエージェントを個人のエディタの中に閉じ込めるのではなく、チームが普段使っているコミュニケーションツールやタスク管理ツールの裏側に組み込むことで、開発者や関係者同士の日常会話を起点に、開発プロセス全体が自律的に回る状態を構築できる。コーディングエージェントを組織に定着させるための強力な足掛かりになるというわけだ。

長時間の自律稼働を実現する「ハーネスエンジニアリング」

 組織展開をさらに推し進め、コーディングエージェントの完全な自律稼働へと導くための重要な取り組みとして瀬良氏が解説したのが、3つ目のステップである「ハーネスエンジニアリング(Harness Engineering)」だ。

 コーディングエージェントに複数の複雑なタスクを任せようとする場合、AGENTS.mdが数千行と肥大化する可能性がある。そこで瀬良氏はAGENTS.mdを「地図」のように扱うアプローチを推奨するという。

 「どういう状況のときに、どこにアクセスすべきかという『経路』をAGENTS.mdで整備します。作業手順はSkillとして切り出して参照させ、外部ドキュメントが必要なら都度読ませます。『Chrome DevTools』を使って画面の確認を半自動化したり、メトリクス(評価指標)へのアクセス経路を整備したりします。これらのハーネス(制御)により、エージェントはユーザーの指示を必要とせずに自律的に業務を遂行可能になるのです」

「認知負債」「理解負債」とどう向き合う? 瀬良氏の回答

 この3つのステップを守ることで、開発組織全体でコーディングエージェントから価値を引き出せるようになるというわけだ。だが、実務への適用を考える上では気になる点もある。

 コーディングエージェントが生成したコードを開発者が十分に理解しないままプロジェクトに取り込むことで、後からそのコードを理解するためのコストが膨らむ「理解負債」や、コーディングエージェントに設計や実装を任せるほど、開発者自身がシステム全体を理解できなくなってしまう「認知負債」という落とし穴だ(関連記事)。

 これらの負債について見解を求めると、瀬良氏は「(認知負債や理解負債の問題は)使い方によっては起き得る話です」と率直に認めた上で、その負債を解消する鍵こそが、先述したハーネスエンジニアリングにあると強調した。

 「一行一行のコードを人間が目視で確認し理解するというのは困難です。重要なのは、コードの一貫性が保たれているかどうかを検証するプロセスの整備です。ユニットテストやAPIエンドポイントの接続確認、エッジケースの検証などもコーディングエージェントが自律的に検証できるよう整備しておく。Codex自身によるレビューと検証プロセスを通ったコードが一貫性を持って動いていれば、人間側の理解負債を抑え、負債の蓄積を防ぎつつ、安全性も確保できるのです」

 またソフトウェア開発において積年の課題である「他人の書いたコードを読み解くこと」に対しても、Codexは有効になるという。

 「普段担当しているプロジェクトではハーネスが整っているためコーディングエージェントの自律稼働は進んでいます。問題なのは『他のプロジェクトにヘルプで入ったとき』です。その場合は私自身も、対象のプロジェクトを理解するための『壁打ち相手』としてCodexを活用し、キャッチアップを早めるようにしています」

Codex活用における最大の注意点

 そして最後に、コーディングエージェントに業務を遂行させる上での注意点として瀬良氏が挙げたのが「外部サービスとの連携におけるリスク管理不足」だ。

 「GitHubなどで公開されているMCP(Model Context Protocol)サーバやSkillsの実行内容や連携先を人間が精査することは欠かせません。自律的に業務を遂行できるとはいえ、重要な業務を遂行させる場合には実行前に人間への実行確認フェーズを設けるといった工夫も大切です」と、注意を促した。


 瀬良氏が説明したように、ソフトウェア開発者に求められる役割は「コーディングエージェントがいかに迷わずタスクを遂行し続けられる環境を整備できるか、ハーネスエンジニアリングにどれだけ取り組めているか」へと変化しつつある。

 Microsoftが指摘する「AIの進化と企業の使い方とのギャップ」を埋めるのは、組織がこれまで築き上げてきたソフトウェアの開発プロセスを、AIの進化を踏まえ刷新し、マインド変革を果たせるかどうかに懸かっている。

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