サンディさんの歩みを振り返ると、常に「未知の環境へ飛び込む挑戦」の連続であったことが分かる。10歳での来日に始まり、大学でのコンピューターサイエンス専攻、学外ではさまざまなアルバイトやヒップホップダンスにも挑戦した。
そんな彼女は、就職活動でもあえて「未知」の道を選んだ。
当初はアルバイトで経験のあった営業職を目指し、安定した企業の内定を得ていた。しかし10年後の働き方を自問自答した結果、内定を辞退。創業間もないベンチャー企業であったdivxへエンジニアとして入社することを決意した。
「新しい会社なのでインターネットで調べても情報が出てこなくて、『どうしよう』って思っていました。でも、会社に伺って働いている人の雰囲気や顔を見た時に、将来自分もその顔になるって思ったら悪い気はしなかったんです。自分の感覚を信じようっていうのと、『どちらかに迷うなら、チャレンジする方を選ぼう』という気持ちでdivxを選びました。結果的にめちゃめちゃ大正解だったと思っています」
社長面接で「いままでで1番の挫折は?」と聞かれたときのことを、彼女はいまでも鮮明に覚えている。
「もともと目指していたものよりうまくいかなかった経験ならあるけれど、それは失敗や挫折ではない、なぜなら、これまでの蓄積がいまにつながっていて、いまが一番いいと思っているからって答えたんです。そうしたら『おもろいじゃん』と私の考え方を受け入れてもらえました」
自身の至らなさに気付きつつも、それを前向きに捉え直し、次の一歩を踏み出す。このしなやかさは、彼女の最大の強みと言えるだろう。
サンディさんの歩みと仕事術は、AI時代を生きる全てのエンジニアにとって多くの示唆に富んでいる。
第一に、AI時代に価値が増すのは「人間特有のコミュニケーション」である。プログラミングやデータ解析の自動化が進む一方で、ステークホルダー同士の相反する意見を調和させたり、顧客の抽象的な思いを定義・言語化したりするアクションは、AIが苦手とする領域だ。「主語を自分にする」「対等な関係を築く」といった意識的なアプローチで、対話しづらい領域を解き明かす力は、エンジニアの強力な差別化要素となる。
第二に、不確実性の高い時代を生き抜くための「未知へのチャレンジ精神」だ。10年後の完璧なキャリアプランに固執するのではなく、変化する状況に応じて自分の役割を柔軟に変えていくスタンスが、これからは重要になる。失敗を恐れて立ち止まるのではなく、「取り返しのつかない失敗などそうそうない」と肩の力を抜き、必要とされる場所へ果敢に飛び込んでいく姿勢が求められる。
最後に、若手エンジニアやこれから新たな一歩を踏み出す人々に向けた、サンディさんの言葉を紹介したい。
「入社したての頃は、ミスや失敗を『この世の終わりだ』くらいに思ってしまいがちですが、ちょっと上のレイヤーの人から見たら、それは砂場で転んだレベルで大したことないんです。取り返しのつかないミスなんて、そうそうない。だから、楽しんで肩の力を抜いて仕事をするといいと思います」
正解のない時代だからこそ、恐れずに未知へ飛び込み、丁寧に対話する。彼女の生き方と仕事術は、これからのIT業界を担うエンジニアにとって明快な指針となるはずだ。あなたは明日からの開発現場で、どんな「言葉」を主語にして会話を始めてみるだろうか。
笑顔の明るいこと! 大きな瞳がクルクル回り、オレンジ色のT-シャツがよく似合う。太陽みたいな人だ。
まったく日本語を知らずに小学4年生で来日した少女は、その明るさと物おじしない精神、そして謙虚にひたすら学ぶ姿勢で、入社3年でPMを任されるまでになった。学生時代の勉学やバレーボール、アルバイト、趣味のヒップホップダンス、大学でのリベラルアーツの専攻、それら全てを愚直に吸収した結果だが、彼女に会えばその秘訣(ひけつ)は明白だ。
人の役に立ちたい、世界に必要とされる価値のある人になりたい、その一心で、学業に、仕事に向き合ってきた。身に付けた人文知がブレることなく、その上にITスキルが積み上げられれば、どんな時代も生き抜ける。彼女なら、自らに問いを立て続け、AIを部下に従えて、活躍し続けるだろう。
アイティメディア 事業開発局 グローバルビジネス戦略担当、情報経営イノベーション専門職大学(iU)学部長、教授、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(KMD)元特任教授、インタビュアー、作家、翻訳家
コンサルタントを経て、AppleやDisneyなどでマーケティングの要職を歴任。大学在学時から通訳、翻訳も行い、CNNニュースキャスターを2年間務めた。現在、iU情報経営イノベーション専門職大学の学部長、教授も兼務し、多くの企業とプロジェクトを推進。元神戸大学経営学部非常勤講師、元立教大学大学院MBAコース非常勤講師。ビジネスや起業のコンサルティング、英語やコミュニケーション、プレゼンテーションのトレーナーの他、作家、翻訳家としても活躍中。
来日した頃のサンディさんと同じ10歳の時、私も転校を経験した。一人っ子にとって人見知りや受け身な姿勢は「即死」を意味する。焦った私は既存のコミュニティーに早くなじもうと積極的に出て、空回りしたり悪目立ちしたり、さまざまな経験をした。
国内での転校でも摩擦が生じたのだから、言葉が通じず生活習慣も違う国からやってきたサンディさんは、もっといろいろなことがあっただろう。身振り手振りでコミュニケーションを図る小さな女の子を想像したら、胸がいっぱいになった。
「陽キャ」は天性のものだと思う人もいるかもしれない。だが、そうとは限らない。ベースが明るく前向きであることは持って生まれた要素の一つであるが、陽気を保ち周囲も陽気にするためには、自らの気分をコントロールする思慮深さと学びの姿勢が必要だ。その意味で、サンディさんは「本物の陽キャ」だ。彼女を素敵な陽キャにしてくれたご家族や周囲の方々に感謝したい。
なお、サンディさんは高校生の頃「はなまるうどん」でアルバイトをし、釜マイスター、天ぷらマイスター、対面マイスターの3つを取得したトリプルマイスターだったという。お勧めは「ゆずとろろ昆布」とのこと。
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