転職における資格の落とし穴:転職失敗・成功の分かれ道(14)
毎日、人材紹介会社のコンサルタントは転職希望者と会う。さまざまな出会い、業務の中でこそ、見えてくる転職の成功例や失敗例。時には転職を押しとどめることもあるだろう。そんな人材コンサルタントが語る、転職の失敗・成功の分かれ道。
転職に資格は必要か
最近、転職の相談にいらっしゃるエンジニアの方(特に20〜30代前半の方)で、「転職活動を有利に進めたいため資格を取ろうと思っています」という方が多くなりました。
ただでさえ毎日ハードワークをこなされているにもかかわらず、資格取得のため、さらにひたむきに努力されているというお話を伺うたびに、頭が下がる思いでいっぱいになります。自己啓発という意味での資格取得は本当に素晴らしいことだと思います。
しかし、こと転職のための「アイテム(=武器)としての資格」を考えたときに、その努力とは裏腹に落とし穴(=ウィークポイント)となり得る場合もあります。
今回はこの「転職における資格の落とし穴」について少しお話ししてみたいと思います。
資格の落とし穴1:資格だけがアピールポイントだと
弊社に転職相談に来られた酒井さん(仮名26歳。男性)は、すでに会社を退職して3カ月たっていました。前職では派遣系のシステムエンジニアリングの会社にてクライアント先に常駐で、ヘルプデスクの1次受付のお仕事をしていました。
退職理由は「ネットワークエンジニアとして、最終的には大規模ネットワークの設計・構築の仕事に携わりたいため」とのことで、退職後、現在非常に人気のある某大手ネットワーク機器ベンダの認定資格を独学で取得しました。その資格を武器にして、ネットワーク構築を手掛けている企業を数社受けたのです。
どの企業も書類選考は通過するのですが、面接の結果はいつもNG。そこで、酒井さんの何が問題だったのかを詳細にヒアリングをしたところ、以下の問題点が浮かび上がってきました。
資格だけのアピールがマイナスポイントに
酒井さんを実際に面接していただいた企業の人事担当者に「不採用の理由」をお聞きしたところ、ほぼすべての担当者から「(酒井さんから語られる)アピールポイントのほとんどが、資格取得に関することに終始していたため」とのコメントをいただきました。
ある企業の人事の方は「(酒井さんが)取られた資格というのは、確かに弊社でもニーズの高い資格です。ただし、あくまで面接時の評価ポイントとなるのは即戦力としての実務経験であり、“資格イコール即戦力”とは結び付けません。
酒井さんの場合、『ヘルプデスクという業務経験から何を学んで、どのように当社の業務へ貢献していただけるか?』という点が一番聞きたいところでした。(中略)正直なところ、実績・スキル共に不足しているのは職務経歴書よりわれわれも認識しているため、そのギャップをどのように現場でキャッチアップしていこうと思っているのか……。そのあたりをお聞かせいただければポテンシャルにて十分(採用の)可能性があったと思うのです。が、『資格を持っているので(業務経験がなくても)大丈夫です』の一点張りでは、ほかに人物的なものを含めアピールポイントはないのか、ということになり、結局のところ不採用とさせていただきました」とのことでした。
また別の会社の人事の方は「(酒井さんの)持っている資格は、難易度的に会社を辞めるまでして取るほどのものではないし、もし必要であれば入社後に会社の制度で取得いただくことも可能なので、ほとんど評価ポイントにはなりませんでした」とのことでした。
このような状況を酒井さんに対してフィードバックし、面接時には資格よりもいままでの業務を通じて得た経験を基にしたアピールへ比重を置くようアドバイスをしたところ、見事に希望のキャリアが望めそうな会社より内定が出ました。
資格の落とし穴2:資格取得が目的化
またケース1とは別に「資格取得そのものが目的化してしまった」というケースもあります。
弊社に転職活動の相談に来られた山口さん(仮名・31歳・女性)は、大手システムインテグレータでシステム開発の要件定義・設計などの上流工程に携わっていました。将来は、より経営に近いポジションでのコンサルティングをしてみたいとのことで、ここ数年は中小企業診断士の資格を取るために仕事を続けながら試験勉強をされていました。
しかし、業務多忙のためなかなか勉強時間を確保することができず、その問題を解決するため勤務条件の緩やかな会社へのご転職をお考えでした。そこで弊社での面談時に、将来やりたいことを中心にお話を整理させていただいたところ、彼女がキャリアアップのために考えている過程が以下のロジックで成り立っていることに気が付きました。以下のカッコ内は、山口さんが考えていらっしゃったことです。
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山口さんとしてはまず、(4)の課題(資格取得のための勉強時間がない)を解消するために転職相談に来られたわけですが、お話をしていくうちに最終的なキャリアパスを目指すうえで、(3)と(4)の過程が本当に必要なのか、という疑問に突き当たりました。
自分のキャリアパスに本当に資格は必要か
そこで、山口さんに対して、以下のような提案をさせていただきました。
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つまりは当初、山口さんが思い描いていた「資格取得によるスキル習得→キャリアアップ」という図式を「実務経験を積める会社へ転職することによるスキル習得→キャリアアップ」へと置き換えてみたのです。
結論としては、私どもの提案にご納得いただいたうえでコンサルティングファームを数社受けて、その中から1社の内定を見事勝ち取られました。これにより実務経験を積みながらスキルを磨きつつ、さらに将来的なものと考えていた仕事に就けた、という満足度の高い転職を実現されたのです。ちなみに現在も、実務経験で得た知識を補完するという位置付けで、山口さんは資格取得の勉強を進められているようです。
目的を明確にしたうえで資格を取ろう
資格を取ることは、時間的にも費用的(自己負担の場合)にも個人に負担の掛かる行為であると思います。特に転職を有利にするために資格取得をお考えになられる場合、その転職の目標・目的と整合性が取れた資格を選ぶ必要があります。このような場合に考慮した方がよいと思われるポイントを以下まとめてみました。
(ア)基本は「実務経験>資格」であるということ
転職に際しては、資格が応募条件の必須項目ではない限り、実務経験が優先することはほぼ間違いありません。面接対策としては、いままでの実務経験より導き出されたアピールポイントを整理し、資格はそれらを補完するという位置付けでアピールできるようにしましょう。逆に、実務経験とリンクする形で資格を持っている場合には、非常に強いアピール材料となります。
ただし、キャリアチェンジをお考えの場合には、資格取得をお勧めするケースがあります。例えば、ITエンジニアから経理職へキャリアチェンジを図る場合は、「業務上必要となる知識の習得」と「(キャリアチェンジへの)やる気のアピール」として、簿記などの資格取得をお勧めします。しかしこのような場合でも、ITエンジニア時代に培ったビジネススキル(コミュニケーションスキルや論理的思考スキルなど)をアピール材料として盛り込む必要があると思います。
(イ)何のための資格かを再確認すること
弁護士や公認会計士のような「職業に直結する資格」は、実際にはさほど多くないというのが現状です。「自分のやりたい仕事」へ就くために本当に資格が必要なのか、特にこれから資格取得のために勉強を始めようと考えている方は、その点をもう1回確認してみることをお勧めします。どのように確認したらよいか分からない方は、ぜひ人材紹介会社にご相談ください。
(ウ)転職と資格取得のタイミングを確認すること
この点は、転職のためにこれから資格取得を考えている方が対象となりますが、転職を希望している時期と資格取得のタイミングが一致しているかを確認してみてください。
資格によっては、試験が年1回というものもあり、そのタイミングで合格しないと転職も1年後、という事態にもなりかねません。特に20代後半の方の場合には、その後のキャリア形成にも影響を与えかねませんので、資格取得までの期間と転職を考えているタイミングについては、あらかじめ計画して整合性が取れていることを確認してみてください。
著者紹介
クイック 守田英人
大学卒業後、某大手メーカー系システム開発会社に入社。自社パッケージ製品の設計から開発・導入までシステム開発の全工程を幅広く担当。その後、クイックに転職し、求人企業担当とコンサルタントを兼任。前職の経験を活かしたきめ細かいヒアリングにより、求職者のニーズに合わせた精度の高いコンサルティングを得意とする。米国CCE,Inc. GCDF-Japanキャリアカウンセラー。
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