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「アサーションスキル」で自分も相手も大切にしよう心の健康を保つために(8)(2/2 ページ)

ITエンジニアの周りにはストレスがいっぱい。そんな環境から心身を守るためのヒントを、IT業界出身のカウンセラーが分かりやすく伝えます。

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アサーションスキルで、自分も相手も尊重しよう

 行動、特にコミュニケーションにおける表現をどのように変えていったらいいのか、そのヒントになるのが「アサーションスキル」です。

 対等で率直、自分にも相手にも誠実な、お互いを尊重する態度を「アサーティブネス」といい、こうした態度に基づく表現スキルがアサーションスキルです。

 いいたいことをいわずに引っこめてしまったり、相手を責める表現や皮肉を使ったりすることなく、自分も相手も尊重したうえで、自分の意見を適切ないい方で伝える方法です。

<NOといいたいとき>

 Aさんの場合でしたら、

 「先輩が忙しいのは分かるのでお引き受けしたいのですが、いまの仕事量以上はまだ体力的に無理なので、今回はお受けできないんです。申し訳ありません」

のように、はっきりNOといい切ることがポイントです。怖くても、びくびくせずにいいましょう。

 嫌われるのが怖いからとYESばかりいっていると、心の中に不満がたまり、それが相手との関係に影響します。結果として、相手との関係がぎくしゃくしてしまいます。

<ポイント>

頼まれたときの体の反応をチェックしてください。のどがきゅっと締まった感じがする、体がぐっと硬くなる、胃のあたりが重くなるなどは、「嫌だなあ」のサインかもしれません。

 サインに気付いたら、まず心の中で自分に「そうか、嫌なんだよな」と伝え返してあげましょう。少し落ち着いた感じになれて、NOをいいやすくなります。

断った自分を責めないこと! 断ったのは用件であり、相手を否定したわけではないのですから。

<頼みたいとき>

 Bさんの場合は、

 「いま忙しいかな。実は△△△の仕事なんだけど、×××の打ち合わせが入っちゃって時間が足りないんだ。代わってくれたらすごく助かるんだけど、どう?」

と、頼む理由、頼みたいという気持ちを伝えます。

 「何でやらないんだ!」と責めてしまっては、相手も「聞きたくない!」となってしまいます。

 よくある失敗は、「あのときもやってくれなかった」と過去のことやほかのことを持ち出してしまうこと。いま頼みたいことに絞って話しましょう。

<ポイント>

自分の意見や気持ちを率直に伝えるということは、それを「押し通す」こととは違います。あなたに頼む権利があるのと同じように、相手にも断る権利があるのです。

 断られた場合でも、条件を変更すれば引き受けてもらえることがあります。それは、相手の事情を受け止めることにもなります。

相手が引き受けてくれたら、感謝を伝えることはもちろんですが、頼んだことがその後どうなったかを後日報告しましょう。「あの件、うまくいったよ。ありがとう!」などといわれると、頼まれた方も気持ちがいいものです。

 アサーションスキルでは、誰も犠牲者になることはありません。これは自分の気持ちを誠実に扱うことで自分を大切にし、他者との関係を大切にする方法なのです。

 このようなコミュニケーションを重ねることで、Aさんのような人もBさんのような人も、思い込みを少しずつ変えることができます。そして、自分への自信も培うことができるでしょう。

参考:フリー百科事典「ウィキペディア(Wikipedia)」の「アサーション・トレーニング」のページ


事例は普段の相談活動をアレンジしたものです。個人のプライバシーに配慮し、設定や状況は実際とは変えてあります。


著者紹介

ピースマインド 石川賀奈美

臨床心理士、産業カウンセラー。米国フォーカシング・インスティチュート認定フォーカシング・トレーナー。現在、ピースマインドで成人を対象に幅広い相談に応じるとともに、定期的に企業に赴き、社員のカウンセリングを行う。高齢者虐待防止に関連し、在宅介護者のカウンセリングにもかかわっている。著書に『SEのためのうつ回避マニュアル 壊れていくSE』(翔泳社刊、分担執筆)がある。

「出口のないトンネルはない。しばし、一緒に光を目指して歩いていきましょう」



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