不安に駆り立てられて働く人への処方せん心の健康を保つために(5)(1/2 ページ)

ITエンジニアの周りにはストレスがいっぱい。そんな環境から心身を守るためのヒントを、IT業界出身のカウンセラーが分かりやすく伝えます。

» 2008年09月23日 00時00分 公開
[石川賀奈美ピースマインド]

 常に目の前にある仕事。毎日、それをこなすだけで精いっぱいな人も多いと思います。

 そういう自分を突き動かしている“もの”は何でしょうか。その存在について、ちょっと考えてみませんか。

きちょうめんなITエンジニアのDさん

 Dさんは31歳の男性システムエンジニアです。性格はきちょうめんでまじめといわれます。

 「いつも何かしていないと落ち着かないんです」というDさん。仕事は細かい点まで配慮した仕事ぶりで周りから信頼されています。

 趣味は、ジムに通って体を鍛えることです。「どこの筋肉をどう鍛えたい」という目標を持っていて、きちんとトレーナーについてプログラムを組んでもらい、それに基づいてトレーニングをしています。

新リーダーとうまくいかない

 Dさんは、最近チームリーダーとして異動してきたFさんと、どうもそりが合いません。

 Fさんは、良くいえば大らか、別のいい方をすれば大ざっぱな人です。仕事の割り振りや指示も大まかです。しかもDさんの仕事の仕上がりに、「こんなに細かいことまですることはない」と文句をいうのです。

 最初はただ困惑していたDさんですが、だんだん自分が認められないことへの不満が出てきました。「これまでは、このスタイルで評価されていたのに!」。2人は何度か話し合う機会を持ちましたが、話は平行線をたどるばかり。Fさんは、「もっとポイントを押さえて、効率良くやってほしい」と主張します。

すっかり自信を失ったDさん

 これまでの仕事のやり方を否定されたように感じたDさんは、だんだん自信を失っていきました。

 確かに、Dさんは資料作りなどには時間をかける方です。時には遅くまで残って仕事をすることもあります。「効率も大事なのかな」と思い、Fさんにいわれたように仕事の仕方を変えてみました。ところが、省略したり手を掛けなかったりした部分が気になり、不安に感じるようになってしまいました。

 「あの部分をほかの人から指摘されたらどうしよう……」。夜、ふとんに入ってからも、気になって眠れないことがあるほどです。

 そしてある日の朝、通勤電車で、動悸(どうき)や息苦しさなどのパニック症状が起きてしまいました。医療機関にかかったうえで、Dさんはすっかりうなだれた様子でカウンセリングに来ました。

不安を原動力にして頑張ってきた

 Dさんはいいます。「効率は大事だと、頭では分かっているんです。でも……」。あらゆる部分に力をかけないと気が済まないのだそうです。

 「そうじゃないと不安で、不安で」。仕事の量は多くなるので体はつらいのですが、そうしないと不安で仕方ないため、そうしてきたということでした。

 「つらかったけれど、頑張ってきたんですね。でも、このままこのやり方をずっと続けていたら、どうなったでしょうね?」と問い掛けると、「最近目も悪くなってきたし、体を鍛えていても疲れが残るようになってきました。このまま続けていたら、いずれ無理が利かなくなっていたでしょうね」と寂しそうな表情で答えてくれました。

 Dさんのように不安を原動力に仕事をしている人は、案外多いのではないでしょうか。上司に注意されるのが怖いから、評価にかかわるから、仕事がなくなると困るから……。

 特に成果主義が導入されている企業では、短期間での業績が問われ、常にプレッシャーがかかっている状態です。気を抜いてはいけない! と不安に感じるのも無理はないと思います。しかし、ずっと止まらずに走り続けていたら、Dさんがいうように体がついていかなくなってしまうのではないでしょうか。

 きついけれど頑張る→期待されて負荷が追加される→期待に背くことができないので頑張る→さらに負荷が追加される

 こんなスパイラルになってしまわないでしょうか。Dさんのパニック症状は、心の息切れ状態を示していたのかもしれません。

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