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IT資本論──なぜ、IT投資の効果はみえないのか? |
●近 勝彦=著
●毎日コミュニケーションズ 2004年12月
●1600円+税 4-8399-1646-2 |
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IT産業で働くインフォメーション・ワーカー、組織に改革をもたらし価値的創造をもたらすナレッジ・ワーカー(中間管理職)、ナレッジ・ワーカーを導くインテリジェント・ワーカー(企業家)にターゲットを絞り、3つのジレンマと8つのパラドックスについて解説する。ジレンマのパートでは、IT投資効果がないように見える理由を明らかにし、パラドックスのパートでは、IT投資によるさまざまな矛盾について、正と負の効果を同時に発生する可能性についてをまとめている。
IT資本は、根元的に2つの効果をもたらす力がある。1つは経費削減で、もう1つは付加価値の増大だ。これらを実現しながら、業界内および業界間で熾烈な競争的効果も実現する。「SISはもう古い」というがこれはなくならないもので、そこに新しい息吹と力を付与するのは、新しいビジネス戦略の創造であり、クリエイティブなナレッジが競争的に必須だ。この持続的な努力が既存産業の再生の鍵になる、と指摘する。
構成は、ジレンマやパラドックスについて例を挙げて説明し、その論を補足するために実証データを掲載する形をとる。通して読むというよりは、IT投資の意義を探すときなど、必要な項目を拾い読みするのが良さそうだ。(ライター・生井俊) |
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ITポートフォリオ戦略論──最適なIT投資がビジネス価値を高める |
●ピーター・ウェイル、マリアン・ブロードベント=著、マイクロソフト株式会社コンサルティング本部=監訳、福嶋俊造=訳
●ダイヤモンド社 2003年8月
●3200円+税 ISBN4-478-37425-2 |
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適切なIT投資はどうあるべきか? という議論は古くからあるが、近年IT-ROIなど再び話題になっている。
本書は、世界各地の企業を調査した結果などから、ビジネス上の価値を生み出すためのITインフラを構築するための手法として「ITポートフォリオ」によるアプローチを提唱するものだ。ITポートフォリオとはIT投資全般をリスク・リターンや事業戦略、株主価値などの面を含めてバランスを取って考えていくこと。ポートフォリオ内のさまざまなIT投資は役割と特徴が異なり、最適投資のためにはその理解が必要だとし、そのマネジメントのためにIT原則を策定することを説く。
ここで展開される議論はある意味、常識に沿った当たり前のものである。しかし、現実にはITポートフォリオが構築できている企業は少ない。IT戦略の根本を見つめ直すための出発点として活用したい。 |
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もうかる情報化,会社をつぶす情報化 ホンネで語るシステム・マネジメント |
●木暮仁=著
●リックテレコム 2003年9月
●2000円+税 ISBN4-89797-777-0 |
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情報システムを導入するといっても、ハードやソフト、インフラによって話が相当異なる。デファクト・スタンダードの技術だから安心、とあぐらをかいていると、次々と新しい技術、ソフトが登場し、市場が塗り変わっていく。そんなため息の出るような情報化時代、どんな情報化が最適なのだろうか。それをとことん突き詰めたのが本書だ。
情報システムの提供側、導入側、経営側の異なる立場を経験した筆者が、情報化の現場を、ビジネス誌に書かれていたことや市場動向などの客観的なデータを用い、多方面から分析するていねいな作りになっている。
「情報化投資は売上高や経営利益の何%程度が適当だろうか?」という素朴な疑問に関して、TCO(パソコンを運用する総費用)のような算出方法があいまいなデータを過信することや、「同業のA社やB社でもやっているから同様の情報化が必要」と判断することの危険性を説くことで、コア・コンピタンスへの適切な投資を促している。またインフラと個別アプリを区別し、それぞれ会社に合わせた判断基準が必要だと指摘する。
情報化が「目的」になっている現在の風潮に、一石を投じている。読んだ印象は大手企業の情報システム部門向けのようだが、「お金」「モノ」「エンドユーザー・コンピューティング」「人、組織」の視点からまとめられており、中小企業の情報システム導入においても十分役立つ内容だ。(ライター:生井俊) |
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図解 情報化投資効果を生み出す80のポイント──効果を見極めるためのマネジメント手法 |
●小野修一=著
●工業調査会 2003年6月
●2600円+税 ISBN4-7693-6152-1 |
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情報化投資の基本から、コストの見積もり・投資対効果評価方法までを図解入りで説明した概説書。経営者に向けて、情報化投資をブラックボックスにしないためにどのような方法があるのか、その基本的な考え方が述べられている。また、概説書としてはやや詳しく書かれているので、IT担当のマネージャがITマネジメント全体を俯かんしたり、導入評価プロセスを設計する際に役立つだろう。
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情報価値経営──情報化の生産性を高める6つ基準 |
●社会経済生産性本部=編 鴇田正春=監修
●生産性出版 2003年7月
●1456円+税 ISBN4-8201-1762-9 |
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財団法人社会経済生産性本部が策定した、企業における「情報化の生産性」を自己診断するための評価基準「情報化・生産性評価基準
セルフ・アセスメント・ガイドライン」を解説したガイドブックである。ここでいう“情報化”とは「情報を活用して新たな価値を創造すること」であり、この評価基準はそれがどの程度実現できているかをチェックするためのもの。同時に「情報ならびに情報システムのリスクに対処するため」のガイドラインでもある。
本書前半では、企業を社会システムとしてとらえ、それに必要な情報は何かという観点から、情報化を成功させるその本質とポイントを解説する。後半はガイドラインを具体的に利用する際のノウハウが展開される。
セルフ・アセスメント・ガイドラインは、マルコム・ボルドリッジ賞や日本経営品質賞などのようにクライテリア(評価基準)による診断を行う経営ツールである。クライテリアは「情報価値の把握と情報化の必然性」「情報の開発・活用・管理の現状」「情報化推進体制とその仕組み」「組織と個人の情報技術の使いこなし」「情報化への取り組みの創意工夫と改善」「情報価値創造と価値連鎖の円滑化についての経営成果の評価と課題の把握」の6つ。本書は言う。「クライテリアに経営トップが回答できるかどうかで、情報化の生産性はほとんど決まってしまう」──企業のCIOや情報システム部門要員のみならず、IT活用に悩める経営者にこそ読んで欲しい1冊だ。
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[図解 企業ユーザーとSE必携]情報システム投資の基本がわかる本 |
●小笠原泰、小野寺清人、森彪=著
●日本能率協会マネジメントセンター 2003年11月
●2000円+税 ISBN4-8207-4190-X |
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企業の情報化投資に関する入門書。各項目ごとに見開き構成で、図解もあり読みやすい。「ITとは何か」から始まって、「なぜ、情報システム投資をするのか」「情報化投資計画の立案」「プロジェクトの立案・開発・運用」「情報システム投資の評価」まで、企業の情報化に必要な要素が全般的に触れられている。
各要素はさほど詳しく書かれているわけではないので、本書だけで書名にある「情報システム投資」の評価や効果測定ができるようになるわけではないだろうが、その全体像や複雑さを掴むにはよいだろう。
また、情報システム導入における活動項目が網羅されているので、関係者が基本知識を共有した上で、独自のITガバナンスを構築する際のガイドブックとしては便利だろう。巻末には各種計画書、契約書、RFPなどのフォーマットサンプルが付いている。
自社のITガバナンスを再構築しなければ、という際の教科書としてお奨めしたい。
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インタンジブル・アセット──「IT投資と生産性」相関の原理 |
●エリック・ブリニョルフソン=著、CSK=訳・編
●ダイヤモンド社 2004年5月
●2000円+税 ISBN4-478-37465-1 |
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ERPシステム導入のような大規模プロジェクトを調査すると、平均的な支出は20億円強。ハードウェアのコストはそのうち5%にも満たない。コストの大半は、業務プロセスの再構築やユーザーの教育費に充てられる。これらの「組織資本」や「人的資本」を築くための投資は、ERPの初期導入コストの80%に及ぶという。
こうした投資、そしてその結果としての効果としての情報システムの全体的な価値は、会社の貸借対照表に現れることはない。このような組織的資産を「インタンジブル・アセット」と呼ぶ。ハードばかりに目がいきがちだが、実は社員教育や、取引先との関係、顧客満足度、社員の忠誠心といったものが、実質的に生産性の向上を支える。その割合は、ハードウェアの投資額1ドルに対し、インタンジブル・アセットの平均投資額が9ドルになると本書は指摘する。
前半はデルの「見えない工場」などを取り上げ、デジタル組織になるための7つの原則をまとめている。原則の例を挙げると第1は業務プロセスのデジタル化、第7は人的資本に投資することだという。後半はインタンジブル・アセットの効果を計算式を示しながら解説する。
情報技術と生産性向上との相関関係を学ぶことで、企業の競争力を強化し、成功する確率を上げることが可能になる。情シス担当者のみならず、経営者も手にしてほしい。(ライター・生井俊) |
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