今世紀最大のIT潮流といっても過言ではないと思われる「クラウド」「クラウドコンピューティング」「クラウドサービス」。本連載では、最新の展開を含めて、クラウドをさまざまな側面から分析する。
「クラウド」「クラウドコンピューティング」「クラウドサービス」。2009年のIT流行語大賞ともいえる言葉だ。おそらく2010年も引き続きIT業界最大の流行語となるだろう。その後どうなるのかはまったく予想がつかない。より細分化された製品やサービスを表現する、新たな言葉が登場することによって、「クラウド」という言葉自体を人々が口に出すことは徐々に減ってくるのかもしれない。しかし、クラウドという言葉が徐々に使われなくなっていくとしても、今後の多くのITインフラにおける暗黙の前提となるのは間違いない。
しかし、「クラウド」や「クラウドコンピューティング」とは何かについては、ますます混乱が広がっているようだ。これは、さまざまな人々が、それぞれの考える「クラウド」を勝手に定義することによって助長されている。また、さまざまなIT関連企業が、クラウドという言葉を使って儲けようと、自社にとって都合のいいようにこの言葉を拡大解釈し、あるいは意味を歪めることで、ますます分かりにくいものになってしまっている。
ここでは、クラウドを、「利用者が、利用したいものを、利用したいだけ、利用するということに専念できるようなIT消費スタイル」と捉えることを提案したい。これではあいまいで、「定義」としては不十分なのは承知のうえだ。しかし、クラウドという言葉を冠したすべての製品やサービスの目標は、このことにほかならない。そして、クラウドは、上記の意味を持つからこそ重要なITトレンドであるといえる。
利用側の企業や個人ユーザーも、上記のような使い勝手の実現を目指すものだと考えておけば、少なくともそれぞれの製品やサービスがどういう方向を目指しているかが分かるし、期待を裏切られたと思うこともないはずだ。
「クラウドコンピューティング」は、IT業界における特定の事業分野や、特定事業者の成否の問題ではない。クラウドコンピューティングを提供するのは、必ずしも事業者でなくてもいい。企業の情報システム部門や情報子会社であってもかまわない。最近、「プライベートクラウド」と呼ばれるようになってきたのは、大まかにはこうした動きを指している。
だれが提供者となるにしろ、「利用者が、利用したいものを、利用したいだけ、利用するということに専念できるようなIT消費スタイル」が実現されるためには、面倒なITインフラの構築や設定、運用などの部分を、何らかの形で提供者が利用者から隠ぺいできなければならない。
本稿では事業者がユーザー企業に対して提供する「クラウドサービス」について見ていきたい。Web 2.0の場合と同様、「クラウドサービス」を定義することは困難でも、特徴を挙げることはできる。
クラウドという言葉が象徴しているのは、雲の向こうで誰かが下働きをしてくれるおかげで、利用する側が欲しいものを、ほかの面倒なことを考慮をせずに直接使うことだけを考えればいいということだ。利用したいIT機能と直接関係のないことに関する構築や設定、運用作業などを必要とせず、使いたいものを使いたいときに使いたいだけ利用し、不要になったらやめることができる。料金は使った量や時間の分だけ支払う。こうした特徴を持つサービスを提供する側は、個々のユーザー企業のために別個にサーバ機を用意して専用の環境を構築するなどしていてはビジネスとして成立しない(し柔軟性が実現できない)ので、サーバ仮想化や、マルチテナント対応(すなわち1つのインスタンスであっても複数のユーザー企業に対して別個のサービスとして提供できる)ソフトウェアを活用することになる。
クラウドサービスの具体的な特徴としては、下記の点を挙げることができる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.