ITの世界は英語ばかりだ。よく日本企業のIT利用が遅れていると指摘されるが、言葉の壁がなかったら状況はかなり違っていた可能性があるのではないかと思うことがしばしばある。
製品や技術のことを理解するのに資料は英語ばかりで、それも販売促進資料になるとごまかすような表現が常用されているので、事実を確認するのに膨大な時間と手間を要することがある。「(製品における)○○のサポート」という言葉1つをとってもそうだ。○○にどう対応するのか? どこまで対応するのか? まあ、これについては英語を母国語とする人も同じように感じるはずだ。
それはなんとかがまんするとしても、日本のIT業界には、顧客やプレス関係者との日本語による会話やプレゼンテーションに、妙に英語(カタカナ語)を挟みたがる人がいて、辟易(へきえき)させられる。ちょっと前だが、あるIT関連企業の人が顧客向けの製品紹介で「イージー・オブ・ユーズ」と、ご丁寧に2カ所も間違えながら話しているのを聞いた。「使いやすい」となぜ言わないのか。IT業界に限らず、外資系企業が社内でカタカナ言葉を良く使うことは先刻承知だが、お客様に社内と同じような話し方をして、伝わると思っているのだろうか。カタカナ語にすると普通のことでも格好よく聞こえる、おしゃれに聞こえると思っているところが人をバカにしている。
「アーリー・アダプター」という言葉にも非常に違和感を覚える。@IT情報マネジメント用語辞典にもこの読みで掲載されているから、一部では定着したと考えられているのかもしれない。原語は「early adapter」(早期適応者)ではなく「early adopter」(早期採用者、早期導入者)だから、カタカナにするなら「アーリー・アドプター」が正しい。もしかしてアーリー・アダプターという読みは意図的なのか? 「ITベンダの戦略に、早く適応してくれる都合のいいお客さん」という言外の意味を込めたいのだろうか。
英語にからんで、もう1つ不満に思うのがIT関連企業の製品名の付け方だ。先日、ある米国IT企業のCEOに、「非英語圏で売りたいなら、発音しにくくて綴りにくい名前を変えてくれ」と頼んだ。マイクロソフトの場合、最近の企業向けサーバ製品は「Microsoft <機能を表現する言葉> Server <年>」そしてこれに「Service Pack ○」「Release ○」を付け加える構成が定着しているので分かりやすくはなっているが、製品名が突然変わることもあり、気が抜けない。国内ベンダも、なぜか日本人には発音しにくい名前をつけていることがある。
今後も、IT業界と英語は切っても切り離せない関係が続いていくだろう。しかしITはもともと技術の話であり、IT業界以外の人々には分かりにくいという問題がある。それを日本語圏に持ってくると、さらに言葉の壁というハンディキャップが加わる。われわれメディアを含めて、少しでも理解しやすくする努力を日々重ねていかないと、ITはいつまで経っても「よく分からないもの」のままであり続けることになりそうだ。
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