グローバル展開を積極的に進める化学企業にとって、各グローバル拠点の業績や状況を迅速かつ正確に把握し、適切なアクションを起こすことが求められます。ただ、多くの化学企業は、かなり時間が経過した後に各拠点から送られてくる集約情報を基に、状況判断しているのが実情です。また、往々にしてグローバル拠点で管理している項目は定義がバラバラで、各拠点で通貨・単位などをまとめ、人間系で加工・編集しています。結果的に本来の目的である分析作業に時間が割けず、適切かつタイムリーな打ち手の検討を難しくしています。
これらの課題を克服し、グローバルで適切に業績を管理するためには、“物差し”としてのKPI(Key Performance Indicator:主要管理指標)を体系化し、PDCA(Plan→Do→Check→Action)プロセスを確立する必要があります。グローバルPDCAを進めるうえでは、グローバル共通の集計・管理単位を整備しますが、これは拠点ごとにバラバラなコード体系を、グローバルですべて共通化することを意味しているわけではありません。適切な集計・管理単位を識別し、各拠点で管理している集計・管理単位や製品・顧客コードなどとのひも付けを行っていくことです。ITに求められる機能要件としては、さまざまな異なるシステムからデータを集める「データ連携」、参照・分析しやすいデータに加工する「データ加工」、マネジメント向けKPIだけでなく、データを多角的に分析・参照できる「データ照会」の3つです。IT構築上のポイントは、各拠点のシステムをベースに、グループ共通の集計単位など、最低限統一すべき項目を見極め、複数の異なるシステムから効率的に情報を収集することといえます。
多くの化学企業は、ERPパッケージ導入に見られるように、積極的にIT投資を行ってきましたが、情報の活用・管理の点でまだまだ十分とはいい切れません。情報管理・活用の仕組みづくりに当たっては、管理レベルの見極めが非常に重要になります。例えば、全社的に非常に重要度が高い情報であっても、現場の登録負荷が高いと結果的に管理されなくなります。やみくもにIT化するのではなく、クライアントの現状を的確に把握し、改革の目的・ゴールを実現するためにITに求められる要件を具現化していくことが求められます。これはまさに、ITエンジニアとしての力量が問われるところです。
次回は「公共サービス」をテーマに説明する予定です。
山之口裕一(やまのくちゆういち)
素材・エネルギー本部 シニアマネジャー。中央大学経済学部を卒業後、アクセンチュアに入社。主に化学・素材製品のサプライチェーン業務改革、システム構築に携わり現在に至る
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