前述したように、金井先生は、節目でのキャリア・デザインを重視されていますが、人生の岐路といえる節目でキャリアをきっちり考え、節目を乗り切ることによって人は一皮むけて、キャリア的な発達・成長を果たすことができます。この節目を乗り切る方法については、第9回「ブリッジズ氏の過渡期を乗り切るトランジション理論」で紹介しました。
さて、トランジション理論をさらにキャリアに密接に適用した考え方に「キャリア・トランジション・モデル」というものがあります。キャリア・トランジション・モデルとしては、ロンドン・ビジネス・スクールのナイジェル・ニコルソンのモデルが世界的には知られていますが、本稿では、これまでの説明が反映されている、金井先生独自のトランジション・モデル(「金井モデル」と呼ぶことにします)を紹介しましょう。
金井モデルは以下の4ステップで構成されています。
大きくかつ現実に吟味できる夢を抱く。生涯を通じて夢を探しつつ、節目ごとに夢の修正をする。
↓
人生や仕事生活の節目ごとに、何が得意か、何がやりたいか、何に意味を感じるかを自問して、キャリアを自覚的に選択する。
↓
デザインしたら、その方向に力強い最初の一歩を踏み出し元気を持続する。MER(最低必要努力投入量)を超えるまでは、よい我慢はしつつ頑張ってアクションを繰り返す。
↓
次の転機までは、安定期にも退屈することがないように偶然やってきた機会も生かす。ドリフトもデザインの1つとして楽しむ。
↓
(1に戻る)
それぞれのステップについて簡単に解説しておきます。
1.キャリアに方向感覚を持つ
時間軸としては2つの意味合いがあります。1つは、30代後半から40代前半以降になると、そろそろ生涯全体を貫く目標を探し始める必要があります。一生かかってもそれに近づきたい、実現したいと思う、息の長い夢です。同時に、さまざまなきっかけや理由で生まれる数年のスパンで、ぜひ実現したいという目標や夢もありますね。こうした短めの目標や夢は、節目のたびに修正、見直しを行います。
2.節目だけはキャリア・デザインする
このステップで大切なことは、前述したように、自分で選び取ったという感覚をしっかり持つことです。さまざまな人からいろんなアドバイスや選択肢を示されたとしても、最後は自己選択、自己決定したという自覚を持っていることが、キャリアを主体的に切り開いていくことにつながります。
3.アクションを起こす
進むべき道を選び取ったら、しばらくはより大きなエネルギーと努力を投入して元気良く力強く歩いていく。特に20代のころは、お試し的にさまざまな仕事にチャレンジすることが必要ですが、ちょっとかじったくらいで簡単にあきらめてはいけません。ある一定以上の時間と労力、すなわちMER(最低必要努力投入量)を超えないと明確な成果は得られませんし、自分の適性、能力を発見・開発することができないことを肝に銘じておきましょう。
4.ドリフトも偶然も楽しみながら取り込む
金井先生がキャリア・ドリフトを強調されるのは、そもそも何もかも詳細に計画しようとすると息が詰まるからだそうです。デザインがなければただ流されるだけですが、デザインだけでは自由がない。車のハンドルに「遊び」があるように、ある程度自由の余地を残しておき、「未見の我」(まだ自分の知らない自分の隠された可能性)との出会いをワクワクしながら待ってみたらどうでしょうか。
参考文献
▼『働くひとのためのキャリア・デザイン』金井壽宏著、PHP新書
▼『会社と個人を元気にするキャリア・カウンセリング』金井壽宏編著、日本経済新聞社
松尾 順(まつお じゅん)
1964年福岡県生まれ。早稲田大学商学部出身。市場調査会社、IT系シンクタンク、広告会社、ネットサービスベンチャー、ネット関連ソフト開発・販売会社を経て、2001年より有限会社シャープマインド代表。マーケティングリサーチ、広告プロモーション企画&プロデュース、Webサイト開発企画&プロデュースを多数手掛ける一方、キャリア理論や心理カウンセリング、コーチングを学び、主に個人を対象とするキャリアアドバイザーとしての仕事を増やしてきている。顧客心理の理解向上を目指す「マインドリーディング・ブログ」主宰。「シナプスマーケティングカレッジ」講師。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.