否定形の使い方にも注意しましょう。以下のようなパターンでは否定形を使わないようにします。
多くの人が、条件節(〜したら、〜すると)の後に否定形を組み合わせた文章をつい書いてしまいます。しかし、そのような文章は意味が曖昧(あいまい)になります。意味が明確な文章にするには、条件節の後に必ず肯定形を組み合わせます。
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現在の条件のままで作業を進めた場合、期限までに完了できません。
以下の条件を整えて作業を進めれば、期限までに完了できます(以下、条件を列挙する)。
二重否定とは、1つの単文中で否定を2つ重ねた記述です。二重否定を使った文章で表す内容は、肯定形で記述できます。二重否定を使おうとしたときには、必ず肯定文に直しましょう。
状況を考えれば、その方法を選択しないわけにはいかない。
状況を考えると、その方法を選択すべきである。
バグのないプログラムはない。
プログラムには必ずバグがある。
部分否定は、範囲を表す言葉と否定形の組み合わせです。部分否定を使った文章で表す内容も、二重否定の場合と同様に肯定形を使って記述できます。部分否定を使おうとする個所では、必ず肯定文にします。
すべての受講生がテストに合格したわけではない。
一部の受講生はテストに不合格であった。
運用を開始してから1年間は問題が発生しなかった。
1年目は正常に運用できた。2年目になると……(2年目以降の事実を記述)。
「〜のように」の後に否定形を使った文章は、意味が分かりにくくなります。「〜のように」と否定形の組み合わせを使わずに、伝えたい内容に合った表現をします。
A社が販売する製品は、B社が販売する製品のように摩耗しない。
例えば上記の例文は、3つの意味に解釈できてしまいます。
1.の意味なら:「両方とも」を含意する言葉(“も”“どちらも”など)を使います。
A社が販売する製品もB社が販売する製品も摩耗しない
2.の意味なら:それぞれの製品について別の文章にすると分かりやすくなります。
B社が販売する製品は摩耗する。しかし、A社が販売する製品は摩耗しない。
3.の意味なら:“比べる”“比較する”などを使うと分かりやすくなります。
A社が販売する製品もB社が販売する製品もある程度は摩耗する。しかし、A社が販売する製品はB社が販売する製品に比べて摩耗が小さい。
人間や組織(会社や団体、部署など)が主語になり得る文章は、できるだけ能動態で記述します。受動態の文章では、動作の責任が誰にあるのかがはっきりしません。そのため、意味が曖昧になります。一方、能動態の文章では、動作の責任が誰にあるのかがはっきり分かるため、文章の意味が明確になります。
この見積もりは妥当だと思われる。(誰が思ったのか曖昧)
この見積もりは妥当である。(責任の主体は書き手と分かる)
不具合の検証において以下のような現象が確認された(誰が確認したのか不明)。
担当者は、不具合の検証において以下の現象を確認した。
読点(、)をうまく使うと、比較的簡単に意味の明確な文章を記述できます。読点の位置によって、文章の意味を決定できるのです。
このシステムは高速でデータを処理しながら利用者からの要求に対応する装置にコンテンツを配信する。
上記の例文は、読点をうまく使うと意味が明確になります。
このシステムは、高速でデータを処理しながら利用者からの要求に対応する装置にコンテンツを配信する。
このシステムは高速で、データを処理しながら利用者からの要求に対応する装置にコンテンツを配信する。
このシステムは高速でデータを処理しながら、利用者からの要求に対応する装置にコンテンツを配信する。
事柄を並列的に記述する場合、個条書きを使うと読みやすく分かりやすい文章になります。1つひとつの事柄を順列に並べたのでは、冗長な文章になります。個条書きにすれば、並列の区切りがひと目で分かり、簡潔に表現できます。
商品を注文するには、インターネット上のホームページにアクセスして「注文ページ」で必要な項目を入力する、カタログに同封した申込用紙に記入して郵送する、カタログに同封した申込用紙に記入してファクシミリ送信する、注文センターに電話をかけ担当者に注文するといった方法がある。
商品を注文する方法は以下のとおりである。
個条書きの順番に意味がある場合(重要度の順番、優先順位など)については、読み手が明確に解釈できるように、順番の意味を記述しておきましょう。
今回は開発期間が短いため、以下の機能を優先順位を付けて作成する。
(1)在庫管理
(2)顧客管理
(3)発注管理
(4)受注管理
今回は開発期間が短いため、各機能に優先順位を付けて作成する。優先順位の高い機能から低い機能の順に並べると、以下のようになる。
(1)在庫管理
(2)顧客管理
(3)発注管理
(4)受注管理
次回は、修辞句や用語など、「より具体的な表現方法」について説明します。
谷口 功 (たにぐち いさお)
フリーランスのライター、翻訳家。企業にて、ファクシミリ通信網を使ったデータ通信システム、人工知能、日本語処理関連のソフトウェア開発、マニュアルの執筆などに関わる。退職後、コンピュータ、情報処理、通信関連の書籍の執筆、翻訳、各種マニュアルや各種教材の執筆に携わる。また、通信、コンピュータ関連のメールマガジンの記事、各種雑誌においてインターネット、パソコン関連の記事やコラムなども執筆。コンピュータや通信に関連する漫画の原作を執筆することもある。 主な著作は、『SEのための 図解の技術、文章の技術』(技術評論社)、『ソフト契約と見積りの基本がよ〜くわかる本』『よくわかる最新 通信の基本と仕組み』(秀和システム)、『図解 通信プロトコルのことがわかる本』『入門ビジュアルテクノロジー 通信プロトコルのしくみ』(日本実業出版社)、『図解 ネットワークセキュリティ』『マスタリングTCP/IP IPsec編』[共著](オーム社)など。
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