「提案書」や「要件定義書」は書くのが難しい。読む人がITの専門家ではないからだ。専門用語を使わず、高度な内容を的確に伝えるにはどうすればいいか。「提案書」「要件定義書」の書き方を通じて、「誰にでも伝わる」文章術を伝授する。
文書を作成するには、顧客から必要な情報を引き出さなければなりません。その際には、顧客とのコミュニケーションの「質」が鍵となります。そこで今回は、顧客と質の高いコミュニケーションを行うためのポイントを解説します。
情報収集のための顧客とのコミュニケーションの手段は、ヒアリングやインタビューなど、対話が中心になります。以下、対話によるコミュニケーションを念頭に記述を進めます。
顧客は大きく、下記のように区分できます。
情報を収集するためのヒアリングは、このような区分を考慮したものでなければなりません。
顧客によって、テーマ(収集する情報)の範囲が異なります。ヒアリングは、顧客に応じたテーマで行わなければなりません。テーマがズレると、必要な情報をきちんと収集できないばかりか、相手の時間を無駄にすることになります。それは自身や自社の信頼を落とすことにつながります。なお、提案書や要件定義書など文書の種類によって、詳細は異なります。
経営理念、経営戦略、ビジネス戦略、経営計画、ビジネス計画、経営上の課題、ビジネス展開における課題・問題点、社内業務における課題・問題点、社内の組織構成、システム化の目的や目標、システム化に対する会社としての考え方など
業務部門の社内における役割や位置づけ、ほかの業務部門との関連、業務計画、業務の内容・実態、業務上の課題・問題点、部門の組織構成、業務管理や部門管理など
具体的な業務の種類とその内容、業務遂行の手順、作業のフロー、業務遂行上の課題・問題点、業務で扱う情報やデータの種類と量など
顧客へのヒアリングでは、順番が重要です。
「経営陣」⇒「業務部門の管理職」⇒「実際にシステムを利用するチームリーダー」の順番にヒアリングを行えるように、スケジュールを調整します。
会社組織では、「経営陣が会社全体の戦略を立てる」⇒「戦略に沿って各業務部門の管理職が部門としての取り組み方や方針を策定する」⇒「方針に基づいて現場のリーダーが具体的な手順や方法を決定する」という組織構造になっています。ヒアリングも同様に、大きな枠組み(抽象的、戦略的な観点)から詳細、具体的なものへという方向で情報を聞き出します。
ヒアリングを行うに当たっては、事前の準備が重要です。きちんとした事前準備ができているかどうかが、コミュニケーションの質を左右します。
きちんとした事前準備ができていれば、顧客とのコミュニケーションの質は高くなり、必要な情報を十分に集めることができます。しかし、事前準備をしない、または貧弱な準備しかしていないと、思いどおりにコミュニケーションを進めることができず、必要な情報を集めることができません。事前準備としては、以下のようなものを考えます。
顧客に関連する背景知識を持っていれば、相手に負担をかけずに効率的にヒアリングを進めることができます。背景知識は、一般に公開されている情報や一般的なレベルの知識で十分です。次のようなものが挙げられます。
ヒアリングの目的や趣旨は、事前に明確にしておかなければなりません。何のために、どのような趣旨でヒアリングするのかが明確であれば、的確な問い掛けができます。相手も、何を、どのように話せばよいのか把握でき、的確に答えることができます。
どのようなテーマについて、どのような流れでヒアリングを進めていくのか、おおよその展開を決定しておきます。骨組みが決まっていると、それに沿ってヒアリングを進めることができ、必要な情報を効率的に得ることができます。また、話題があちこちに飛んで、とりとめのない対話になってしまうのを防ぐことができます。
情報を引き出すためにどのような質問をすればよいのか、質問項目をリストアップします。そのためには、文書の作成にどのような情報が必要なのかをきちんと洗い出し、把握していなければなりません。質問のリストアップでは次のような点を考慮します。
a.質問の順番を考えてリストアップ
b.曖昧(あいまい)な質問、抽象的な質問、漠然とした質問は避け、具体的な質問にする
c.相手が簡潔に答えられるような質問にする
「はい」「いいえ」で答えられるような質問、簡単な文章で答えられるような質問を行っていきます。実際のヒアリングでは、相手から簡単、簡潔な答えが返ってきた後で、コミュニケーションを重ねて、その答えをより詳しく肉付けします。
対話の目的や趣旨、対話の流れや展開、質問項目は、あらかじめ文書にして、相手に知らせておきます。
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