広義ではRAIDもストレージ仮想化の1つだ。だが、過去数年にわたり、それよりも上位レイヤのさまざまな仮想化が、ブロックストレージやNASに実装されるようになってきた。クラウド化の進行とともに注目が高まるスケールアウト型ストレージも、ストレージ仮想化の一形態だ。本連載では、ストレージの世界で一般化する仮想化について、体系的に説明する
サーバ仮想化が広く浸透するにつれて、ストレージ仮想化の採用率が高まっている。その背景には、仮想化されたサーバが柔軟に拡張できるようになったため、仮想化されていないストレージの管理負担が相対的に大きくなっているという事情がある。今後、サーバ仮想化のさらなる浸透、そしてその延長線上にあるプライベートクラウドの発展とともに、ストレージ仮想化に対する注目度はより高まっていくだろう。
しかし、ストレージ仮想化とはどんな技術なのかと聞かれたとき、その問いに答えるのは意外に難しい。ストレージ仮想化と一口に言っても、さまざまな種類がある。ブロックストレージの仮想化とファイルストレージの仮想化には全く違う技術が使われるし、ホスト側に実装される技術もあれば、ネットワーク上に実装される技術もある。ストレージの容量とパフォーマンスをシステムの成長に合わせて柔軟に拡張できる「スケールアウト型ストレージ」という新たなトレンドもある。多くの選択肢が複雑に絡み合って、技術の全体像を理解することが非常に難しくなっている。
本連載では、注目を集めながらも複雑化しつつあるストレージ仮想化の概念と技術を、読者に分かりやすい形で整理して伝えることを試みてみたい。ストレージ仮想化にはどういった種類があり、どういった技術から成り立っているのか、この連載を読むことで読者に少しでも理解を深めていただければ幸いである。
連載の1回目となる今回の記事では、ストレージ仮想化の全体像をつかんでいただくべく、ストレージ仮想化のユーザーメリット・種類、そしていくつか代表的な仮想化技術の概要について解説する。次回以降では、スケールアウト型ストレージなどの新しいトレンドを掘り下げていく予定だ。
ストレージ仮想化が市場で注目を浴びているのは、ビジネス観点でユーザーに大きなメリットがあるからだ。本節では、ストレージ仮想化がどういったメリットをユーザーにもたらすのかを解説していこう。ユーザーメリットを理解することで、次節以降の技術解説がより理解しやすくなると思う。
従来、ユーザーはストレージ装置購入の際に、一つのジレンマを抱えていた。ビジネスを始める時点では現時点での要件に合う小規模のストレージ装置から始めたいのだが、そうすると先々拡張性に制限を受けてしまう可能性がある。かといって、最初から大規模のストレージ装置を購入すると、ビジネスが成長しなかったときにコスト高になるリスクを抱えることになる。
このジレンマを解決するのがストレージ仮想化だ。ストレージ仮想化を用いれば、複数のストレージ装置を統合して論理的なストレージプールを作ることができる。これにより、最初は当面の要件を満たす小規模な構成から始めて(スモールスタート)、後日、ビジネスが軌道に乗ってリソースの拡張が必要になったら、それに合わせてストレージ装置を追加し、論理的なストレージプールを拡張していくというアプローチが取れるようになる。
ストレージ仮想化のもう1つのメリットは、ストレージ装置間でのデータ移行が簡単になるという点である。
従来、データ移行というのは、綿密な計画を立てる必要があるとともに、リスクの高い作業だった。装置間でデータの同期をとってストレージ装置を切り替える際に、どうしてもシステムを止める必要があったからである。また、ホスト側の設定情報を全て書き換える必要があるなど、管理作業の負担も大きかった。そのため、データ移行が必要となるストレージ装置の変更などは、避けることが多かった。
ストレージ仮想化を使えば、移行をずっと容易に行うことができる。サーバ仮想化におけるライブマイグレーションと同じで、仮想化されたストレージ装置の間で、データをオンラインで移動することができるようになるからだ。移動は上位レイヤからは透過的に行われるので、ホスト側の設定情報を書き換える必要もない。企業ITシステムやサービスプロバイダにとって、無停止でデータ移行を行えるということは非常に大きなメリットがある。
ストレージ仮想化には、管理対象を減らすという大きなメリットもある。従来のように個々のストレージ装置を別々に管理するのではなく、仮想化されたシステムに対する集中化された管理が可能になる部分が出てくるからである。
その良い例が、自律的な容量バランシング機能だ。これは、管理者から与えられたポリシーにしたがって、ストレージ装置間の容量バランスを最適化するために、データを装置間で自律的に移動するという機能である。この機能が入ると、各ストレージ装置の空き容量が自動調整される。管理者が各装置の空き容量を個別に管理する必要はなくなり、ストレージプールの空き容量だけを監視していれば良くなる。これにより、少ない時間でストレージ装置全体を管理することができるようになる。
このように、自律管理機能をストレージ仮想化と組み合わせることで、ストレージ管理を従来よりもずっと効率的に行うことができる。
ここまで、ストレージ仮想化のメリットについて説明してきた。ここからは、ストレージ仮想化の技術面に論点を移そう。ストレージ仮想化にはどんな種類があり、そしてその中でいま注目を浴びている技術はどんな技術なのか、本節でまず整理し、次節以降の技術解説に繋げていく。
下の図は、ストレージの業界団体であるSNIA(Storage Network Industry Association)が作成したストレージ仮想化技術の分類である。仮想化の対象に基づいて、ストレージで使われる仮想化技術を5つのカテゴリに分けている。
これらのうち、Tape Virtualization(テープの仮想化)に関しては本連載では対象外とさせていただく。そうすると残りは4つになり、それらを下位レイヤから順に並べていくと以下のようになる。
ストレージを構成するほぼ全てのレイヤに仮想化技術があることが、これから分かる。現代のストレージは、いろいろな層の仮想化技術が折り重なることによって成り立っているのである。
ただ、もちろん、これらのストレージ仮想化技術の全てが、新しいトレンドというわけではない。その多くは、すでにストレージの基盤技術になっている枯れた技術だ。良い例がRAID(Redundant Array of Inexpensive Disks)で、その歴史は古く、1987年に提案されている。
いま注目を浴びているストレージ仮想化技術は、従来から使われてきた技術とは異なる特徴を持った、新しいタイプの技術だ。
新しいタイプの仮想化技術は従来よりも上位層に焦点を合わせている。従来のようなコンポーネントレベルの仮想化ではなく、ストレージ装置レベルでの仮想化を実現するための技術だ。ディスクが多数繋がれたストレージ装置のレベルで仮想化を行うことで、より高いレベルでストレージ管理の問題を解決しようとしている。前節で述べたストレージ仮想化のユーザーメリットは、この新しいタイプのストレージ仮想化技術によってもたらされるものだ。
このタイプの仮想化技術は、ストレージのアーキテクチャに関する重要なトレンド――「スケールアウト型ストレージ」――を後押ししている。従来、高信頼性が求められるストレージにおいては、スケールアップ型のアプローチを採用することが普通だった。しかし、ストレージ装置レベルの仮想化技術の進展に伴い、複数のストレージ装置を論理的に1つのシステムとして動かすスケールアウト型ストレージが勢いを増しつつある。
本連載では、このような新しいタイプのストレージ仮想化技術を中心に掘り下げていくつもりだ。しかし、次節以降の技術解説においては、古くからの仮想化技術も、その概要について簡単にまとめている。この方が、「ストレージを仮想化する」というのはどういうことか読者に深く理解していただくことが可能ではないかと考え、このような構成とした。
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