――Tehuさんは、アプリの広告収入はすべて寄付されているとのこと。そのお金で開発関係のハードウェアやソフトウェアをそろえることもできると思います。あえてお聞きしますが、なぜ寄付しようと思ったのですか。
Tehu 最初は使い道に迷って、いろいろ考えて出した結論が寄付でした。正義について語るマイケル・サンデルさんという哲学者がいるじゃないですか。
――マイケル・サンデルさんというと、『これからの「正義」の話をしよう』の著者ですね。
Tehu そうです。当時はまだ日本語版が出ていなくて英語版を読んだのですが、その方の本を読んですごく感銘を受けたんです。僕の場合は健康計算機を3日で作ったのですが、そんな大したものじゃなかったし、入力したら計算するだけっていうそんな誰でも作れるアプリが、まさかヒットするとは思ってなくて……。
自分の能力によって稼いだお金は独占してもいいと思うのですが、健康計算機の場合は自分の能力ではありません。少しプログラミングを勉強して作ったアプリを、皆が使ってくれているわけです。健康計算機ユーザー全体のおかげでもあるし、僕自身の“運”っていうのもあるんですよ。となると、その収入を僕だけで独占するべきでなくて、皆に還元すべきだと思ったんです。その還元の一番簡単な方法が寄付でした。
――全額ですよね。開発関係のハードウェアやソフトウェアはどうやって手に入れていますか。
Tehu ハードウェアやソフトウェアの購入は全部お小遣いです。あとは、テストの成績に応じて親からもらったり……。
――先ほど哲学者の話が出てきましたが、哲学本とかビジネス書などをよく読むのですか。
Tehu はい。Facebookの起業からいままでの軌跡の話とか、フリーミアムに関する本とか、最近流行している本はよく読んでいます。
――ということは、起業にも興味を持っていらっしゃるんですか。
Tehu というより、起業しなければならないと思っています。
――ほう、起業しなければならない。それはなぜですか。
Tehu 世の中には、僕以上の人たちがたくさんいるわけです。僕の場合は健康計算機っていう1個のアプリで有名になりましたが、「ヒットするものは出してないけど、プログラミング関連で能力がある人」はたくさんいると思うんです。その人たちに自分が太刀打ちできるわけでもないし……。
そこで僕が何をするべきかというと、「プログラミングもできるしマネジメントもできる」っていう技術者にならなければいけないって思うんですよ。エンジニアには一時的になるかもしれないですけど、限界があると思うんです。ただのエンジニアになるよりは、「エンジニアのことが分かる経営者」「技術者を率いる技術者」になりたいです。
Tehu コンピュータだけでなくバイオテクノロジと連携させて、最新のゲーム技術などを発展させていきたいと思っています。脳科学者やエンジニアを集めて会社を立ち上げる、というのが将来の夢ですね。
――会社のマネジメントをしつつ、プログラミングなど開発もしていきたいですか。
Tehu そうですね。最初はプログラムが書けるプログラマで、その後はやっぱりマネジメントができるプログラマになりたいと思っています。
――それでは最後に、読者である学生たちに向けて何かメッセージをお願いします。
Tehu 最近、日本がITで負けてきているじゃないですか。その大きな原因が「魅力」だと思うんですよ。確かに日本は技術力が本当にすごくて世界一だと思うんですけど、やっぱりユーザーを引きつける魅力がまだ足りなくて、言ってしまえばメーカーの自己満足になってしまっているんですよね。
iPodやiPhoneを作っているアップルは、はっきり言って大した技術力は持ってません。マイクロソフトとかソニーとかの方が断然上だし……。ただ、アップルは過去の技術を寄せ集めて、それにデザインとアイデアと魅力を加えることによって、全世界でヒットする商品を作っているんです。
僕からのメッセージとしては、これからITを担う人たちに魅力について考えてもらって、スティーブ・ジョブズみたいな技術者を目指してほしいですね。
――Tehuさんを含めて、これからITを担う人たちには、“魅力”でITの世界を変えてほしいですね。
「ライバルに学べ! 学生スターエンジニアに聞く」第7回、いかがでしたでしょうか。
Tehuさんはさまざまなメディアで紹介されているので、今回は少し違った内容で取材させてもらいました。中学生とは思えないくらいハッキリとした考えを持っていて、これからの目標について明確に話していただき、言葉の1つひとつに感心するばかりでした。自分の考えや目標を持つことは非常に重要で、それに対してどう行動・実践するかが今後の人生で鍵になってくると思います。Tehuさんのように強い考えを持っているなら、いつかきっと目標が達成できることでしょう。今回の取材で、筆者も今までになかったような刺激を受け、終始驚かされていました。Tehuさん、どうもありがとうございました。
前平敏志(HN:サトにゃん)
大阪府在住の専門学校生。2011年4月、高校卒業後に大阪府内の情報系専門学校に進学。
情報系非営利団体の役員やライターとして取材・執筆なども手掛ける。主に情報技術全般や電子機器・家電製品について興味を持つ。さまざまな活動に参加し、日々勉強・挑戦する毎日を送る。
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