WWDC 2013キーノート(Safari編)ドリキンが斬る!(3)(3/3 ページ)

» 2013年07月09日 18時00分 公開
[ドリキン,サンフランシスコ在住ブロガー]
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 実は、Google Chromeでは、Safariよりかなり早い段階で、同様の機能を実装しています。タブごとの別プロセス化を行ったり、タブが非表示になったことをWebコンテンツに通知して、コンテンツ側が対応することで、タブが非表示時のCPU使用率を下げるといった仕掛けを実現しています。

 なので、Webブラウザとしての進化のスピードで比較すれば、Google ChromeはSafariより何倍も速いスピードで改善を続けているのは事実です。しかしその反面、機能が増えれば増えるほど、動作が重くなって行くのはソフトウェアの常です。

 加えて、Google Chromeの場合、マルチプラットフォームでの動作を保証することも1つの重要な要素になっていることから、最近では、最適化によるパフォーマンスの向上と、機能追加によるパフォーマンスの低下のバランスが後者側に寄ってきている気がします

 HTML5やWebGLという技術が本当に普及するためには、機能だけではなく、このようなパフォーマンスの最適化が非常に重要となってきます。いくら機能がすごくても、裏で開いているだけで、どんどんPCが重くなっていくようなWebサイトを好んで利用する人はいないでしょう。

 ソフトウェアにおいて、どこまで行っても速さは正義となる中で、個人的には今回のSafari最適化の方向性はとても好感が持てました。

 僕自身、ここ数年は毎年どのWebブラウザをメインブラウザにして利用すべきか悩んでいて、一昨年はSafari、昨年はGoogle Chromeを利用していました。つい最近まではGoogle Chromeの機能の充実ぶりと速さに満足していたので、このままGoogle Chromeに落ち着くかなと思い始めていたのですが、久々にSafariを使ってみたら、その快適さに魅入られて、最近になってまたSafariがメインブラウザとしての地位を取り戻しつつあります。

 一番の理由は、やはり単なるベンチマーク結果ではないパフォーマンス、使い心地の良さに寄るものです。

滑らかなSafariのスクロールをアピール(Apple - Apple Events - WWDC 2013 Keynoteのスクリーンショット)

 Safariの起動の速さ、スクロールの滑らかさ、さりげないアニメーションなど、ちょっとしたことが心地良くて、機能の多さとしてはGoogle Chromeに魅力を感じつつも、Safariをメインに使うことが増えています。

念願のiCloud Keychainによる個人情報の管理(Apple - Apple Events - WWDC 2013 Keynoteのスクリーンショット)

 Google Chromeの大きな魅力の1つは、Googleアカウントによるブックマークからタブ、履歴、アカウント情報まで、あらゆる情報のクラウド同期でしたが、OSX MavericksのSafariではiCloud Keychainに対応したことにより、Google Chromeとほぼ同等のクラウド同期機能を備えることになります。

クリックなしに連続的に記事を読み続けられるようになったReading List

 Reading Listなどは、後で読みたいと思った記事をリストに追加しておくと、iPhoneやiPadとリストを同期してくれるだけではなく、自動的にデータを取得してオフラインでも記事が読めるようにしてくれます。この機能はあまり知られてない気がしますが、個人的にはSafariのお気に入り機能の1つです。こういったすべてをWebテクノロジだけで実現するのではなく、Webテクノロジを補完するために、ネイティブテクノロジを効果的に活用する辺りはさすがにアップルはうまいなぁと感心させられました。

 アップルはあくまでもSafariをOS X上の標準アプリケーションの1つと捉え、OS X上のネイティブなフレームワークを最大限に生かしつつ最適化を行っています。それ対して、Google Chromeは、Chrome OSを開発していることが表しているように、Google Chrome自身・Webテクノロジ自身をOSレベルにまで昇華させるべく機能拡張と最適化を繰り返しています。ユーザーから体感できる最終的なパフォーマンスとして見た場合、現状ではアップルのアプローチに一日の長があると感じています。

 アップルのOS Xが目指す、ネイティブテクノロジとWebテクノロジのいいとこどりによる最適化を目指すアプローチと、グーグルのChrome OSが目指す、すべてをWebテクノロジで実現するアプローチが今後どのように進化していくのか、とても興味深いです

 数年以内という短期的な視点で見れば、アップルの選んだアプローチにまだまだ優位性があることは、現状のハードウェアのパフォーマンスや、ソフトウェア最適化のレベルをみると明らかです。ですが、10年後の視点で考えた際に、グーグルの目指す、すべてをWebテクノロジで解決する世界は十分に現実的な気がしていて、今後の両社の方向性にますます目が離せないという気持ちが強くなりました。

まとめ

 今回の記事ではSafariについてだけ取り上げて、大きく紹介しました。

 その理由は、OS X Mavericksのアプリケーションの1つとして新機能が紹介されたSafariの発表の中に、今後のWebテクノロジの方向性、そしてグーグルとの方向性の違いが垣間見えた気がしたからです。

 OS Xが最先端のOSであることに間違いはないですが、その基礎設計はOS Xとして数えても10年以上、その前進であるOSのOPENSTEPから数えれば20年近く前に設計されたOSです。

 それに引き換え、グーグルがChrome OSで目指す世界は、Google Chromeから数えたら5年、WebKitから数えても10年くらいの開発期間で実現されています。

 ソフトウェア技術の進歩を数十年前と同じ時間軸で比較することはナンセンスですが、初期のOS Xと最新となるMavericksでは、最適化・完成度は比較にならないほど向上しています。そう考えると、Chrome OSの10年後の世界では、今のOS X以上に成熟期を迎えている可能性は十分考えられます

 これまで、OSとブラウザを提供するアップルと、その上で利用されるWebサービスを提供するグーグルは補完関係にありました。それが近年、アップルにとっては、OS Xの進化の延長上として、クラウド・Webサービス機能を備えることが必須となり、グーグルにとっては、Chrome ChromeをOSレベルまで進化させ、Chrome OSを実現し、Webテクノロジで全てを実現するという思惑があります。お互い対極の方向から進化を続けてきて、真っ向から衝突したタイミングが今回のWWDC 2013だったのではないかと思います。そうとらえると、個人的には、今回のSafariの発表は、今後のアップル対グーグルの関係やWebテクノロジの進化の方向性を妄想するのに十分な内容でした。

 さて、だいぶ開催から時間も経ち、ネタとしての旬はとっくに過ぎてしまった感のWWDC 2013レポートですが、いよいよ次回は最終回としてiOS 7の内容を中心に取り上げる予定です。

 WWDC 2013レポートとしては次回が最終回になるのですが、実はこの度、このドリキンが斬るシリーズの記事は@ITの連載記事として続くことになりました。

 今後も、他の記事とはちょっと違う、マニアックな、時に偏った視点で、イベントレポートや製品レビューなどをお届けできればと考えています。

 こんなネタを僕にレビューして欲しいなど、リクエストなどもあれば、是非フィードバックを頂けるとうれしいです。今後とも宜しくお願いします。

著者プロフィール ドリキン

サンフランシスコ在住 ガジェット、グルメ系ブロガー。ブログはDrift Diary XVと動画ポッドキャストのdrikin.tv。最近英語の勉強がてらに始めたDrift Diary USAも運営中。本業はソフトウェアエンジニアでdrikin.comにて自作アプリも公開中


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