jusの歴史からたどる日本のITコミュニティの道のりあれから30年、これから30年(2/2 ページ)

» 2013年08月06日 18時00分 公開
[波田野裕一,@IT]
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手探り、手作りのイベントから

 jus30周年イベントは、「日本UNIXユーザ会のこれまでとこれから」と題して、2部形式で開催されました。会場には現在のjus会員だけでなく、古くからjusを知る有識者やかつての幹事、昨今jusと共同でイベントを開催している団体の関係者などが集まり、ちょっとした同窓会のような雰囲気で始まりました。

 まず、第1部では「これまでの30年を振り返る」をテーマに、歴代会長をはじめ長年jusの活動を支えてきた幹事たちが登壇し、jusの設立から今日までの道程を、数々の出来事とともに振り返りました。

砂原秀樹氏(元会長)、井上尚司氏(事務局長)

 最初に説明があったのは、jus設立の経緯についてです。当時、DEC社(Digital Equipment Corporation)の日本におけるユーザーグループの中に「UNIX SIG(分科会)」があり、その興味対象がDEC以外のUNIX製品にも広がっていったことから独立発展したのがjusの始まりだったということです。

 続いて発足当初のjusが主催したイベントの話題となりました。初期にUNIXの相互検証の場となった「UNIXシンポジウム」では論文発表や展示がありましたが、いわゆる学会ではないため当時としてはかなりラフな発表もあり、比較的自由な雰囲気で開催されたそうです。また「UNIX Fair」では、参加者が持ち込みんだマシンを会場のネットワークにつながせる代わりに皆が触れるようにしてもらったり、その場で、ナプキンに書いたベンチマークコードを手分けして展示マシンに入力し、ベンチマークを実施するなど、「普段やれないことをやりたおす場」として非常に面白かったことなどが語られました。

 こうした場に集った当時の若者たちはその後、jus幹事になったり、インターネット各方面で現在キーマンとして活躍するなど、イベントは人材発掘の場としても活用されたようです。その後、イベントの出展者が100社を超えるなど、幹事だけでは手に負えなくなり、運営を専門業者に委託するようになっていったこと、今日の日本のインターネット発展に貢献したことで知られる「WIDEプロジェクト」がjusの分科会から誕生した経緯など、知られざる歴史についても話題は広がっていきました。

小山哲志氏(元会長)、法林浩之氏(元会長)

 次に、PC-UNIXの隆盛やオープンソースという言葉が出始めた頃の話題になっていきました。

 例えばオープンソースまつりでは、「電子の町としての秋葉原」でやることにこだわったこと、会場設営に足りないものは何でも近所で手に入るという秋葉原の特性が活かせたこと、道路での呼び込みが楽しかったこと、実は法林さんの長い司会人生の起点となるイベントだったことなどが、とても活き活きと語られました。収支的には非常に厳しい結果となったそうですが、このときに得られたイベント運営の経験はjusやそのメンバーと一緒にイベントを開催した多くのオープンソースコミュニティに共有され、開催から十数年後となる現在も、多くのコミュニティが大小問わず多彩なイベントをやる原動力の1つになっていることは確かなようです。

 この他にもInternetConference、Internet Week、LLカンファレンスをはじめ多くの活動の秘話や苦労などの話題になり、会場の参加者からも当時の思い出話が飛び出すなど、終始なごやかな雰囲気で進みました。

 第1部の最後には、各登壇者から次世代に向けた一言が伝えられました。

 「UNIXが消えると思った時代もあったが、今はあらゆるところで伸びている。あらためてUNIXの考え方を振り返ることが今後に活きてくるだろう」「その一方で、アジャイルでライトな人が増えているが、カーネルで奥歯がたがた言わせるような人が少なくなっている。インスタンスを作るやつはいるが、クラスから説明できるやつは少ない。今後は根本を理解している人間を増やしていく必要がある」「技術の移り変りは激しいが、古い技術が形を変えて新しい技術として繰り返し出てくる。古い人が生きているうちに過去の工夫の歴史を残しておく必要があるだろう」……。

 そして、「jusがなければ今の自分にはなっていない。引き続き一緒に貢献していきたい」といった熱の込もった言葉が印象に残りました。

これからの勉強会の役割って?

 休憩を挟み、第2部では「これからの30年(?)を考える」をテーマに、今後のjusを担っていく若手の幹事たちが登壇し、これからのjusが果たす役割や可能性について議論をしました。

松澤太郎氏(理事)、榎真治氏(理事)、高野光弘氏(理事)

 まずそれぞれ自己紹介に合わせて、UNIXとの出会いとjusに参加する以前の活動について振り返りました。

 一通り話を聞いてみると、大学の頃にPC-UNIXやSolarisと出会った人が多く、中には以前の職場がUNIX遺産の宝庫で、ddコマンドで複写したと思われるメディアやアーカイブに囲まれながら仕事をしていた、という強者もいました。jus幹事になる前からオープンソースコミュニティでの活動経験がある人が多く、Linuxディストリビューションの開発者、ブラウザやオフィススイートコミュニティのキーパーソンなど、その活動背景が多彩なことが印象に残りました。

 また、jus第3代会長であった坂本文さんの名著「たのしいUNIX」(アスキー刊)が最初の入門書だったというメンバーも何名かおり、会場からは世代交代を実感したかのようなどよめきが生じました。

 まずjusの現在の活動に対して意見が交わされました。例えば、従来からjusの主要活動の1つであるjus勉強会については、「今は非常の多くの無料勉強会が開催されており、jus勉強会の役割が変わりつつあるのではないか」という意見が提起されました。これに対して、「今の無料勉強会は単一のプロダクトに関するものが多く、そのプロダクトの範囲内での学習になりがちなのに対して、jus勉強会は担当幹事の興味をベースにテーマが複数領域にまたがる傾向があり、そこに価値があるのではないか」という意見がありました。

 また勉強会のテーマ対象として、古くからのjus幹事が大量に持つ知識資産を保存してjus勉強会に活かせないかということも議論になりました。古い知識が決して無駄にならないUNIX文化の特性を「秘伝のタレ」と表現したことに「上手い表現だな」と感じた人も多かったようです。これに対して会場からは、「jusにはワークショップという形式のイベントがあり、自分の成果を発表したい人が『オレのコレ、いーだろ』と見せびらかすための場だった。秘伝のタレも大事だが、自分たちでそういう場を積極的に設けることも意義があるはず」という意見が出ました。

 また、最近は「とにかく勉強会に参加する」ことが目的になっていて、アウトプットがなさそうな人もよく見掛けるが、聞くだけ形式の勉強会ではなく参加型のワークショップの方が今後需要が伸びていくだろうという意見が出ました。「少人数の方が濃密でおもしろいものになる傾向があるので敢えて参加者の人数や対象レベルを絞る」「準備が大変だがハンズオン形式は魅力的である」などの意見も出ました。

岩井雅治氏(幹事)、岡松伸太郎氏(会長)

 次に、jusと接点を持つコミュニティの変化の話題になりました。

 まず、デザイナーという職種の人たちがUNIXサーバを使い始めたことが挙げられました。これらの人たちにとって、シェルスクリプトによる自動化やGitなどのバージョン管理の話は新鮮なのではないか、という意見が挙がりました。また、技術系とデザイン系の双方向で人材の流れがあり、キャリアとして、技術とデザインの両方が分かる人の需要と供給が生まれてきているとの指摘が会場からなされ、さらには「美術系のキャンパスでも100人中10人くらいが手元のMac(OS X)でサーバを稼働させている」「sedやawkには手を出さないけれど、JavaScriptやFlashなどは普通に使うようになっている」といったコメントがありました。

 現在注目を浴びている「オープンハードウェア」の次は「オープンデザイン」の流れが来るという意見もあり、デザイン系の人たちがUNIXを使いたくなるような「何か」を追求してみることもjusの1つの在り方ではないかという意見に共感を示した人は多かったように思います。

 最後に、登壇者から今後30年に向けた抱負が語られました。「jusは各幹事が多くのコミュニティに属しており、横断的にコミュニケーションを取れる特徴がある。その(メタコミュニティ的な)価値を生かす活動をしていきたい」「オープンガバメント、オープンデータなど学術系の人は多いがエンジニアがいない領域で、企画する人とエンジニアをつなぐ場を作りたい」「jusはアカデミックな人との接点もある。エンジニアとアカデミアをつなぐ活動をしたい」「jusには歴史的資産が多いが、どう残していくのか考えていきたい」など、jusの今後の活動領域がまだまだ数多あることを感じさせるコメントが印象に残りました。

最後に

 日本にUNIXが伝わって35年余り、jusが設立されてから30年が経過しましたが、UNIX系OSは廃れるどころかますます利用範囲の拡大を見せており、今やMacやスマートフォンまでもUNIXベースのOSで動いています。jusはそんなUNIX系OSのみならず、その上で動くソフトウエア群、さらにはUNIX的な考え方やユーザーコミュニティの形成・発展までも活動対象と考えています。このレポートを読まれて興味を持たれた方は、ぜひjusの活動にご参加ください。

 また、jus会員向けに月2回程度のニュースレターにおいて各種イベントの予定やそのレポートを配信しております。こちらにご興味ある方もぜひjusの活動にご参加ください。さあ、これからの30年の活動に加わってみませんか?

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