書籍でたどる「リーン」の本質「リーン」と「アジャイル」の関係とは?(1/4 ページ)

昨今、「リーン」という言葉がソフトウェア開発や経営の世界で1つのキーワードになっている。では、そもそも「リーン」とは何か? アジャイル開発の国内第一人者である平鍋健児氏が、リーンの本質と、本質に触れるための関連書籍を紹介する。

» 2013年11月15日 18時00分 公開
[平鍋健児チェンジビジョン]

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 先ごろ出版された「リーン開発の現場:カンバンによる大規模プロジェクトの運営」(ヘンリック・クニバーグ著/オーム社/2013年10月)は、アジャイル開発手法を実践事例の視点から解説した力作である。スクラム、カンバン、XPなどの手法に言及しているが、中でも「リーン開発」を正面から取り上げているのが大きな特徴となっている。

 本書ではリーン開発現場の写真、会話をふんだんに使って事例解説がなされていたり、まさに現場でプロジェクトに立ち向かっているマネージャ、エンジニアたちによって訳されていたりと、実に臨場感あふれる仕上がりとなっている。ちなみに著者のヘンリック・クニバーグ氏は私の長年の友人であり、本書、日本語訳巻末の解説も私が担当した(詳細はこちらで紹介している/参考リンク:「リーン開発の現場」紹介ページ)。

 ただ「リーン」という言葉は、米国で注目を集めた経営書「リーンスタートアップ」で広く知られるなど、昨今は国内でも経営やマネジメント、ソフトウェア開発の世界において1つのキーワードのようになっているものの、その意義や内容に対する認知度は、まだ十分に高いとはいえないのではないだろうか。

 そこで本稿では、リーン開発と、この書籍の内容が正しく理解されることを祈って、「そもそもリーンとは何か?」「 アジャイル開発とはどのような関係にあり、何がリーンとアジャイル開発を結び付けているのか?」をテーマに、関連書籍を提示しながらリーンの本質を解説してみたい(以下、紹介書籍のタイトルは、翻訳版があるものは邦名で、ないものは原題で紹介/紹介書籍の著者名は敬称略)。なお、本稿は書籍巻末の解説に加筆したものを、CC BY-SA 2.1 JPライセンスで公開する。

そもそも「リーン開発」とは何か?

 リーンという言葉は、トヨタ生産方式(以下、TPS)に源流を持つことはご存じの方も多いと思う。「リーン開発」とは、製造業を中心に展開されているリーン生産方式の考え方(リーン思考)を、ソフトウェア開発に応用した手法であり、アジャイル開発手法の1つと位置付けられている。

 ただし、このリーン開発とは、具体的な実践手順や体系的なフレームワークを提示するものではなく、各分野・現場に合わせたプラクティス(実践手段)を作り出すための手助けを提供するものだ。リーン開発の提唱者、メアリー・ポッペンディークとトム・ポッペンディークの2003年の著書「リーンソフトウエア開発 〜アジャイル開発を実践する22の方法〜」においては、以下の「7つの原則」と「22の思考ツール」として提示される。

  • 原則1:ムダをなくす
  • 原則2:品質を作り込む
  • 原則3:知識を作り出す
  • 原則4:決定を遅らせる
  • 原則5:速く提供する
  • 原則6:人を尊重する
  • 原則7:全体を最適化する

 原則1の「ムダをなくす」は、リーン生産の原点である「トヨタ生産方式」の基本理念「ムダの徹底的な排除」に当たり、リーン開発の中核的な価値観となる。また、これらの原則は「最初から正しく計画・決定すること」「仕事は分割・個別管理されるべきこと」を否定し、「非中央集権的体制」「学習と改善」「協調と連携」を前提している点が大きな特徴だ。

 そして、これらの原則を具体化するためのアイデアが「22の思考ツール」だ。ここでは細かな解説は避けるが、「ムダを認識する」「バリューストリーム・マップ」「フィードバック」「イテレーション」「同期」「集合ベース開発」「オプション思考」「最終責任時点」「意思決定プルシステム」「待ち行列理論」「遅れのコスト」「自発的決定」「モチベーション」「リーダーシップ」「専門知識」「認知統一性」「コンセプト統一性」「リファクタリング」「テスティング」「計測」「契約」といったものが用意されている。

 リーン開発の具体的な在り方については後述するが、まず知ってほしいのは、メアリー・ポッペンディークとトム・ポッペンディークは、「リーン原則は広い分野で適用できるが、製造工程に適用されているリーン生産プラクティスを、ソフトウェア開発にそのまま移植することはできない」と述べている点だ。

 というのも、ソフトウェアを作り出す活動は、繰り返し可能な「製造プロセス」ではなく、状況に応じて変化が生じる「開発プロセス」であり、「試行錯誤を含む学習プロセス」であるためだ。つまり「生産手法」であるリーンが「製品開発手法」に応用されるまでには、それなりの経緯があるわけだ。

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