Windowsに古くからあるテクノロジ、追加・変更されてきたテクノロジはたくさんあります。しかし、実際に使って理解しないと、誤った知識が固定化されてしまったり、ブログなどを通じて不正確な情報が広まってしまったりして、ややこしくなることがあります。
「リモートデスクトッププロトコル」(Remote Desktop Protocol:RDP)は、Windows Serverの「リモートデストップサービス」(旧称、ターミナルサービス:TS)におけるマルチユーザーセッションや、Windows XPからWindows 8.1までの企業向けエディションがサポートするリモートデスクトップ接続におけるシングルユーザーのリモート接続を可能にするアプリケーションプロトコルです。
ざっくりと説明するなら、「Windowsのデスクトップ画面の表示とマウス/キーボード/タッチ操作の転送をTCP/IPネットワーク上でやり取りするためのプロトコル」ということになります。
RDPは、1998年にリリースされたWindows NT Server 4.0, Terminal Server Edition(TSE)というマルチユーザー利用専用のサーバーOSとともに初めて登場しました。最初のRDP 4.0は、最大256色、最大解像度1024×768と、現在のRDPとは比べものにならないほど、機能や性能が不足していました。
その後、Windows 2000 Serverではマルチユーザー利用の機能が、ターミナルサービスとしてOSに統合されました。Windows XP Professionalからは、ターミナルサービスの機能がシングルユーザー限定で組み込まれています。また、Windows XP以降のWindowsには、「リモートデスクトップ接続クライアント」(RDC)が標準搭載されるようになりました。
RDPの最新バージョンは、Windows 8.1およびWindows Server 2012 R2に搭載された「RDP 8.1」になります。以下の表1に示すように、OSのバージョンアップとともにRDPのバージョンも新しくなってきました。その間、数多くの改善や新機能の追加が行われてきました。
RDPバージョン | 初めて搭載されたWindowsバージョン |
---|---|
RDP 4.0 | Windows NT Server 4.0, Terminal Server Edition |
RDP 5.0 | Windows 2000 ServerおよびWindows 2000 Advanced Server |
RDP 5.1 | Windows XP |
RDP 5.2 | Windows Server 2003 |
RDP 6.0 | Windows Vista |
RDP 6.1 | Windows Server 2008およびWindows Vista SP1 |
RDP 7.0 | Windows Server 2008 R2およびWindows 7 |
RDP 7.1 | Windows Server 2008 R2 SP1およびWindows 7 SP1 |
RDP 8.0 | Windows Server 2012およびWindows 8 |
RDP 8.1 | Windows Server 2012 R2およびWindows 8.1 |
表1 RDPのバージョン |
例えば、RDP 6.0では32ビットカラーやマルチモニターがサポートされました。RDP 6.1では「ネットワークレベル認証」(Network Level Authentication:NLA)という重要なセキュリティ機能、「RDゲートウェイ」(旧称、TSゲートウェイ)や「RemoteApp」(旧称、TS RemoteApp)といった新機能が搭載されました。
RDP 7.0ではVDI(Virtual Desktop Infrastructure:仮想デスクトップインフラストラクチャ)対応やAeroグラス表示への対応が行われました。RDP 7.1で「RemoteFX」が始めて登場し、RDP 8.0ではWAN(Wide Area Network)対応とエクスペリエンス機能を大幅に強化。RDP 8.1ではシャドウセッション機能の復活(RDP 8.0のときに削除された)やクイック再接続機能が追加されています(画面1)。
このようなRDPのバージョンアップと機能の変更は、さまざまな誤解を生むことになってしまいました。例えば、RDPの“RemoteFX”と聞いて何をイメージするでしょうか。GPUの仮想化(RemoteFX Virtual GPU)をイメージする人もいれば、USBデバイスのリダイレクト(RemoteFX USBデバイスリダイレクト)をイメージする人、WAN対応やマルチタッチ(RemoteFX for WAN、RemoteFXマルチタッチ)をイメージする人もいると思います。
2013年10月、マイクロソフトはAndroid、iOS、およびMac OS X向けの「Microsoft Remote Desktopアプリ」(無償)を、各デバイスのオンラインストアに公開しました(画面2)。
Windows 8.1と同時期にマイクロソフトから提供されること、各アプリのバージョンが「8.0.x」であること、マルチタッチやRemoteFX対応であることなどから、RDP 8.1(あるいはRDP 8.0)に対応した“マイクロソフト純正クライアント”であると思っている人は多いのではないでしょうか。既に実際に利用していながら、そう信じて疑わない人もいるかもしれません。
しかし、Android、iOS、Mac向けのアプリがRDP 8.1対応というのは「完全に誤り」です。マイクロソフトの以下のWebサイトのFAQページにあるように、これらのアプリはRDP 7.1互換です。
Is the Remote Desktop Client compatible with RDP 7.1?
Yes, the Remote Desktop client supports RDP 7.1 and all previous versions including: RDP 7, RDP 6.1, RDP 6, RDP 5 and RDP 4.
RDPのプロトコルとしては2世代前のバージョンであり、最新のRDP 8.1とは大きく機能差があります。しかも、RDP 7.1互換ではありますが、RDP 7.1の全ての機能に対応しているわけでもありません。
これらのアプリについて、多くのニュースメディアやブログで“純正”という表現がなされていますが、実は、これらのアプリはマイクロソフトが新たに開発したアプリでさえありません。公式な発表がないため、会社名や製品名には言及しませんが、他社の製品をマイクロソフトが取得して、マイクロソフトブランドでの提供に切り替えたということになります。その取得した製品がRDP 7.1互換クライアントだったということです。
RDP 8.1に標準対応している最新のWindows以外で、RDP 8.1クライアントが提供されているのは、現状、Windows 7 Service Pack1(SP1)およびWindows Server 2008 R2 SP1だけです(画面3)。これらのWindowsをRDP 8.1に対応させる更新は2013年11月にリリースされました(その後、不具合があって2014年2月に再リリース)。こちらの純正クライアントより先に、Windowsでないデバイスに対してRDP 8.1対応クライアントが提供されるわけがありません。
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