運用自動化、ツールの種類やOSS/商用の違いを問わない運用設計の作り方、進め方特集:運用自動化ツールで実現する、クラウド時代の運用スタイル(1)(2/4 ページ)

» 2014年08月27日 18時00分 公開
[内野宏信@IT]

ここまで進んだ運用自動化。サイロ化したシステム、手順をまず見直そう

 「国内の運用自動化ツール市場は2012年ごろから活性化し始め、2013年には約915億円を記録した。これは約1000億円規模のデータベース市場に次ぐレベルであり、市場規模としてはかなり大きい。この背景として、以前は開発環境として使われることが多かった仮想環境が実環境として使われるようになり、多くの企業が“仮想環境に即した新しい運用管理スタイル”を模索し始めたことが挙げられる」

ALT IDCジャパン ソフトウェア&セキュリティ シニアマーケットアナリスト 入谷光浩氏

 入谷氏はまずこのように市況を概観した上で、運用自動化ツール市場には大きく二つの分野があることを示す。

 一つは従来からあるジョブスケジューリング、もう一つは、例えば仮想サーバーのプロビジョニングやインシデント対応の自動化など、「複数のツールを使って、複数のステップを踏む作業をポリシーに沿って自動化」するサーバーワークロードオートメーション/オーケストレーターだ(以降、便宜的に「オーケストレーター」と表記する。なお、このオーケストレーターとは、一般的にいわれている「ランブックオートメーション」とほぼ同義)。

ALT 図2 「国内ワークロードスケジューリング/オートメーションソフトウェア市場 サブ機能別 売上額予測、2013年〜2018年」(単位:百万円/IDCジャパン調べ)。2013年は実績値、2014年以降は予測値。

 「運用自動化ツール市場の大半を占めるのはジョブスケジューリングで、2013年は約831億円。一方、オーケストレーターは約83億円(表中ではデータセンターオートメーションと表記)。市場規模はまだ10分の1ながら、2013年のCAGR(年平均成長率)はジョブスケジューリングが2.1%に対し、オーケストレーターは38.3%。今後も2018年までのCAGRは前者が2.6%、後者は25.7%で推移すると予測している。仮想化、クラウド環境が多くの企業に浸透している今、その運用管理スタイルを見直し、今後、積極的に運用自動化ツールの導入に乗り出していくケースが増えると考えられる」

 ジョブスケジューリングの市場規模が大きいことの背景には、日本企業特有のサイロ型のシステム構築という問題が横たわっている。例えば基幹系にしても、会計、販売、生産管理といったように、部門ごとに個別にシステムを構築している例が多い。このため一連のデータ処理を行うために、「サイロ化した各システム間でのバッチ処理をいかにうまく流すか」がマストの要件となるわけだが、ここにジョブスケジューリングが使われているためだ。例えばその日の売上額が出ると、販売管理システムからバッチで会計システムにデータを渡し、さらに生産管理システムにも必要なデータを流して、それに合わせて生産・在庫数を処理、会計システムは日次処理をして月次のデータベースにもデータを格納する、といった具合だ。

 その点、欧米企業では基幹系にERPパッケージスイートを使っているケースが主流だ。そのパッケージスイートが実装している運用プロセスに合わせて、カスタマイズすることなく運用している例が多く、日本ほどジョブスケジューリングの市場規模は大きくないという。つまりシステム、運用プロセスともにサイロ化せず、ある程度、標準化されている。運用プロセスの効率という面では明らかにこちらの方が優れている。

 「運用自動化の鍵もプロセスの標準化にあり、よりシンプルな運用プロセス、運用ポリシーを整備することがツール導入の前提条件となる。部門ごとにシステムがサイロ化していると、例えば同じシステムでも運用手順や運用ポリシーが部門ごとに異なっている例が多い。その状態のまま自動化ツールを適用しても、部分的な自動化の集積にすぎず、効率化の効果は低い。まずは現在の運用プロセス/ポリシーを見直し、自動化すべきプロセス、人手が必要なプロセスを切り分けて、全社のシステムに適用できるプロセスを整備することが重要だ。ジョブスケジューリングにしてもオーケストレーターにしても、そうしたプロセス、ポリシー整備がツールを有効に生かす上で大前提となる」

自動化が必要な運用プロセスと、導入企業の達成度

 では「自動化する運用プロセス」としては、具体的にどのようなものが挙げられるのだろうか? これには大きく分けて二つの種類がある。一つは「個々の作業項目の自動化」、もう一つは「個々の作業項目を連携させる自動化」だ。

 入谷氏は同社の調査結果から、「運用管理項目別システム運用管理の自動化レベル:運用サーバー台数別」を提示する。プライベートクラウドを導入/検討しており、運用自動化ツールを導入している企業に聞いた、各作業項目の運用管理プロセスにおける自動化レベルのアンケート結果だ。

ALT 図3 「運用管理項目別システム運用管理の自動化レベル:運用サーバー台数別」(IDCジャパン調べ/2014年発表/n=456社)《クリックで拡大》

 これを見ると、最も達成率が高いのは前述のようなジョブスケジューリングだが、サーバー、ネットワーク、アプリケーションの稼働監視が続き、次いでIT資産管理、イベント管理、システム変更/構成管理と続いている。

 「サーバー台数が多いほど、自動化の達成率が高い。実際、数十台規模になると自動化はほぼマストといえる。ただポイントの一つは、このように見ていくと、各作業項目ともそれなりに達成できてはいるのだが、今後は“各項目の連携”が重要になってくることだろう」

 例えば、仮想環境では動的にシステム構成が変化する。従って、仮想サーバーの配備/廃棄に応じて、自動的にインベントリ情報が更新されるなど、変更管理とIT資産管理の連携が求められる。インシデント管理についても、日々寄せられるユーザー部門からの問い合わせに対し、過去のインシデントを管理・分類しておき、自動的に回答したり、インシデントチケットを自動的に発行したりする仕組みや、問題管理と切り分けて自動的に蓄積しておく仕組みなどが求められる。

 イベント管理の場合、システムに異常があるとアラートが発信され、管理者にメールで通知される。このアラートの緊急度・深刻度を見極め、対応の優先順位を考えることも工数が掛かるポイントだ。そこで多くの場合、閾値を設定してアラートを絞り込んでいるが、システムリソース、パフォーマンスが変動する仮想環境では、閾値の設定自体が難しくなっている。そこで最近は動的に閾値を設定できるツールも登場しているが、「例えば、そうしたツールとサーバー、ネットワーク、アプリケーション監視を連携させるなどしてアラートを減らすことも必要だ」。

 「つまり運用自動化を考える上では、現在のシステム構成と運用手順を可視化することが大前提。まずはシステム構成と、サーバー監視、インシデント管理など、個々の作業項目の中身を明らかにし、一つ一つ運用手順を精査し、効率化する。その上で、各作業項目の連携を考えるアプローチが大切だ」

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