若い感性と企業のコラボで、デジタルはここまで楽しくなれる。実際に体感できる近未来を展示した、「KMD Forest the 5th KMD Forum」リポートをお送りしよう。
キャンパスのアイコンともなっている銀杏並木が、目にも鮮やかな金色(こんじき)で視界を覆う2014年11月22日、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(KMD)の研究成果を一般公開する「KMD Forest the 5th KMD Forum」が開催された。たまたま近所に住む筆者は、この催しを楽しみにしている。どの展示からも、若い感性のほとばしりを浴びるように感じることができ、ビジネス系の展示会では味わえない、ほのぼのとした余韻を身にまといながら帰路につくことができるからだ。
産業界と大学とが連携して新しい技術の教育や研究に取り組む流れが当たり前になっている昨今だけに、企業色が完全に排除されているわけではない。「展示の半分程度は、企業とのコラボ作品」(砂原秀樹 慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授)というだけに、ユニークなシナジー効果を生み出している例も多々ある。早速、今回印象に残った研究成果の一部をご紹介しよう。
前回のKMD Forumで登場したOculus Riftによるジャンプ体験が「StratoJump」という名称でさらなる進化を遂げて展示されていた。今回は、高度約2万メートルまで一気に上昇し、そして一気に降下するというロケットエレベーター状態を体験できるというのだ。前回の「HiyoshiJamp」は、日吉キャンパスの上空数十メートルまでの上昇だったので、到達高度という意味では、まさに超絶の進化だ。
Oculus Riftというのは、ゴーグル型ヘッドマウントディスプレイ(HMD)のことで、3Dゲームや映像の中に没入する仮想現実(Virtual Reality)体験を実現するデバイスだ。2014年の3月にフェイスブックがメーカーの米Oculus VRを約20億ドルで買収したことが話題となった。フェイスブックCEOのマーク・ザッカーバーグ氏は、世界をつながったものにするというフェイスブックの使命を果たすための手段として、仮想現実がモバイルの次に来るものであり、そのためにOculus VRを買収する、といった趣旨の発言をしている。
前述のように前回の「HiyoshiJamp」では、クアッドコプターに360度動画が撮影可能なカメラを搭載し、数十メートルの高さまで飛ばすることで映像素材を撮影したのだが、今回は、2万メートルという成層圏の高みを目指すため小型気球を利用したという。2014年の7月に岩手県の陸前高田市から気球を飛ばしたそうだ。気球を飛ばす様子は、共同で研究を進める東京大学大学院情報学環暦本研究室のサイトに写真が掲載されている。
「HiyoshiJamp」では、クアッドコプターで撮影した動画を一コマずつ切り出し、Oculus Riftから入力された加速度に連動する形で上昇や下降映像の速度を調整していた。一方、今回の「StratoJump」では、「ソニーコンピュータサイエンス研究所(Sony CSL)のモーションスタビライジング技術が最大の特徴」(Unity Technologies Japanクリエイティブ・ストラテジストの簗瀬洋平氏)だという。
気球に360度カメラ、具体的には6台のGoProを吊り下げての撮影だが、当然カメラは揺れたり回転したりする。それをモーションスタビライジング技術で安定した映像に変換しているという。Oculus Riftを覗いているときは気が付かなかったが、簗瀬氏に言われてパソコンの映像をよく見ると、亀の甲羅を思わせる枠のようなものが風景の上にぼんやりと重なって映っており高速に回転している。これは6台のカメラの映像のつなぎ目だという。
つまり、本来なら風景が回転し、カメラのつなぎめが静止して映っているはずだが、モーションスタビライジング技術によりそれを逆に変換していることになる。気球に吊り下げているので、かなり高速に回転していると想像できるが、前出の動画「StratoJamp」でも分かるように、見事に安定した風景が映し出されている。「Sony CSLには、不安定な動画をリアルタイムで補正して安定した映像に変換する技術がある」(簗瀬氏)そうだ。
FacebookがOculus VR買収を発表した直後、同社は株価を大きく下げた。市場はこの買収に懐疑的な見方をしたということだ。3Dゲーマーや先進的なユーザーには関心の高いOculus Riftだが、このような、万人に理解しやすいコンテンツが増えれば、一般ユーザーの間でも市民権を得るようになるのだろう。そのときこそマーク・ザッカーバーグ氏のOculus VR買収が正しかったことが証明されるのかもしれない。
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