米シスコシステムズが、OpenStackディストリビューションのベンダーであるPiston Cloud Computingを買収することが、2015年6月3日(米国時間)に明らかになった。シスコが6月7日より、米サンディエゴで開催する年次技術イベント「Cisco Live!」における発表の目玉の1つはIntercloudだとされる。Pistonの買収はこれに関連してくる。
米シスコシステムズが、ユニークなOpenStackディストリビューションのベンダーであるPiston Cloud Computingを買収することが、2015年6月3日(米国時間)に明らかになった。シスコが6月7日より、米サンディエゴで開催する年次技術イベント「Cisco Live!」における発表の目玉の1つはIntercloudだとされる。Pistonの買収はこれに関連してくる。
Pistonは、NASAでクラウド基盤ソフトウェア開発プロジェクトのチーフアーキテクトを務めたジョシュア・マッケンティ(Joshua McKenty)氏が、Rackspace出身のクリス・マクガワン(Christopher MacGown)氏ととともに創業した企業。NASAのクラウド基盤プロジェクトはOpenStackに発展し、マッケンティ氏はOpenStack Foundationの理事会メンバーを務めてきた(同氏は2014年9月、Pivotalに移籍し、Cloud FoundryのフィールドCTOを務めている)。
Pistonは、OpenStackディストリビューションベンダーの草分け的な存在だ。その製品「Piston CloudOS」は、OpenStackディストリビューションが増えた現在も、ユニークな存在といえる。
「プライベートクラウドのためのターンキーソリューション」と表現される同製品は、サーバーだけで(つまりストレージ装置なしに)OpenStackインフラを構築することを前提としている。インストールはほぼ自動的に行える。人手の介在なしに、各種OpenStackコンポーネントがHA構成で分散配置、実行される。分散コンピューティング的な考え方をベースとしていて、セキュリティおよび可用性についても独自の機能を提供している。
シスコは以前よりPistonの出資者に名を連ねてきたが、一方で 2014年にはMetacloudを買収した。MetacloudはサービスとしてのOpenStackとして、 「Cisco OpenStack Private Cloud」を提供している。これは、顧客が社内に導入するOpenStackインフラを、遠隔的に運用代行するというものだ。
では、Pistonの買収を、シスコはどう生かそうとしているのか。シスコのPiston Cloud買収を、ブログで明らかにしたヒルトン・ロマンスキ(Hilton Romanski)氏は、「Pistonの買収はCisco OpenStack Private Cloudの基盤となるインフラについての運用性を付加し、当社のIntercloud戦略を補完してくれるものとなる」という表現にとどめている。
だが、インストールと運用のしやすいOpenStackディストリビューションと、運用代行サービスを組み合わせることで、一般企業におけるOpenStackの利用をさらに促進できることになる。さらにPistonは、Swisscomのベンチャー出資部門が出資し、Swisscom本体も導入を進めるなど、通信事業者の顧客を獲得している。ここにも、シスコのIntercloudとの接点がある。
シスコのIntercloudとはマルチクラウド連携の戦略。ACIを絡めたネットワーク的な相互接続に加え、OpenStackをベースとしたクラウドレベルの相互運用を目指している。ユーザー企業にとって、複数のクラウドサービス事業者が、あたかも単一のサービスであるかのように使えるような環境を提供しようとしている。シスコ自身も、OpenStackベースのクラウドサービスを提供し、一般企業のプライベートクラウドとの接続を図ると同時に、これを他のクラウドサービス事業者に対するハブとして機能させようとしている。
Intercloudでシスコのパートナーとして参加している企業には、BT、Equinix、Deutsche Telekom、Telstraなど、通信関連事業者が多い。「通信事業者のなかには、OpenStackの大規模運用ノウハウを蓄積したいとは思わないところもある、Pistonはこうした企業に歓迎されている」、とマッケンティ氏は2014年、筆者に語っていた。
Intercloudは、一般企業に向けたSDN/クラウド戦略である一方、通信事業者をはじめとしたサービスプロバイダーに対する、製品・技術展開戦略でもある。シスコはPistonのCloudOSを、この双方に貢献するものとしてとらえている可能性がある。
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