プログラマーにしてWeb系企業の採用担当の「きのこる先生」が指南する、転職サービスに依存せずソーシャルなつながりを活用する「転職2.0」の活用法。今回は、求人企業側から見た旧来の採用方法の問題点と、それを是正するために登場した「Wantedly」の概要を紹介しよう。
エンジニアを取り巻く転職事情はここ数年で、従来の転職サイトや転職エージェントを利用するスタイルから、オープンでソーシャルなスタイルへと大きく変化しました。エンジニアが納得のいくキャリアを自律的にドライブするには、転職をどのように考え、どのように取り組めばよいのか。元プログラマー、現Web系企業人事担当者の「きのこる先生」が「かろやかに」に指南します。
こんにちは。プログラマーにして採用担当、子煩悩だがワーカホリック、ごはん派できつね派でミルクティー派のきのこる先生です。一人称は「菌類」です。エンジニアがキャリアを考える上で選択肢の一つとなる「転職」を、転職しようとするエンジニアにとっても、採用しようとする企業にとっても、ハッピーなものにする。そんな野望を持った菌類による連載「かろやかな転職」の第2回へようこそ。
前回は、従来型である「転職1.0」の限界と、バージョンアップ版である「転職2.0」とはどんなものかについてお話ししました。今回は、エンジニアを採用しようとする企業側から見た転職市場の状況と、そこから生まれた「転職2.0」への流れについて説明します。
前回、転職1.0の問題点を以下のようにまとめました。
「ITのプロフェッショナルではないエージェントが、採用の瞬間をゴールとしてマッチングを行う」システムが、転職1.0の限界として顕著になってきた
しかしこれだけでは、「対応策→エージェントちゃんとやれ」になってしまいます。それはあまりにも一方的な決め付けであり、日々エンジニアの発掘に勤しむエージェント諸氏に大変失礼なまとめですから、おわびしつつ詳細に掘り下げていく所存です。
突然ですが、あなたは転職を考えていますか? 以下の選択肢からお選びください。
「1」を選んだ方、つまり積極的に転職活動をしている人々を採用側は「転職顕在層」と呼びます。それに対して「2」を選んだ方、つまり積極的に転職活動はしていないが「良いところがあれば」と考えている人々を「転職潜在層」と呼びます。「3」を選んだ方は……お一つお茶でもどうぞ。ゆっくりしていってね。
転職顕在層は、やることが非常に分かりやすいですね。転職サービスに登録し、エージェントから紹介を受け、マッチ(採用側、転職希望側双方の希望条件が合致する)すれば採用されます。お疲れさまでした!
一方、転職潜在層は「潜在」というだけあって、採用する側からすれば、見つけるのは一筋縄ではいきません。温度感の差こそあれ、今の仕事をすぐに辞める理由はない場合がほとんどですから、転職サービスには登録しませんし、周囲に「良い仕事ないかな?」と相談することもありません。
求めるポジションにマッチした、活躍しそうなエンジニアが転職顕在層にたくさんいるならば、企業も転職サービスも中途採用について思い悩むことはないはずですが、昨今の深刻なエンジニア不足を見ると、話はそう簡単にはいかないようです。
ここからは簡単な算数のお話です。先ほど「たくさんいるならば」というキーワードが出ましたので、「転職顕在層がどのぐらいいるのか?」という数字を探してみました。
複数の調査を見ると、転職潜在層は15〜20%、転職するつもりはない層が10〜20%、それ以外の60〜75%が転職潜在層、という数字が見えてきます。
採用担当をしている菌類の体感からも、だいたいこの数字で問題ないと思いますので、ここでは「2:7:1」を各層の比率として設定します。つまりエンジニアの20%が「転職顕在層」、70%が「転職潜在層」、10%が「転職しない層」です。
さて、皆さんは「パレートの法則」をご存じでしょうか。「働きアリの法則」とも呼ばれ、「アリは、集団のうち2割が食べ物の8割を集めてくる」という分析から提唱されています。
菌類はこの法則が結構好きで、いろんなものに当てはめては納得したりニヤニヤしたりしています。エンジニアのチームにも当てはまるケースが多いと感じています。つまり、「エンジニアは、チームのうち2割が成果の8割を挙げている」ということ。チームリーダーやマネジャーを経験したことがある方なら、何となく納得できると思いますが、いかがでしょうか。
では、先ほどの「転職顕在層」に、「パレートの法則」を当てはめてみましょう。「転職顕在層は全体の20%」であり、「企業が採用したくなる=活躍してくれそうなエンジニアも全体の20%である」。これらの仮定を乱暴に掛け算すると……
転職顕在層「20%」×活躍してくれそう「20%」=4%
何ということでしょう。企業が転職顕在層から募集要項にぴったりなエンジニアを採用しようとすると、エンジニア全体の4%しか対象にならない、ことになります。
しかもそういうエンジニアはたいてい、一度の転職活動で複数の内定を獲得し、会社を「選んで」転職していきます。つまり、転職顕在層にとどまる時間が短いのです。その結果、「活躍してくれそうなエンジニアは、転職顕在層からあっという間に掘り尽くされる」という現象が発生します。
エンジニアには、ボーナスや年末年始、プロジェクトの切れ目となる期末など、転職を考えるタイミングが存在するので、企業がエージェントから紹介されるエンジニア数の多寡(多い少ない)には「周期」があります。
しかし、活躍してくれそうなエンジニアは、これらのタイミングとは関係なく、すぐに転職顕在層からいなくなってしまいます。
企業にとっては、転職が発生しやすいタイミングで一定数のエンジニアをエージェントが紹介してくれるのですが、その中には自社で活躍してくれそうなエンジニアはおらず、しかもそれ以降は、「以前Aというエージェントが紹介したエンジニアを、別のBというエージェントが紹介してきた」り、「今は候補者の数が……」と紹介されるエンジニアの数が激減したり、ということが続き、採用活動が長期化してしまうのです。
これが企業にとっての転職1.0における問題点の一つ、「転職顕在層の枯渇」です。
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