スマートハウスを、エネルギーについての管理だけでなく、「家族」「地域」というコミュニティを支えるプラットフォームと捉えて、家族間のコミュニケーションや、行動履歴に基づいた「見守り」などのサービスを提供するクラウドサービスだ。
ユーザーが利用する端末としては一般的なスマートフォンを想定しており、アプリから、住居設備の操作、エネルギー関連情報の参照、他の家族の状況確認、自治体情報の取得などを一括して行えるようになっている。
また、ユーザーごとの行動を学習することで、不審な状況が発生した場合の早期検知なども可能にするという。このデータ分析による学習機能は、セキュリティ企業などとの連携や、ユーザーに対するサービスのレコメンド機能などへの発展が見込めるため、ビジネス機会の創出につながるという。
SmartPixelは、HEMSの提供するサービスの一つである「消費電力の見える化」に着目したインテリア型の情報提示デバイスだ。試作品は手のひらに載る程度の大きさの三角形で、色や点滅パターンなどを変化させられるLEDを搭載している。ユニークなのは、このデバイスを複数個組み合わせて、協調動作させることができ、その動作の内容をユーザーがカスタマイズできる点だ。
開発者は「HEMSによる消費電力の見える化が注目されているが、課題としてHEMSで提示される具体的な数値を人間が見ても意味がよく分からず、節電へのモチベーションが高まらないことが挙げられる。HEMSからユーザーへの情報コミュニケーションをより効果的に行うためにどうすべきかを考えて作ったのがSmartPixelだ」と説明した。
ネットワークから得られる情報を、SmartPixelの色や形で表現することで、より直感的な情報把握が可能になるという。使用例としては、消費電力が目標値を上回っているときに壁に設置したデバイスの色を変化させたり、朝起きたときに天井に配置したデバイスで天気を把握したりといったものが考えられるとしている。
「生活者のエコ意識の向上」を目的に、電力消費の「見える化」ならぬ「聞こえる化」を行うデバイスが、Eastlabによる「チャリーン」だ。「チャリーン」では、その名が示す通り、家庭で電力が消費されると、その電気代に合わせてデバイスから「チャリーン」という硬貨の落下音が発生する。
開発者は「誰でも、受動的に、電力消費プロセスを把握できる」環境を作ることが、今回の作品におけるゴールと設定し、そのためのコミュニケーションチャンネルとして、あえて「視覚」ではなく、より受動的に把握できる「聴覚」を選択したとしている。
同作品では、スマートフォンを通じて仮想的に「電気代の先払い」を行う仕組みも用意されている。この仕組みと「硬貨の落下音」を組み合わせることで、ユーザーが電力消費プロセスに、より意識的になることを意図しているという。
室内にあるエアコンや照明といった機器を制御して、温度や明るさによる「空間演出」を手軽に楽しむことを可能にする作品が、くにきやらぼによる「4Dコントローラー」だ。
例えば、ホームシアターでアクション映画を見ているとき、この4Dコントローラーを利用すると、爆発シーンで部屋の照明が明滅したり、炎が上がるシーンで部屋の温度を上げたりといったことができる。自動制御の具体例としては、スマートフォンのクライアントでテレビ音を文字に変換(HOYAサービスのVoiceTextWebAPIを使用)し、その内容をメタデータの「ネガポジAPI」で分析。その内容に合わせて、照明とエアコンの調整を行うなどが可能だという。
なお、「4Dコントローラー」のスマートフォンアプリケーションはAndroidで動作し、機器を制御するためのサーバーとしてはRaspberry Pi 2 Model Bを利用したという。HEMSの用途として、「省エネ」や「エコ意識」を軸にした作品が多かった中で、あえてその制御機能をエンターテインメントの観点で利用する視点がユニークだ。開発者によれば、4Dコントローラーは、ホームシアターでの映画鑑賞だけでなく、「目覚めに合わせた爽やかな風や映像」「帰宅後にリラックスできる照明や音楽」の演出などにも応用可能という。今後は、「ユーザーの感情や動作に合わせた演出」の可能性も検討したいという。
「Chacom」は、HEMS対応機器の制御やデータの参照を、いわゆる「LINE」のようなチャットツール型のユーザーインターフェースで行えるスマホアプリだ。
開発チームは「HEMSの課題として、データや機能を前面に押し出したものが多く、女性にとって親しみが湧きづらいことが普及の妨げになっている」と、現状の問題点を指摘する。Chacomでは、チャットツール上のテキストや「スタンプ」を通じて「家と会話する」というメタファーを使うことで、より直感的に、楽しく、HEMSを利用できることを目指したという。
Chacomのクライアントは、家族間のグループチャットツールとしても利用でき、そのグループ内に「家」のキャラクターが発言する形で、さまざまな情報を提示する。エアコンや照明機器のオン/オフは、「スタンプ」送信の形で指示ができ、家の外からでも操作が可能という。
Happy Artifact Labの「HAL2015」は、HEMSが提供する多様な機能を扱うためのユーザーインターフェースをインテリジェント化することに主眼を置いた作品。
開発者は「家電のリモコンなどを見ても分かるように、機能が増えれば、それだけ操作系も増え、使い方が難しくなっていく。未来のスマートハウスも同じような問題を抱える可能性がある」と指摘する。HAL2015で目指したのは「HEMSにおけるルンバ」だという。掃除ロボットのルンバは、完璧な掃除は難しい一方、ただ動かしておくだけで1日の生活時間に30分の余裕が生まれる点が、多くの人に「使いたい」と思わせるポイントになっていると分析する。精度については割り切ることで、ユーザーがよりシンプルにシステムの「便利さ」を享受できる仕組みが理想というわけだ。
HAL2015では、HEMSで操作できる家電の近くにビーコンを設置する。端末となるスマートフォンを持ったユーザーが近づくと、ビーコンからIDを取得でき、画面上にはその家電を操作するためのUIが自動的に呼び出される。スマートフォンの画面には、AR(Augmented Reality)のような形で、ユーザーが見ている場所の映像と重なってUIが表示され、別途用意された杖状のデバイスを動かすことで、その操作ができるようになっている。呼び出されるUIは機器ごとに異なるが、その操作は「杖」のデバイスで一括して行える。また、デモの画面上には「クマ」を模したキャラクターも同時に表示され、機器からのメッセージは、このキャラクターを通じてユーザーに伝えられるようになっていた。
将来的には、スマートフォンだけではなく、メガネ型のディスプレーデバイスなどを利用することで、より自然な空間インターフェースの実現に発展させていきたいという。
現状のHEMSにおいて、ユーザーがサービスを利用する際には、スマートフォンやPCといったデバイスを使うケースが一般的だ。逆に言えば、それらを日常的に使っていない人にとって、HEMSの恩恵は非常に限定的であるともいえる。「HEMSプリンター」はメディアとして「紙」を使うことで、より多くの人に分かりやすい情報提示を行うことを提案するデバイスである。
デバイス上に存在するのは、情報をプリントアウトするための「ボタン」が1つだけ。このボタンをユーザーが押したときに、「今月の節電目標達成度」や「周辺の天気予報」あるいは近所のスーパーやコンビニの「日替わりクーポン」といった、ボタンを押したタイミングに合わせた情報が、レシートのような形式で出力される。出力にはHEMS機器からの情報を適宜織り交ぜることが可能で、例えば、外出時には冷蔵庫から取得した「食品補充」を促す通知を、帰宅時にはドアホンのカメラから取得した「留守中の訪問者」に関する情報などを、ぞれぞれプリントアウトさせることも考えられるという。
バックエンドでは、どの情報を、どのタイミングで提示するかの複雑な判断が行われるが、それをユーザーが参照する際に必要なのは「ボタン」を押すというシンプルな動作だけ。さらに出力先が「紙」であるため、可搬性が高く、廃棄してもコストが少ない点がポイントになる。また「割引クーポン」の出力など、ビジネスとしての展開も現実的に考えられた作品になっている。
SUSHITRONICSの「hometalk」は、家族で利用できるメッセージングアプリと、そこに参加するホームアシスタントAIの「トト」から構成される。「家」を家族の一員と捉え、AIである「トト」による発言がHEMSからの情報を家族に伝えるとともに、「トト」へ話し掛けることによって、家電の制御が行える。
例えば、家族が全員外出している際にも、hometalk上の「トト」に話し掛けることで、家が施錠されているか、電気が消されているかという状況を確認できる。また、「トト」自身も家の消費電力などを監視しており、必要に応じて「電気を消しますか」「鍵をかけますか」といった形で話し掛けてくる。もし、外出時に鍵をかけ忘れたり、電気を消し忘れたりしていたことに気付いた場合には、「お願い」と送信することで、遠隔から機器を操作できる。
「トト」には、家族それぞれの帰宅通知や、節電アドバイスなどの機能を持たせることもできる。チャットツールをHEMSのユーザーインターフェースとして利用するというアイデアは他にもある中、「hometalk」はAIの「トト」という形で家にキャラクター付けを行い、会話内容を音声で同時に再生するなどの点で、より作り込まれた印象があった作品だ。
「Secure Home」は、主に留守中の「セキュリティ」を高めるためにHEMSを活用するという視点の作品だ。開発者は「家の防犯は、現在ホームセキュリティ会社がけん引しており、市場も拡大傾向にある。結果として、空き巣被害は減少傾向にあるものの、セキュリティ会社との契約に基づく家計負担は月当たり6000円超と、決して軽くないものになっている。Secure Homeは、主に空き巣に狙われにくい環境を作るために、家単体でできることはないかと考えて開発した」とする。
近年の空き巣狙いの傾向として、下見を十分に行った上で、家主が家にいない時間帯を把握し、その時間帯に実行する傾向があるという。つまり、「常に『家に人の気配がある』状況を作り出すことで、ターゲットとして狙われにくくなる」のが、Secure Homeの基本的な考え方だ。
Secure Homeでは、テレビや照明、窓やカーテンといった家の構成要素を事前のスケジューリングによって自動的に動作させることで、留守宅に人がいるような気配を作り出す。さらに、事前に設定されたスケジュールだけでなく、周囲の気象情報なども考慮することで、「雨が降っているのに窓が開いたままになっている」といった不自然な状況が起こらないよう補正も行えるという。
開発者によれば、この仕組みは住む人がいなくなった空き家の管理や、高齢家族の遠隔見守りなどにも拡張が可能とのことだった。
海外からの参加となった、FraSenの「Sleep Sence」のアイデアは、スマートハウスの機能を、住人の「睡眠」の質を高めるために活用するものだ。具体的には、各種の生体センサーを搭載した「アイマスク」型デバイスとスマートフォンを使い、室温や部屋の明るさ、BGMを調整することで、より快適な睡眠を取りやすい環境を作り出す。
アイマスク型のデバイスでは、体温、心拍数、脳波といった生体データを取得する。取得したデータはスマートフォンを通じてサーバーに送られ、HEMS機器の制御命令に変換される。入眠時の体温変化に合わせた室温の調整や、睡眠の深さに応じた照明の制御といったことができる。状況に応じて、オートマチックとマニュアルの両形式による環境操作が可能だ。
取得できる生体データの種類や、その分析アルゴリズムを追加すれば、睡眠に限らず、より総合的なヘルスケアツールとしての活用も可能とする。また、家主が睡眠に入ったタイミングで玄関に施錠をしたり、カーテンを閉めたりといった動作を行えるため、ホームセキュリティツールとしての側面も兼ね備える。
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