「一生、現場で活躍したい」と思っているのに後輩の指導役を打診された。この話、受けるべきか、否か――エンジニアがエンジニアとして生き残るためには、ビジネス的な観点が必要だ。ビジネスのプロである経済評論家の山崎元さんがエンジニアに必要な考え方をアドバイスする本連載。今回は「中堅エンジニアはコーチになるべきか否か」について考える。
エンジニアが社会で生き抜くための考え方やノウハウを伝授する本連載。前回は、ランチタイムをいかに活用すべきかを考察した。今回は、エンジニアをスポーツの選手とコーチに例え、エンジニアが成長し続けるには、選手であり続けることが正解なのかを考える。
多くのビジネスパーソンが悩むのは、「選手」に専念していくべきなのか、それとも徐々に「コーチ」に転換していくべきなのかという問題だ。
企業では、先輩社員が後輩を育てる、あるいは上司が部下を育てることを奨励する空気がある。人事評価の考課シートにも、「後進の指導」といった項目があって、その項目の点数で形式的な成果主義評価のつじつまを合わせるようなケースが少なくない。
しかし、誰もが選手からコーチ役にシフトすることが適当だというわけではない。本人のタイプと職場の在り方によって、最適な選択は異なる。
まず、選手に専念する方が良いケースについて考えてみよう。
第一は、本人が選手として「余人をもって代えがたい」場合だ。エンジニアならば、特殊な技術や個人的価値(知名度など)を持っていて、他人に伝承不可能な人がそれに当たるだろう。
しかし経営的には、個人的価値や名人芸に依存する状態は危険だ。特定の個人だけが持っている知識やスキルなら、適当な対価を払って組織に受け継がせる方法を考えるだろう。
第二は、会社がコーチを十分に評価しない場合だ。外資系の会社やベンチャー企業では、先輩が後輩を指導しないことがしばしばある。その職場では、後進の指導が組織に十分評価されないからだ。
親身にコーチ役を務めると、生活の基盤を人に渡す結果となることもある。
外資系の証券会社のような職場は、主に外部から選手を調達し、かつ選手同士を競争させる。こうした環境では、営業マンが自分の顧客を後輩に引き継ぐと、自分の評価が下がりお払い箱になったりする。こういう職場で働いているエンジニアは、貴重なスキルや知識、経験を後輩と共有してもいいのか、考える必要があるかもしれない。
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