今回は、一部のIT系メディアで取り上げられた「Windows 10 Anniversary Update」の新機能に関わるニュースを深読みします。
2016年7月上旬、以下のマイクロソフトの公式ブログを情報源としたニュース記事が、一部のIT系メディアに掲載されました。そのニュースの日本語化された記事を目にした方も多いと思います。
「公式ブログ」→「最初のニュース記事」→「記事の日本語化や再編集」、最近多い気がするこうした記事は、時として誤った印象を読者に与えてしまうことがあります。
例えば、日本語化された記事のタイトルだけ見ると「App-VとUE-VがWindows 10 Anniversary Updateに標準搭載される」ことは分かりますが、それが「EnterpriseとEducationエディション限定」であることは記事をよく読まなければ分かりません。
そして、記事を読み進めると「Windows 10 ProユーザーはEnterpriseにアップグレードする必要あり」「App-VとUE-Vに対するアップデートは今後、Windows 10 Anniversary Update以降に対してのみ提供」という、少々ネガティブな情報が目につきます。
記事を読んで、“EnterpriseとEducationエディションだけズルい”といった印象を持った人もいるでしょう。でも、本当に“ズルい”のでしょうか。
「Microsoft Application Virtualization(App-V)」と「Microsoft User Experience Virtualization(UE-V)」は、これまで「Microsoft Desktop Optimization Pack(MDOP)」の一部として提供されてきました。
そして、以前はWindowsのボリュームライセンスに追加できる「Windowsソフトウェアアシュアランス(SA)」の特典、または「Virtual Desktop Access(VDA)ライセンス」の特典として、MDOP製品をアドオンとして“購入する権利”がありました。
これが2015年8月1日からは、SAまたはVDAの特典としてMDOPのソフトウェアを入手して“使用する権利”に変わりました。MDOPは現在、アドオンとして購入するものではなく、「SAまたはVDA契約の一部」なのです。
現在、Windows 10 EnterpriseまたはEducationを実行しているということは、「SAまたはVDA契約がある」ということです。これらの契約の特典として無料提供されるMDOPの中のApp-VとUE-Vを、Windows 10 Anniversary UpdateからはEnterpriseとEducationに標準で組み込んで提供するということです。
Windows 10 Anniversary UpdateのEnterpriseとEducationには、現時点で最新バージョンのMDOP 2015メディアに含まれるApp-V 5.1およびUE-V 2.1 Service Pack1(SP1)と同じ機能レベルのApp-VクライアントとUE-Vクライアントが最初から組み込まれています。
App-VとUE-Vのクライアント機能(App-VクライアントおよびUE-Vエージェント)は、次期Windows ServerのWindows Server 2016にも標準搭載されます。これらのクライアント機能は、おそらく「リモートデスクトップサービス(RDS)」環境での利用を想定したものでしょう。「App-V for RDS」は、現在もRDS CAL(Client Access License)に含まれます。UE-Vを利用するためにクライアントデバイスにSAやVDAが必要になるかは、現時点では不明です。
MDOPはSAまたはVDA契約者に対して引き続き無料提供されますが、MDOPの一部として提供されるのはApp-V 5.1とUE-V 2.1 SP1が最後になります。App-VとUE-Vの新機能は今後、App-VとUE-Vの新バージョンとしてではなく、Windows 10 Anniversary Update以降のEnterpriseとEducationの機能拡張として提供されます。
なお、MDOP 2015のメディアには、App-Vのバージョン4.5 SP2/4.6 SP3/5.0 SP2/5.0 SP3/5.1、UE-Vのバージョン1.0 SP1/2.0/2.1/2.1 SP1が収録されています。ユーザーは機能の互換性やシステム要件に合わせて、必要なバージョンを導入することができます。
App-V 5.1とUE-V 2.1 SP1はいずれもWindows 10対応版で、Windows 7以降に対応しています。MDOPのApp-VおよびUE-VをWindows 7やWindows 8.1上で利用しているのであれば、現在のSA契約が続く限り、今後も利用できます。サポートされなくなるというわけではありません。
注意点は、App-V 5.1およびUE-V 2.1 SP1がサポートするWindows 10は、Windows 10の初期リリースとWindows 10 バージョン1511までであることです。そのため、Windows 10 Anniversary Update以降でもApp-VやUE-Vを利用するのであれば、EnterpriseまたはEducationにしなければならないということになります。
しかし、SAまたはVDAをお持ちなら、それが大きなハードルになるというわけではないはずです。2014年3月からSAの対象は「Enterpriseアップグレード」(当時はWindows 8.1 Enterpriseアップグレードのみ、現在はWindows 10 EnterpriseアップグレードおよびEducationアップグレード)が唯一の選択となりました。
もし現在、Windows 10 ProでApp-VやUE-Vを利用しているなら、ボリュームライセンスのダウングレード/ダウンエディション権を行使しているのだと思います。EnterpriseをProにダウンエディションしなければならない理由が思い付きませんが、もし、Windows 10 EnterpriseやEducation以外のエディションでApp-VやUE-Vを利用しているなら、ライセンス違反状態になっていないかどうかを確認することをお勧めします。
WindowsのボリュームライセンスやSAの購入方法、SAやVDAの特典は、たびたび変更されています。今回の記事をうのみにせず、以下のサイトで最新の「製品条項(PT)」をダウンロードして確認してください。
実は、Windows 10 Enterpriseの使用権を含む「Windows SA」(間もなく「Enterprise E3」に名称変更予定)はボリュームライセンスではなく、「Enterprise Cloud Suite」というユーザーごとのサブスクリプション契約で導入することもできます。Enterprise Cloud Suiteは、Office 365 Enterprise E3、Enterprise Mobility Suite(EMS)、Windows SA per Userをセットにしたものです。
このサブスクリプションは近い将来、「Secure Productive Enterprise E3」に名称変更され、さらに上位の「Secure Productive Enterprise E5」というプランが追加されます。また、マイクロソフトのパートナー(Cloud Solution Provider:CSP)が「Windows 10 Enterprise E3 for CSP」を自社サービスにバンドルして提供するオプションも新たに用意されます。
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