米レッドハットがAnsibleを買収した理由を責任者に聞いたオープンソースとエンタープライズの関係(5)

Ansibleはなぜ、米レッドハットに買収されたのか。また、どう進化しようとしているのか。米レッドハットでAnsibleの買収を指揮した、米レッドハット管理製品事業部門の責任者であるJoe Fitzgerald氏に聞いた。

» 2016年09月20日 05時00分 公開
[三木 泉@IT]

 Ansibleはなぜ、米レッドハットに買収されたのか。また、どう進化しようとしているのか。米レッドハットでAnsibleの買収を指揮した、米レッドハット管理製品事業部門の責任者であるJoe Fitzgerald(ジョー・フィッツジェラルド)氏に聞いた。

 レッドハットのAnsible買収については、2015年秋、レッドハットCEOのJim Whitehurst(ジム・ホワイトハースト)氏に聞いている。同氏は理由の1つとして、OpenStackユーザーに人気があることを挙げていた。だが、Fitzgerald氏は、「もっと大きな目的がある」と話す。

――Ansibleをなぜ買収したのか。

 2つの理由がある。自動化とDevOpsだ。これまでのIT環境の運用を自動化して、コスト効率を高めるために使える。一方でアジャイルなアプリケーション開発などのための新しい環境を、DevOps的に運用するためにも使える。Ansibleはどちらについても、最も優れた機能を提供している。

――他の構成自動化ツールではなくAnsibleでなければならなかった理由について、詳しく説明してほしい。

 構成自動化ツールにはChefやPuppetもある。どちらも素晴らしい技術だが、私はAnsibleが新世代の技術だと考えている。PuppetとChefは、管理対象にエージェントを導入する必要がある。

 では、管理のため、全てのコンテナにエージェントを入れたいだろうか? あるいは、シスコのネットワーク機器にエージェントを入れることができるだろうか? エージェントを導入できないものはたくさんある。エージェントをインストールできるどうかに関係なく、管理しなければならない対象はどんどん増えている。

 Ansibleが優れているのは、エージェントレスであることと、その言語がほとんど英語そのままだということにある。誰でもスクリプトを読むことができる。

 Ansibleは、PuppetやChefに比べ、はるかに人気が高い。このプロジェクトには1200人以上のコントリビューターがいる。モジュールの数は400を越え、Playbookは数千に達している。Ansibleは「ホット」という以外の何物でもない。

 OpenStackの世界では、Puppetを抑えて最も人気の高い構成自動化ツールになろうとしている。最近では、ネットワーク製品ベンダーと、物理ネットワークの統合運用について発表している。また、コンテナオーケストレーションツールとしては、Kubernetes、Mesosなどに続き、第4位の人気を獲得している。

 Ansibleはコンテナ管理に関する機能を強化してきた。多くの人が、コンテナを構築し、管理するためにAnsibleを使っている。1人で開発している人でも、Ansibleを使うことは多い。ポータブルPCでDockerコンテナを使うような人が、Ansibleでいろいろな管理作業を実行している。

――だが、コンテナに関して、レッドハットはOpenShift Container Platformを推進している。ローカル環境での開発用には、その無償版である「Red Hat OpenShift Container Local」を提供している。コンテナ環境へのAnsible利用は、これとの関係でどう位置付けられるのか。

 OpenShiftはDockerとKubernetesに基づいて、充実したPaaS基盤を提供している。Ansibleはこれを補完できる。PaaS的な世界に進む準備がまだ整っていないような組織に適している。これまでの既存の環境におけるやり方を少しずつ変えて、DevOpsツールチェーンを付け加えていきたいと考えている場合にぴったりだ。

 AnsibleではDockerファイルを変換してKubernetesで使えるようにできる。これにより、自動的にOpenShiftへ取り込める。言い換えれば、Ansibleはフロントエンドで統合でき、Red Hat Container Development Kit(CDK)およびOpenShiftと連携する。

――Ansibleを無償で使う人が多いのは分かるが、有償で使うのはどういう場合なのか。

 組織の中でAnsibleの利用が広がると、さまざまなPlaybookを共有し、人々が分担して使うようになる。すると、誰がどのシステムを対象に、どんな変更を加えたのかを追跡できるようにしたいというニーズが出てくる。そこでAnsible Towerの利用を検討したいという連絡が、当社に寄せられることになる。

 Ansible Towerではテンプレートに基づいて、企業における多様な管理作業をスケジュール実行したり、追跡したりすることができる。セルフサービスポータルで1クリックすれば、あらかじめ作っておいたテンプレートを、対象のシステムにデプロイできる。

――レッドハットは、その管理製品群において、Ansibleをどう活用していくのか。

 他の製品群との統合を進めている。

 例えばAnsible Towerは、インフラ管理製品であるCloudFormsと統合して使えるような状態になっている。

 CloudFormsではVMware vSphere、OpenStack、Microsoft Azure、Google Cloud Platformなど、多様な環境を統合的に運用できる。CloudFormsの上でAnsibleによる自動化を適用するというのは、非常にパワフルな考え方だ。

 CloudFormsでは、インフラ環境を監視できる。そこで、リソース不足やダウンが発生したときに、これをきっかけとして対策を実行するAnsible Playbookを書き、自動実行させることができる。インフラ環境に対して、何らかの再構成を実施することもできる。

 インベントリ情報を共有することもできるので、タグや属性に基づき、Ansibleを自動適用することも可能だ。例えば全Webサーバを対象に、特定のPlaybookを実行するといったことができる。

 Ansibleが、いわゆるインフラだけでなく、コンテナ環境、ネットワークなど、多様な分野およびレイヤにおいて自動化を実現できることは、とても魅力的だ。今後、アプリケーション開発以外の部分、特に運用については全て自動化すべきだ。それでこそ、企業はアプリケーションによるビジネス価値の創出に専念できるようになる。

[取材協力:レッドハット]

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