野水氏は、IoT活用によって実現されるワークスタイルの未来像を夢想する。
世の中には、1人分とするにはまとまった量ではないけれど、ちょっとお願いしたい仕事がたくさんある。労働者側にも、フルタイム勤務はできないけれど、空いている時間に自分のできることをして働きたい人はたくさんいる。IoTを使ってこれらのニーズをマッチングしてはどうか、というのがその考えだ。
ポイントは業務の細分化と見える化だ。
「例えば、こんな未来はどうでしょう? あなたが散歩中に街中でスマホをかざすと、そこにエアタグが現れます。エアタグには、仕事の内容や報酬が表示されています。『空き缶を50個拾ってくれたら50円』とか『ダイコンを10本洗ってくれたら100円』とか」
「あなたは30分空き時間があるので、ダイコン洗いをしたいと思い、そのタグにチェックインします。仕事内容とあなたのスキルがマッチングしたらその仕事を受けられます。30分後、ダイコンを洗い終わったあなたは電子マネーで報酬を受け取ります。あなたは空いた時間でお金を稼げたし、八百屋は仕事を外注できました」
このように、労働者が働きたいタイミングで働きたい分量の仕事を自由に選べるようになれば、時間に制限のある人や高齢者も働けるようになる。仕事の依頼も同じだ。タクシーの乗客がタクシーに乗った分だけ賃料を払うように、必要なタイミングで必要なだけ、仕事を依頼できる。
これを実現するには法制度の整備や、仕事を依頼する側と受ける側の信頼関係やスキルの“見える化”が必須だが、マイナンバーなどをうまく活用すれば、将来的には不可能ではないかもしれない。
IoTの活用は、日本のワークスタイルを劇的に変える可能性を秘めている。しかし、実際にはテクノロジーだけでは、ワークスタイルを変革することはできないと野水氏は指摘する。
「IoTを活用するとワークスタイルを変えられるといっても、それに興味がない経営者も多いのが実情です。古くからの企業文化や風土が根付いてしまっていて、そもそもワークスタイルを変えようという意識がないからです。中には、せっかくIoTを使って業務を“見える化”したのに、その情報を見ていないというケースもあります。これでは意味がありません。本気でワークスタイルを変革したいのならば、経営者自身が“見える化”された情報を把握し、それを基に従来の企業文化や風土にとらわれない新たな働き方にチェンジしていく必要があります」
野水氏はさらに、従業員も意識改革が必要だと言う。
「業務を“見える化”すれば、従業員は常に見張られているように感じるかもしれません。しかし、これも従業員の意識次第です。“見える化”されるのを怖がらず、それによって自分の仕事が正しく評価され、もっと柔軟な働き方ができるようになるという前向きな意識を持ってほしいです」
とはいえ、意識改革というものは、口で言うほど簡単なことでないのも事実。そこで現実的な手段として、「給与体系を見直す」のも一つの手だと野水氏。
「例えば化粧品の店頭販売員なら、午前中のシフトと夕方のシフトでは忙しさが変わってきます。給料が同じであれば、忙しい夕方のシフトにはなるべく入りたくないというのが本音で、夕方ばかりのスタッフからの不満も出てきます。これを解決するには、給料を変動制にして、夕方のシフトに割増手当を付ければいいのです。そうすれば、収入を増やしたいスタッフは、自ら進んで夕方のシフトに入るようになるはずです」
ワークスタイル変革という観点からエンジニアの現状を見ると、いまだに下請けのさらに下請けのような、与えられた仕事をひたすらこなしているエンジニアが多いのが実情だ。こうした状況から脱するためには何が必要なのだろうか。
野水氏は、「1つの会社にとどまって与えられた開発をしているだけのエンジニアには、未来はないと言わざるを得ません。受け身のエンジニアは使い捨てだと思ってもいいでしょう。会社はエンジニアを守ってくれません。主流の開発言語が変わったら、その言語のエンジニアは必要なくなりますから」と、厳しい言葉を投げ掛ける。
その上で、「使い捨てのエンジニアにならないためには、精神的に自立することが大切です。今の会社や仕事に固執することなく、外に目を向けて、自分が今何を勉強して、どこに向かうべきかを見極めてほしい」と提言する。
「その第一歩として、試してほしいのが、ネット上のコミュニティーで発言したり、自分の会社以外のエンジニアたちと交流したりすることです。今までとは違った価値観に触れ、世界が広がって、新たな方向性が見えてくる可能性があります。また、家庭を持っている人は、家事と育児を分担することをおすすめします。仕事でも家庭でも、自分1人で成り立っているのではなく、人に依存していることを実感することは、自分自身を“見える化”するきっかけになります」
今の仕事に不満を抱えているエンジニアは、自分ができること、やっていることを細分化して見える化する、外の世界では何が起きているのか、何が必要とされているのかを理解し、能力と労働力の再配分を行う、という自分のワークスタイル変革から一歩を踏み出してみてはいかがだろうか。
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