英語はどの程度のレベルが求められるのか。英語オンチだったエル氏は、英語をどう克服したのか。
「英語が必要になるのは、同僚とのコミュニケーションにおいてです。コミュニケーションがとれなけばどうにもなりません。ただ、きちんとした英語を話せなくても、お互いに言いたいことが分かればいいのです。そのためには、さほど大きな苦労はないと思います。私は今でも、同僚に休日の趣味やスポーツの話などをされても、ちんぷんかんぷんなことは多いですよ」
コミュニケーションのために英語を鍛えるには、とにかく電話で会話することが1番だという。海外とのやりとりでは、メールで済まして終わりということが多い。そのときにあえて電話をかけて、調子を聞いたり、質問を投げかけたりする。相手にとっては「おい、日本から電話がかかってきたよ!!」と、むしろ大喜びされるという。電話に戸惑いがあるなら、チャットでもいい。
「電話会議ではなかなか積極的に話せないこともあります。そのときは、まずは1対1のチャットから始めてみるのがいいと思います。日常会話ができないと、面接も通りませんし、職場に入っても『何だあいつは』になってしまう。コミュニケーションの問題は、コミュニケーションでしか解決できないのです」
一方で、英語が得意だからといって、コーディングスキルの向上に役立つわけではない、ともいう。
文献を調べたり、ライブラリの使用法を調べたりするには、英語力があった方がいいようにも思える。ただ、コーディングで重要なのはあくまでコーディングの能力であり、英語を駆使して得られた知識ではない。
エル氏も、ライブラリの使用法などは、日本語で書かれたものにまずは目を通す。「その方が理解が速いし、分からない単語を調べるのに無駄に時間を使うことがなくなる」からだ。
このように、腕一本で生きていきたいと思う日本人エンジニアにとって、シリコンバレーはとてもよい環境だ。「死ぬまでコードを書いていたいと思う人にはぜひおすすめしたいです」とエル氏。とはいえ、海外での生活が肌に合わない人もいる。
例えば、車社会であるため、外食して酒を飲むことは難しい。日本のコンビニのように新しい商品が次々と発売されるわけでもない。飲食店は22時ごろには軒並み閉店してしまう。そうした都会のライフスタイルが好きな人にとっては、シリコンバレーの生活はあまり楽しくないものになる可能性があるという。
「最近はUberのおかげで、いつ来るか分からないタクシーを待つことはなくなりました。サンフランシスコには地下鉄もあり、遅くまで開いている店も増えました。飲んでから自宅に帰るという人が増えて、だんだん日本の新橋のような雰囲気になってきたと感じます」
「水が合わない」といわれる海外生活の難しさも、日米で生活スタイルが似てくれば障害ではなくなる。その結果、好きなことをやり続けるためのコストやリスクも減っていくかもしれない。エル氏も「これからもずっとコードを書いてデバッグを続けていくつもりです」と、一人でも多くの日本人がシリコンバレーで働くこと、あるいは、日本でシリコンバレーのようなエンジニアの労働環境が整っていくことに期待を寄せる。
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