エル氏が現在の勤務先で取り組んでいるのは、通信機器に関連するシステムの開発だ。C/C++を中心に制御系プログラムを書くことが多いが、Webアプリケーションとの連携やデータ解析などの仕事でPythonなどのスクリプト言語を扱うケースも増えてきたという。
「シリコンバレーというと、スタートアップを中心に最先端テクノロジーを駆使した開発ばかり行っていると思うかもしれません。でも、実際はそれだけではなく、既存システムのメンテナンスや開発の仕事がたくさんあります。もともとシリコンバレーは、Intelによる半導体製造を発端として、コンピュータに関わるあらゆる産業が集積して発展したエリアです。組み込み系から、Windowsアプリケーション、業務アプリケーション、モバイルアプリまでありとあらゆる開発需要があります。対象となるシステムのことを理解して、仕様変更に速やかに対処するというニーズは尽きることがありません。そのため、最低限のスキルを持ち、コードが書ける人ならば、食い扶持には困ることはまずないんです」
同僚の人種はさまざま。日常のコミュニケーションは英語だ。朝9時ごろ出社して、夕方18時ごろまで働く。18時を過ぎてオフィスに残っている人はほとんどいない。アーリーバードで早朝から働く人は昼過ぎには退社してしまう。残業というものも基本的には存在しない。
「もちろん全てのプロジェクトが予定通り進むわけではありません。トラブルが発生して、どうしてもその日その時間にチームとして対処しなければならないこともあります。そういったときに『自分の時間が大事。そういう協定』などと言って帰ってしまう人はまずいません。家族に『ごめんね、今日は帰りが遅いよ』と電話して、問題が解決するまで働きます。普段から『自分の好きな時間に帰っていい』と言っておくことは、『そのかわり、何かあったときは頼むよ』という意味でもあるんですね」
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中には、夜遅くまで残って働いている人もいる。その場合には「長く働く人は仕事ができない人」などとネガティブに捉えられることは少ない。むしろ、長く働かせている状況を作っているマネジメント側が問題になる。
「なぜ彼は早く帰れないのか、と周りから声が挙がります。仕事の割り振りが適切ではないのではとか、一人でこなすにはボリュームが多過ぎるのでは、とか。そうした環境を改善するのはマネジャーの仕事ですから、もし改善されなければ、マネジャーのさらに上司からマネジャーの管理能力が問われることになります」
シリコンバレーは、日本よりも現場の状況を把握し、メリハリの効いた働き方をしているといえるかもしれない。その意味で重要になるのがコミュニケーションだ。いくらコードを書くスキルがあっても、同僚や取引先とうまくコミュニケーションできなければ仕事は進まないという。
「とにかくチャットが大好き。そして話がややこしくなれば即、電話会議です。日本ではまずは対面で会ってあいさつして、それから電話やチャットというケースが多いと思います。こちらでは、一度も顔を合わせたことがない人でも、いきなりワーワーとディスカッションが始まります。早口にまくし立てられて、怒っているのか褒められているのか分からないこともあります。最後まで電話とチャットだけの付き合い付き合いで終わってしまう人も多いですね」
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