大手SIerのロックイン=丸投げに慣れきった発注者は、どうやったら変わるのだろうか?
「あるエンジニア、かく語りき2」は、エンジニア参加型メディア「エンジニアライフ」から、@IT自分戦略研究所編集部が独自の視点で選んだ“良”コラムを転載するものです。
市井のエンジニアが人生の節目節目で考えたことをつづる本連載。シーズン1(2013年10月〜2014年5月)は、“一介の職業エンジニア”松坂高嗣さんがエンジニアのキャリアを解説した。シーズン2は、複数のエンジニアたちが、エンジニア生活のリアルをお届けする。
基幹系システムの開発、導入に携わっていると、理不尽な出来事に遭遇することがままある。
開発したシステムが使われることなくお蔵入りになった案件は何度か経験した。納品後、数年たって「高額な開発費を使ったのにシステムが使われていない」と発注者から呼び出されたこともある。
「動かないコンピュータ問題」などの記事を読むと、類似の事例が多く掲載されている。IT業界はこの問題の抜本的な解決策をまだ見つけていないようだ。
では「なぜ、高額な開発費を費やしたのに使われないシステムができる」のか?
私見だが、原因の1つは「発注者の社内調整力」にあると思う。
基幹系システムの導入が決まると、発注者にもプロジェクトが設置され、開発、導入に向けた諸事に対応してゆく。各部門、現場、経営陣――利害関係が異なる関係各所との調整は重要なタスクの1つであるが、アサインされた担当者や企業の成熟度によってかなり差が出る。
成熟度の高い企業では、担当者に能力不足が認められたら、自浄能力が働き増員や担当者替えが行われる。しかし成熟度の低い企業は、たとえ担当者の能力が足りなくても、そのまま突っ走るしかない。
また成熟度の高い企業は、利害関係が異なる関係部署同士が本来の目的を踏まえてお互いに譲歩しながら進んでゆく。対して成熟度が低い企業は、お互いが自分たちの言い分を主張して調整が一向に進まないことがある。
困ったことに、基幹系システムの開発、導入に関する多くのことは受注者が発注者を支援できるが、社内調整に関しては受注者が関われない。これを理解していない発注者は意外と多い。
結果、どうなるか?
社内調整がうまくいかないと、仕様の増加、スケジュール遅延、コストオーバー、利用拒否などのさまざまな問題が発生して、プロジェクトは迷走を始める。発注者は高額なお金を支払っていることもあり、その不満を受注者にぶつける。
体力のある大手SIerは、自社のソフト、パッケージ、ハードで顧客をロックインし、発注者の丸投げを受け入れている。口の悪い言い方をするなら、発注者を飼いならしている。
このような関係ならば、受注者は発注者の社内調整も代行しているのかもしれない。すると発注者は、その分の(本当に)高額な費用を払い続ける必要がある。
しかし発注者側経営者も最近は気付き始めている。「なぜ、自社のIT投資はこんなに高額なのに、システムは保守的なのだろうか」と。
大手SIerはその大きさ故、保守的にならざるを得ない面がある。新しい技術は積極的に取り入れにくいし、あまり顧客に提案もできない。でも世の中には、新しい技術や活用方法、成功事例の情報が満ちあふれている。
発注者の経営者はコンペで新しいITベンダーを見つけようとする。新しいITベンダーは見つかるかもしれない。しかし丸投げ体質は変わらない。すると、どうなるだろうか。
新規の受注者は新しいシステムの導入はできるが、丸投げは受けとめ切れない。すると前述の社内調整問題が発生し、誰も行わない社内調整が宙に浮く
……これがプロジェクト失敗発火のシナリオではないだろうか。
失敗しかかったけれども持ち直したプロジェクトを経験したことがある。
それは大手企業の基幹システム開発、導入プロジェクトだった。3ステップを3年で行う計画だったが、第1ステップがうまくいかず、プロジェクトは暗礁に乗りかけていた。
そこで何が起こったのかというと、危機に気が付いた発注者が自社側のプロジェクトメンバーを総入れ替えして、強力な推進者をリーダに据えたのだ。
新リーダーが着任したとたんにプロジェクトは正常に回り始め、予定通り3年で無事完走した。今にして考えると、それまで丸投げだった発注者が、第1ステップの失敗で本気になったこと、そして推進者を変えて主体性が出てきたことが成功の要因だったようだ。
そこで思ったのは、「あえて一度、発注者に失敗してもらう」という手法はアリかもしれないということだ。失敗することで発注者は丸投げ体質を脱却できるかもしれない。
受注者にとってはかなりリスキーだが、本当に発注者のことを考えるなら、やる価値はあるではないだろうか。ただし、早い段階で、小さいものにするに限るが。
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