契約は保守だけど、追加開発もしてもらいたいし、その分は検収もしたい。でも、追加料金は払いたくない。これってワガママですか?
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ITシステムは一般的に、いったん導入した後も、ライフサイクルの終了まで機能の追加や改善などの追加開発が続けられる。モノにもよるが、ベンダーは毎年、当初の開発費の10〜30%程度の費用をもらってこうした作業を行うのが一般的だ。
この際、契約と費用支払いがどのように行われるかは、大きく2つのパターンに分かれる。
「作業ごとにベンダーが見積もりを行い、個別に契約を結んで作業を行い、検収に基づいて支払いを受ける場合」と、「最初から月額費用を定めて、その範囲の中で可能な作業を行う場合」だ。前者は「請負契約」が妥当だし、後者は「準委任、あるいは派遣契約」が多いように思う。
後者は、毎月の費用は一定でも、やるべき作業の量は一定ではない。ある月は約束した時間を超えて開発をしなければいけないこともあれば、別の月では作業時間は足りていないがお金だけはもらえる、という具合だ。
この辺りは、基本的に「お互い恨みっこなし」と割り切るケースもあれば、「作業量が予定の10%を超えて上下する場合には別途精算」などとするケースもある。いずれにせよ普通は、月額で費用を決めている場合には、実際の作業時間と契約上の作業時間にはズレが生じるものだ。
今回は、連載第46回「作業工数は1075万円分ですが、446万円しか払いません。瑕疵対応は無償でしょう?」で取り上げたものと同じ判例を使い、「保守開発作業の量」と「契約上の作業時間」が見合わなかったために発生した悲劇とその予防策を紹介する。
いったん決めた金額であっても、それをあまりに超える作業であれば、ベンダーは働いた分だけの請求をしたい。一方のユーザー企業は、決められた費用の中でできるだけたくさんの作業をして欲しい。さらに、準委任契約であっても、開発をする以上は、出来上がったモノの品質も問いたいし、検収をした上で支払いたい。そんな両者の思惑がぶつかりあった事件だ。
まずは、事件の概要を見ていこう。
あるベンダーが、ユーザー企業で稼働しているソフトウェアのメンテナンス(保守開発)を請け負っていたが、想定よりも実際の作業コストが大きく、赤字が続いていた。両者の間の契約はベンダー作業員の工数を基に請求するというものだったが、その中には不具合を補修するための工数は含まれず、またユーザー企業からのクレームによって一部作業について請求しないといったことが行われていたためである。
その中で、ある時ベンダーが直近3カ月分の費用として1075万円を請求したところ、ユーザー企業からは446万円しか支払われなかった。ベンダーは実際に作業した作業工数に単価を乗じて請求したが、ユーザー企業は、作業が完成していないこと、本来請求に含むべきではない不具合の補修が含まれていることを理由に減額したものだった。
ベンダーはこれを不服として、残金約600万円の支払いを求めて提訴した。
少し補足をすると、この契約は「基本的に月額メンテナンス料を299万2500円とするが、それを超える分については、作業工数によって支払われる」というものだった。ただし、「ベンダーが当初開発、あるいは保守開発において作りこんでしまった不具合の改修については支払わない」という約束で、それ自体はよく見る準委任契約だ。
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