ITを無視していては、経営が破綻します――業績傾き掛けのオレンジコンサルは見た! 情シスの逆襲(2)(2/4 ページ)

» 2019年10月10日 05時00分 公開

社長交代

 こうした状況であったにもかかわらず、創業者の息子である2代目社長の鈴木は、有効な打開策を打ち出せなかった。

 「ラ・マルシェは、お客さまに買い物というエンターテインメントを提供する空間である」という創業以来の精神をかたくなに守り続けた鈴木は、商品の品ぞろえも店舗の雰囲気も一切変えることなく旧態依然とした高コスト経営を続け、新しい客層の開拓もしなかった。もちろん、オンラインショップなどインターネットを利用した販売など歯牙にもかけなかった。

 このままでは早晩破綻する――そう懸念したのは大株主たちだった。創業以来、ラ・マルシェを支援してきた彼らは、下降を続ける業績に何ら手を打とうとしない鈴木に、再三にわたって経営の合理化と新たな客層の掘り起こしを提言した。しかし鈴木は、「景気が回復すれば、経営も持ち直すはずだ」と一切耳を貸すことはなかった。

 業を煮やした株主たちは、ついにおととしの株主総会で票数を結集し、鈴木を退任に追いやり、メインバンクの帝都銀行から高橋雄介を招いて後任に据えた。

 流通業界を知らず、まだ47歳と若い高橋だったが、「このままではラ・マルシェに未来はない」と考えた株主や多くの取締役たちは、彼のバイタリティーに賭けることにしたのだ。

 一方で、退任後も一定の株を保有する鈴木と、彼を慕う何人かの取締役は、高橋のことを決して快くは思っていなかった。

 就任後、高橋はさまざまな手を打った。

 最初に行ったのは、旅行会社と提携して外国人旅行客を呼び込むことだった。都内観光バスのルートにラ・マルシェの店舗を組み込み、買い物をしてもらう。店には多くの外国人が訪れ、たくさんの買い物をしてくれるようになった。

 次に打った手は、キャッシュレス決済の導入だった。

 これまでは現金とクレジットカードが中心だったが、複数の大手キャッシュレス決済にも対応した。これも一応の成功を納め、ラ・マルシェの業績は回復路線に入った。

 しかし、その効果はいずれも限定的で、決して株主たちを満足させるほどのものではなかった。就任後最初の決算で数字を見た株主たちの中に、高橋への失望感を隠さない人間がいたことも事実だった。

 高橋自身もここまでの成果には満足しておらず、「何とか打開策を」と考えていた。そこで前社長が全く関心を示さなかったITの活用に取り組むことにしたのだ。

 「このままではジリ貧だ。売り上げ拡大とコスト削減をテーマに、経営改革の企画を出してほしい。特にITだ。今の時代、どんな商売だってITに背を向けていては成り立たない。ITを活用してラ・マルシェを救う策を皆で考えてほしい」

 役員会議で高橋がいつになく強い口調で号令を発したのは1年前のことだ。企画を出した人間には、そのままプロジェクトを引っ張ってもらう――そんな言葉も付け加えられた。

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