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» 2021年11月15日 05時00分 公開

父がMITなら私はスタンフォードだ 入学できなかったけどGo AbekawaのGo Global!〜Tyler Shukert編(前)(3/3 ページ)

[取材・文:阿部川久広(Go Abekawa), 構成:中村篤志,@IT]
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「Nita Q」「Dress U」など新サービスをリリース

阿部川 どんどん発展していきますね。そこから本格的に開発を始めるわけですね。

タイラー氏 そうです。ただ、自分でひたすら記事を書くのも大変だと感じていました。「ボケて(bokete)」というサービスがありますよね。いろいろなユーザーが面白い写真を撮って、それで他の人が大喜利を投稿できるサービス。あれを見て、「サービスを作った人は何もしない、周りのユーザーが面白いものを持ってきてくれる素晴らしいサービスだ」と思いました。当時の僕は本当に浅はかだったので。いわゆる「ユーザージェネレイテッドコンテント」のようなサービスを作ろう、という考えに至りました。

 そこから、いろいろな二択の質問をユーザーが投稿できて、それに他のユーザーが答える「Nita Q」というサービスを作りました。Webサイトそのものはもう残っていないのですが……。

画像 「Nita Q」の画面イメージ

阿部川 すごいじゃないですか!

タイラー氏 ほとんど利益にはつながりませんでしたけどね(笑)。PHPを遊び倒したい時期でもあったので、いろいろな機能を付けました。その中の1つに、Nita Qの質問をiframeで自分のブログなど外部のサービスに埋め込める機能がありました。これを使えば「自分のブログに来てくれた人の興味、関心ごとが知りたい」といったニーズに応えられると思いました。それを作る過程を通して、PHPならだいたいのことができるようになりましたし、SQLも全部自分で書いていたのでバックエンドの勉強になりました。

阿部川 勉強と開発に夢中だったのですね。生活はどうだったのですか。

タイラー氏 奨学金や父からの援助で暮らしているという感じでした。「このままだと食っていけない」という危機感はありましたのでミネソタのミネアポリス セントポールにある小さなIT系のWeb制作会社で有給のインターンを始めました。そこはWordPressを使うことはできても、一歩踏み込んだカスタマイズはできないという方が多かったので重宝してもらいました。

 そのうち、「新しいことをやりたい」というオレゴン大学の大学生とTwitterで知り合います。彼は事業のアイデアがあるけどプログラミングはできないということだったので、じゃあ私がプログラミングをしますよということでとんとん拍子に話が進み、「Dress U」というWebベースのSNSを作りました。

Dress U(Instagram)


 投稿者が「今度海に行くんだけどコーディネートは何がいい?」と質問をすると、オシャレな方々が「こんなコーデがいいですよ」と提案してくれるサービスです。いろいろな人にサービスを紹介したのですが、「アプリじゃないから使わない」と言われて、Webの限界をその辺りから感じ始めました。

阿部川 当時はインターンの会社でも働きつつ、サービスの開発もしていたということですか。

タイラー氏 はい、そうです。ちょうどそのころ父が心筋梗塞で亡くなりました。悲しかったですけれど、父が亡くなった事実は変えられない。そして、私にはもう一人親がいる。母とは数年一緒に過ごしていないので、もう少し一緒に過ごそうと日本に帰ることにしました。

 ただ、帰った目的が母親と過ごすことだったので仕事も何もなかったんです。母親には心配をかけました。「クラウドワークス」を使って単発の仕事をしていたのですが、当時は報酬の高い案件が少なかったので苦労しました。

編集中村 編集 中村

タイラー氏は「インターン先のシステムを見てこのくらいなら自分でもできる、と。いろいろとなめていました」と照れたように話していたことが印象に残っています。確かに動いているサービスの表面だけを見て「できそう」と思うのは簡単です。似たようなサービスを作れる人もたくさんいるでしょう。ですが、タイラーさんが違うのは作ったサービスを公開し、ユーザーの評価を受けていることです。さまざまなアイデアを持っているがなかなか次に進めないという人と、次々と新しいサービスを生み出せる人との違いはそこにあるのではないでしょうか

スタートアップ企業でCTOに

阿部川 フリーランスとしてお仕事をされていたのですね。働きながらプログラミングの勉強などはされていましたか。

タイラー氏 プログラミングの方はPHPをやりきった感があり、次に手を付けたのは「Firebase」と「Polymer」でした。FirebaseはGoogleのモバイル開発プラットフォームで、バックエンドがなくてもモバイルアプリを開発できます。Polymerは、Googleが作ったWeb用のフロントエンドのフレームワークで「YouTube」もPolymerを使って作られています。私はFirebaseもPolymerもよく分からなかったのですが、「Googleが推奨するのならば大きな間違いはないだろう」と一生懸命勉強しました。

 それで勉強の成果を試すために、Nita QをFirebaseとPolymerを使って作り直し、「choice」というアプリケーションとしてリリースしました。二択の質問を投稿して、それに他の人が回答するというシンプルなアプリケーションです。ユーザーがログインする、投稿する、読み込む、編集する――いわゆる「CRUD処理」がちりばめられていて、これさえできれば後は一通り何でもできる、という状態にするのにちょうど良い課題でした。

阿部川 その後、Everyhubという会社のサービス開発に携わります。こちらもクラウドワークスの案件だったのですか。

タイラー氏 クラウドワークスは利用しましたが、案件ではなく、スタートアップ企業のエンジニア募集に応募しました。話を聞いてみると、「新しいサービスを立ち上げるためにエンジニアに業務委託しているがクオリティーに満足していない」という話でした。その人は同い年でもあったので意気投合して「では2人でサービスを作ろう」ということになりました。

阿部川 こちらもとんとん拍子に話が進みますね。

タイラー氏 そうですね。決して高くはないですが、定期的にお金をもらいながらサービスを作る日々が始まりました。choiseでPolymerとFirebaseにも慣れていましたので、2017年の終わりくらいから正式にサービス開発をスタートしました。2018年にはTechCrunch JapanなどのWebメディアにも取り上げられました。当時私の役職はCTO(最高技術責任者)でした。

Everyhub(TechCrunch Japan)


阿部川 TechCrunch Japanに取り上げられるぐらい注目されていて、成長していたんですね。仙台のご実家からお仕事をされていたんですか。

タイラー氏 いいえ。2018年の初めに仙台から東京に来ました。ある意味、それが私のターニングポイントだったと思います。


 憧れであり、目標でもあった父を超えるため、勉強に励んだタイラー氏。希望する大学に入学できず、投げやりな毎日を変えたのはインターンで得た「これならできそう」といった感覚だった。後編は、次々と新しいWebサービスを生み出すタイラー氏が抱くエンジニアとしての価値観について話を聞く。

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