今回の特集は「インターネットがよくわかる 通信のしくみ」と題して、日々なにげなく利用している(普段は目にすることのない)テクノロジーの裏側を改めて紹介する。今回は、普段使っているスマートフォンは、どのような仕組みで通信しているのかについて取り上げる。
この記事は会員限定です。会員登録(無料)すると全てご覧いただけます。
本記事は、株式会社インターネットイニシアティブの許可をいただき、「IIJ.news Vol.163」の「インターネットがよくわかる通信のしくみ インターネットのトラフィック渋滞 〜スマートフォンの進化を支える技術とインフラ」(2021年4月号)を転載したものです。そのため、用字用語の統一ルールなどが、@ITのものと異なります。ご了承ください。
まず日本の携帯電話の「キャリア」を整理してみましょう。日本にはMNO(移動体通信事業者)であるNTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの4社があります。これらのMNOは、スマートフォンなどの携帯電話で音声通話やデータ通信を行なうための基地局をはじめとした通信網を自社で保有し、通信サービスを提供しています。
これ以外に、MNOから一部の通信設備を借り、独自の付加価値を加えて通信事業を行なっているIIJのようなMVNO(仮想移動体通信事業者)が存在します。MVNOは、低容量から大容量まで幅広いユーザ層の要望に応える独自の料金プランを用意したり、MVNOが有するネットワーク基盤と連携した閉域網やSIMカードを用いた認証機能などセキュアな通信サービスを提供しています。
MNOとMVNOのおもな違いは、通信を実現するために必要な設備のうち、無線基地局と電波・周波数を保有しているか否かという点です。電波・周波数は地球上の限られた資源であり、無限に存在するものではありません。さらには、「プラチナバンド」と呼ばれる800MHz帯の低周波数帯と、4Gや5Gで使われる2.1GHz帯から4.5GHz帯の高周波の周波数帯では、利用者一人が使える帯域も異なるため、MNOは総務省から割り当てられた周波数を、電波の特性に応じて場所や環境に合わせて使い分け、利用者が快適に通信を行なえるよう通信環境を整備しています。
2010年代前半、スマートフォンが普及し始めた頃、「パケ詰まり」という言葉が世の中に広まりました。皆さんも動画再生中に画面が固まってしまう経験をしたことがあると思いますが、これはスマートフォンの普及にともない、SNS、動画、ゲームといった比較的データ容量の大きいコンテンツがモバイル環境で使われるようになったことが一因です。
一つの周波数帯で同時に通信できるキャパシティは限られており、当時は基地局の整備状況や通信技術が利用者の増加に追いついていませんでした。限られた電波を有効に使うために携帯キャリアは、一つの基地局でより広範囲かつ多くの利用者をカバーできるマクロセル方式から、小さい範囲に多くの基地局を設置して一つの基地局が受け持つ利用者を少なくするマイクロセル方式の基地局展開へとシフトしていきました。これにより、街中で無線基地局のアンテナを見かけることが多くなったわけですが、単に基地局を増やすだけでなく、人が混み合う地域では、アンテナや通信設備を小型化し、設置場所として電柱を利用した「ピコセル」と呼ばれる基地局を開設して、電波干渉が生じないよう緻密なエリア設計も合わせて行なっています。
無線技術に関しては、スマートフォンが登場した当初から利用されていた3G方式から、LTEと呼ばれる4G方式に切り替わり一つの周波数帯における通信容量が増加したことや、基地局の増設、無線通信の技術革新などによって「パケ詰まり」は徐々に解消されていきました。
MVNO利用者が通信を行なう際、必ず通る設備にPOI(Point Of Interface)があります。固定通信ではNTT東日本/NTT西日本が提供するフレッツサービスのように、通信局舎と個人宅などインターネットを利用する場所をつなぐ区間を「ラストワンマイル」と呼びますが、モバイル通信においては、MNOが有する基地局とスマートフォンがつながる無線区間がラストワンマイルに相当します。
Copyright© Digital Advantage Corp. All Rights Reserved.