ベテラン開発者が定年間近 あの老舗企業の情シスが、社内下請けから伴走型リーダーに生まれ変わるまで匠の技をまな弟子へ(1/3 ページ)

EUCの失敗に懲りて、IT関連業務を全て情シス部門に集約したサーラグループ。だが、ベテラン開発者が定年間近になり、その体制に黄色信号が点滅し始めた。

» 2022年09月15日 05時00分 公開

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 最近「デジタルの民主化」「市民開発」「現場開発」といったキーワードをよく目にするようになり、現場部門によるデジタルを駆使した業務改革の波が来ているように思う。SaaSプロバイダーである「ドリーム・アーツ」への問い合わせも、これまでは「業務要件を実現できる製品かどうか」という質問が多かったが、最近は「現場部門でも開発ができるか」「現場部門で開発する上での必要な体制、運用方法はどうしたらいいか」という観点での質問が非常に増えてきている。

 今回紹介するのは、もともとは情報システム部門(情シス)が全ての開発を担っていたが、「とある理由」でデジタルの民主化へ方向転換し始めた企業の物語だ。キーパーソンとなる人物は何を考え、どのような手順で上層部や現場の意識改革を行ったのだろうか。

EUCから担当部門専任体制へ

 ガス供給事業を中核に、電気、不動産、物流、飲食など幅広い事業を展開し、創業113年目を迎えるサーラグループ。同グループのITに関する業務全般を担っている情シス子会社が「サーラビジネスソリューションズ」(以下、SBS)だ。

 サーラグループはかつて、Lotus NotesでEUC(※)を行っていた。だが、「タコツボ化」や「ブラックボックス化」で散々痛い目に遭い、業務デジタル化プラットフォーム「SmartDB」への移行を断行。それに合わせて、SBSがグループ各社の依頼を一手に引き受けて開発、運用していく体制に変更した。

 以来10年間、グループ45社、約4500人の業務電子化を数人の担当者で支えてきた。グループ内ではSmartDBが当たり前のように使われて定着し、開発依頼は増える一方だった。

※EUC End User Computing。情報システムを利用して現場で業務を行う従業員や部門(エンドユーザー、ユーザー部門)が、システムやソフトウェアの開発・構築や運用・管理に携わること

ベテランの定年

 これまでの10年は成功といってよいだろう。しかしSBS 管理グループ 企画チーム チームリーダーの小出輝雄氏は、将来のことを考え幾つかの不安を感じていたという。

 まずは開発リソースだ。グループ各社からの業務デジタル化の依頼は日に日に増えているが、リソースの増員は容易ではない。しかも中核メンバーである天野泰伸氏はもうすぐ定年退職を迎える。

 物理的な問題よりも根が深いのは、マインドの問題だ。電算オペレーションセンター、すなわちシステム運用の受託業務であったため、SBSが受け身体質であったことは否めない。このため、積極的に現場の業務改善提案を進められなかった。この状況をいずれ変えなければと考えていた小出氏は、他社事例にアンテナを張り、日々更新される記事やメルマガをリサーチする日常を送っていた。

 すると、ある時期から事例の内容に変化が起きていることに気付いた。

 情シスではなく現場社員による業務システム開発や活用事例が多くなってきたのだ。また、SmartDBユーザー企業のコミュニティーに参加してみると、情シスではなく事業部門の業務担当者ばかりであることも度々であった。ではそれらの企業の情シスは何をしているのかというと、現場への教育や開発アイデアの相談、開発した仕組みのレビューなどを行い、柔軟に役割を変えているようであった。

 他社の事例は、自律的な業務改革を実現するために自走する現場を情シスがしっかりと「伴走」しているように見えた。小出氏は「これこそが私たちの目指す姿ではないだろうか」と思ったという。

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