Cloud Native Computing Foundation(CNCF)のCTO(最高技術責任者)であるクリス・アニズィック氏が、2023年のクラウドネイティブ分野に関する予想を公表した。「クラウドIDE」「FinOps」「SBOM」「GreenOps」「Web Assembly」「OpenTelemetry」「Backstage」などのキーワードが見られる。
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クラウドネイティブ技術を推進する団体、Cloud Native Computing Foundation(CNCF)のCTO(最高技術責任者)、クリス・アニズィック氏(Chris Aniszczyk)氏が、2023年のクラウドネイティブ分野についての予想を披露した。「クラウドIDE」「FinOps」「SBOM」「GitOps」「GreenOps」「Web Assembly」「OpenTelemetry」「Backstage」などのキーワードが見られる。
GitHub Codespacesの一般提供開始やGitPodの資金調達成功を取り上げ、2023年はクラウドIDE(統合開発環境)が当たり前になるとアニズィック氏は書いている。
「開発ワークスペースをエフェメラルにし、開発者がワークスペースの設定に費やす時間を節約できることで、このテクノロジーが業界標準になると私は100%確信している」(アニズィック氏、以下同)
組織としてクラウドコストを管理・最適化する取り組みであるFinOpsにも注目する。過去数年間のクラウド利用の増大と世界的な不況により、ハイテク企業のみならずあらゆる組織でFinOpsの実践が広がるという。
「FinOpsはエンジニアリングの問題になる。FinOps関連の情報が開発者にも扱いやすくなり、最終的にはプルリクエストインフラの一部になる」
オープンソースのクラウドコストモニタリングツール「CloudCost」の登場や、オブザーバビリティツールにおける同様な機能の搭載が、こうした動きを後押しするとしている。
米国政府は医療機器メーカーにSBOM(Software Bill of Materials)の作成を義務付ける法案を可決した。
「このトレンドが続き、オープンソースソフトウェアに影響を与えることは間違いない。Kubernetesなどの主要な重要プロジェクトはSBOMを既に作成し、活用できるようにしている。 あらゆる業界でSBOMを義務化するには多少の困難があるかもしれないが、個人的には、規制や業界の成熟により、これは避けられない動きになると考える」
サステナビリティの観点から、企業のデータセンターやパブリッククラウドの利用に関連する二酸化炭素排出量の算出と最適化を進める取り組みが、過去数年間に広がりつつある。一部では、これを「GreenOps」と呼んでいる。
「私の意見では、GreenOpsはクラウドワークロードの二酸化炭素排出量に焦点を当てた FinOpsの一形態だ。私は、2つのコミュニティが 1つに統合され、オープンな仕様と標準について協力し、OpenCostを拡張してクラウド全体の二酸化炭素排出量情報が含められるようになることを期待している。ここには、企業や業界を超えたオープンソースコラボレーションの機会がたくさんある」
GitOpsツールの成熟度が劇的に向上しているとアニズィック氏は言う。
「CNCFではArgoやFluxプロジェクトが最近卒業し、プロジェクトの安定性と成熟したガバナンス、採用の急速な広がりを実証した。これらはCNCFエコシステムで最も高速に成長するオープンソースプロジェクトでもある」
OpenTracingとOpenCensusの統合によって2019年に生まれた分散トレーシングの「OpenTelemetry」。主要なオブザーバビリティツールのベンダーが全て、このOpenTelemetryを取り込んだとアニズィック氏は指摘する。
「OpenTelemetryコレクターのフレームワークにより、ベンダーはこの機能を個別に実装する必要がなくなった一方、エンドユーザーの仕事が楽になった。 2023年には技術先進企業だけでなく、エンタープライズエンドユーザーがこの技術を利用することになるだろう」
アニズィック氏は、クラウドネイティブへの移行が一定の規模に達した組織にとって、デベロッパーエクスペリエンスが大きな懸念事項となってきたと指摘する。開発者向けポータルのオープンソースプロジェクト「Backstage」はこうしたニーズに応える存在だという。
「次のレベルに到達するために、BackstageはAPIを強化し、プラグインエコシステムを育成し、本質的にはこの分野におけるJenkinsのような存在になる必要がある」
「WebAssembly(Wasm)は、エッジからサーバワークロードまで、ブラウザ以外のユースケースを開拓し、近い将来にはコンピューティングの主要な形態になると強く信じている」
EnvoyやWasmCloud、WasmEdge などの取り組みにみられるように、Wasmはクラウドネイティブエコシステムで広がりつつあるとアニズィック氏は指摘する。
Wasmはハイプサイクルでいえば、幻滅の谷と啓発期の上り坂の間のどこかに位置するとアニズィック氏は言い、実装上の課題などで、成長の苦しみを味わうことになるとする。
「それでも、Cloudflareのようなブティッククラウドプロバイダー(より小規模な、顧客サービスを重視するクラウド事業者)や小規模なスタートアップがこのテクノロジーの成熟への道を開き、ハイパースケーラーは今年、Wasm関連プロダクトを提供し始めるだろう」
Wasmがコンテナや仮想マシンに取って代わると考える人もいるが、コンテナ、Wasm、仮想マシンは共存していくとアニズィック氏は強調している。
クラウドコスト削減に向けたユーザー企業の動きが強まる中で、ブティッククラウドプロバイダーが注目されるだろうとアニズィック氏は指摘する。こうした事業者は、コストの最適化と顧客サービスで買収や新プロダクトを発表し、ハイパースケーラーに対する自社のポジショニングを強化するだろうという。
アニズィック氏はKubernetesがLinuxと同じような進化の道筋をたどっていると書いている。
Linuxはもともと少数の愛好家のために構築されていたが、最終的には電話、自動車、リアルタイムシステムなど広範なエコシステムが形作られた。Kubernetesも同様にユースケースを広げている、とする。
「Linuxの場合と同様、新しいユースケースがKubernetesプロジェクトと幅広いエコシステムにイノベーションを還元する。オープンソースにおけるイノベーションのポンプはいつでも準備ができており、働き続ける」
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