MicrosoftはMicrosoft Edgeでの「www.bing.com」へのアクセスで、GPT-4ベースの「Bingチャット」を利用可能にしています。この機能は、サイドバーに統合された「Bingチャット」からも利用可能です。個人ユーザーであれば、Bingチャットを利用する/しないは自由ですが、企業の場合、機密データの漏えいリスクを懸念して、社内のデバイスからは利用させたくないと考えるかもしれません。
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Microsoftは、2023年8月17日(米国時間)から、「Microsoft 365」の対象サブスクリプションテナントのユーザーに対して、ビジネス向けに商用データ保護を保証する「Bingチャットエンタープライズ(プレビュー)」を既定で有効化しました。Bingチャットエンタープライズが利用可能なMicrosoft 365ユーザーであれば、「Bingチャット」にアクセスするのと全く同じ方法で、Bingチャットではなく、Bingチャットエンタープライズにアクセスすることができます。
入力データが保護されるBingチャットエンタープライズに対し、GPT-4ベースのBingチャットは、入力データが匿名化された上でAI(人工知能)のトレーニングに利用されます。そのため、Bingチャットエンタープライズを利用できない企業は、“匿名化される”とはいっても、Bingチャットの利用による機密データの漏えいが心配でしょう。Bingチャットエンタープライズが利用できる場合でも、登場したばかりのサービスで、しかもプレビュー段階とあれば、利用をためらうかもしれません。
Bingチャットエンタープライズ(プレビュー)のサービスとその無効化(Bingチャットを含めて)については、以下の連載記事でも触れましたが、企業のネットワークレベルでの無効化について、もう少し具体的に方法を検討してみました。
Bingチャットは、以下のMicrosoftのドキュメントで説明されているように、「www.bing.com」を「strict.bing.com」(「セーフサーチ」を有効化したbing.com)、または「nochat.bing.com」(チャット機能を削除したbing.com)のIPアドレスに名前解決してリダイレクトすることで、ネットワークレベルで無効化できます。
この方法は、Bingチャットエンタープライズでも有効です。「Microsoft Edge」のサイドバーに統合されたBingチャット(「b」アイコンのクリックで表示)については、「edgeservices.bing.com」を「strict.bing.com」、または「nochat.bing.com」のIPアドレスに名前解決してリダイレクトすることで、AIベースのBingチャットが機能しないようにできます。
上記のMicrosoftのドキュメントでは、個々のPCでは「hosts」(C:\Windows\System32\drivers\etc\hosts)ファイルにIPアドレス(strict.bing.comまたはnochat.bing.comのIPアドレス)と、「www.bing.com」や「edgeservices.bing.com」の対応を記述する方法が説明されています。また、ネットワークレベルで実装するには、サービスのIPアドレスが変更される可能性を考慮し、IPアドレスではなく、DNS(Domain Name System)の「CNAME」(Canonical Name、別名)レコードを使用することを推奨しています。
実際に「Active Directory」のドメインコントローラーをホストするWindows ServerのDNSサーバ(Microsoft DNS Server)に、「www.bing.com」と「edgeservices.bing.com」と「strict.bing.com」を対応付けたCNAMEレコードを登録してみました。
「nslookup」コマンドで確認すると、一見、「www.bing.com」が「nochat.bing.com」(または「strict.bing.com」)のIPアドレスに正しく名前解決されているように見えます。しかし、これは「www.bing.com.<ローカルDNSドメイン名>.」の名前解決が行われているのであって、「www.bing.com.」は「nochat.bing.com」(または「strict.bing.com」)に名前解決されません。
また、別のDNSクライアント(「Resolve-dnsname」コマンドレットなど)では、「www.bing.com」も「www.bing.com.」も正規のIPアドレスに名前解決されてしまいます。そして、最も重要な点が、設定後も「www.bing.com/chat」やサイドバーでBingチャットが変わらず利用できてしまうことです(画面1)。
DNSのレコードの設定に不慣れで、上記ドキュメントのCNAMEレコードというキーワードを頼りに設定した場合、画面1のようなCNAMEレコードを設定してしまうでしょう(実は筆者もその一人でした)。
CNAMEレコードは、権限のある(管理している)DNSドメイン内のレコードであり、ドメイン内にある他のホストの別名として機能しますし、外部ドメインのFQDN(Fully Qualified Domain Name、完全修飾ドメイン名)にマップすることが可能です。
では、外部ドメインのFQDNを他の名前にマップすることはできないのではないでしょうか。企業ネットワーク上にプロキシサーバやファイアウォール、アプリケーションゲートウェイ製品を導入している場合は、その製品が備える機能(URL変換、DNS応答の書き換えなど)を利用して実装できるかもしれません。
筆者の環境には他に「hosts」ファイルを使用した方法しかないため、同じActive Directory用のDNSサーバを使用して別の方法をいろいろと試してみました。これが正しい方法とはとてもいえませんが、次善策とはいえるでしょう。
期待通りに機能した実装は、新たに「bing.com」をプライマリーゾーンとして作成し(画面2)、そこに「strict.bing.com」と「nochat.bing.com」のAレコードを作成し、nslookupコマンドやResolve-dnsnameコマンドレッドで調べたIPアドレスの一つをそれぞれのAレコードに設定します。次に、「www.bing.com」と「edgeservices.bing.com」のCNAMEレコードを作成して、「strict.bing.com」または「nochat.bing.com」の別名として登録します(画面3、画面4)。
なお、このように設定した場合、「bing.com」ドメインに存在するかもしれない、その他のサービスやホストの名前解決に問題が生じる可能性はあります。筆者が確認した限りでは、サフィックス「.bing.com」のFQDN(dummy.bing.comなど)は全て「www.bing.com」と同じIPアドレスに名前解決されるようなので、IPアドレスが変更されない限り、大きな問題は生じないと思います。
URLのリダイレクトでBingチャットを使用不能にしたとしても、Microsoft Edgeのサイドバーの上にある「b」アイコンをクリックすると、以前Bingチャットが表示されていたパネルが出現します。AIチャット機能は利用できなくなっていますが、AIチャットを使用しないサイトの概要などが表示されまし、パネル上部には「Bingチャット」という文字も残っています。
個々のPCでは、Microsoft Edgeの「設定|サイドバー」(edge://settings/sidebar)を開き、「アプリと通知の設定|検出|Bingチャットの表示」(バージョン114以前は「検出の表示」)トグルスイッチを「オフ」にすることで、「b」アイコンを非表示にできます(画面5)。
これと同様の設定を全社的に一元管理したい場合は、「グループポリシー」でMicrosoft Edgeのポリシー管理用テンプレートを使用して、「コンピューターの構成(\ポリシー)\管理用テンプレート\Microsoft Edge\ハブ サイドバーの表示」ポリシーを「無効」に設定し、クライアントデバイスに適用します。
Microsoft Edgeのポリシー管理用テンプレートは、以下のURLからダウンロードできます。管理用テンプレートをグループポリシーで利用するには、ダウンロードした「MicrosoftEdgePolicyTemplates.zip」を展開し、展開先の「windows\admx」フォルダにある「*.admx」ファイルと、「windows\admx\ja-jp」フォルダにある「*.adml」を、ドメインコントローラーの「C:\Windows\PolicyDefinitions」および「C:\Windows\PolicyDefinitions\ja-jp」にそれぞれコピーします。管理用テンプレートのセントラルストアを使用している場合は、そちらの場所にコピーしてください。
2023年10月18日(米国時間)にリリースされたMicrosoft Edge 118.0.2088.57において、「b(Bing)」アイコンは「Copilot」アイコンに変更されました。
岩手県花巻市在住。Microsoft MVP 2008 to 2024(Cloud and Datacenter Management)。SIer、IT出版社、中堅企業のシステム管理者を経て、フリーのテクニカルライターに。Microsoft製品、テクノロジーを中心に、IT雑誌、Webサイトへの記事の寄稿、ドキュメント作成、事例取材などを手掛ける。個人ブログは『山市良のえぬなんとかわーるど』。近著は『Windows版Docker&Windowsコンテナーテクノロジ入門』(日経BP社)、『ITプロフェッショナル向けWindowsトラブル解決 コマンド&テクニック集』(日経BP社)。
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