明治がAWSのツールを使ってメインフレームから完全脱却 経緯を詳しく説明「ファーストペンギンになりたかった」

明治は2025年3月のメインフレーム撤廃を目指し、残るシステムの移行を2024年6月中に完了する。国内企業で初めて、「AWS Mainframe Modernization」という移行サービスを使った。前例がないことは障害ではなく、むしろ国内初事例にチャレンジしたかったのだという。

» 2024年03月18日 09時00分 公開
[三木泉@IT]

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 食品事業で知られる明治は、メインフレームに残っていたアプリケーションをAmazon Web Services(AWS)に移行中で、2024年6月中に作業を完了する。これを受けて、2025年3月にはメインフレームの利用を停止する予定。移行には、AWSが提供するアプリケーション自動変換ツールとサービスを採用した。同社は2024年3月14日、AWSジャパンが開催した発表会で、この取り組みについて説明した。

「残る14%のシステムのために年間数億円かかる」

 明治は2010年ごろから、クラウドサービスを活用するなどしてメインフレーム上の業務システムを徐々にオープン化してきた。これにより、メインフレーム上に残っているシステムは、2022年9月時点で全体の14%に減った。

 「残っていたのは、ビジネスロジックの変更頻度が低いシステム。手をつける必要がないことから、メインフレームでの運用を継続していた」と、明治 執行役員 デジタル推進本部 本部長の古賀猛文氏は説明した。

明治 デジタル推進本部本部長の古賀猛文氏

 明治はメインフレームのアウトソーシングサービスを利用してきたが、これに年間数億円を費やしている。残る14%のシステムの運用のために、これだけのコストがかかっていることになる。

 他にも、「2025年の崖」として指摘されているさまざまな問題がある。

 例えば人材については、「現在はCOBOLなどのレガシー言語を扱える人間が社内にたくさんいる。だが、保守については、社外の人材の確保が難しくなってきた。新たに採用した人材については、せっかく新しい言語を覚えて入ってきてくれているのに、レガシー言語を再教育しなければならない」(古賀氏)

 そこで明治は、メインフレームからの完全脱却を進めることにした。2025年4月にアウトソーシング契約の更新を迎えるため、それ以前にシステムを全て移行すると決めた。

残ったシステムについての対応方針

 まず、残ったシステムのうち販売系基幹システムについては、データドリブン経営に直接貢献できるよう、オープンな基盤で再構築した。

 「これまでメインフレーム上で幾度となく改修を繰り返した結果、 システムが複雑に入り組んでしまっていた。それを整理して、 重複する機能やデータの統廃合、整備を実施することにした」(古賀氏)

 このシステム再構築は2024年2月に完了した。機能の整理や部品化などにより、外部データとの連携性が向上した他、今後のシステム変更におけるテスト工数の削減、障害リスクの低減などを実現できたという。

 その他のシステムについては、再構築をしても大きな付加価値を生み出さないため、自動変換サービスを使ってコスト効率よく基盤を変更することにした。これに採用したのが、AWSの「AWS Mainframe Modernization」(以下、Mainframe Modernization)だった。

Mainframe Modernizationとは? 明治はなぜ採用したのか

 Mainframe Modernizationは、メインフレームアプリケーションのAWSへの移行を支援するサービス。ツールと支援サービスで構成されている。

 アプリケーション移行ツールには、自動リファクタリングのための「Blu Age Refactor」(以下、Blu Age)とリプラットフォームのための「Micro Focus Replatform」(以下、Micro Focus)がある。Blu AgeはメインフレームのCOBOLアプリケーションをJavaに変換するツール。これを開発していたフランス企業をAWSが買収し、Mainframe Modernizationのみで提供している。Micro Focusでは同名のツールを使い、COBOLアプリケーションを基本的にはそのままの形でAWSに移行する。

 Mainframe Modernizationでは、こうした移行ツールの適用だけでなく、AWSのインフラ/運用環境の設定など一連の移行プロセスを実行できるようになっている。その上で、AWSは移行計画の策定・実行支援などのサービスを提供している。

 Mainframe Modernizationは2021年11月末に、AWSのグローバル年次イベントで発表された。明治はこれに興味を持ち、4カ月後にはAWSジャパンに問い合わせたという。その後、概念検証(PoC)や他社との比較を経て、2022年11月には採用を決定した。プロジェクト自体は2023年1月に開始したという。

 採用したのはリファクタリングツールのBlu Ageだ。Javaアプリケーションに変換することで、将来のCOBOLエンジニア不足に対応できることも背景にあった。

 Mainframe Modernizationを選んだ理由は下図の通り。

明治がMainframe Modernizationを選んだ理由

 「『国内初事例にチャレンジしたい』という気持ちをプロジェクト推進担当者たちが持っていたことが、最も大きな理由だったかもしれない」と古賀氏は話した。

 「(明治の)デジタル推進本部のミッションは、デジタルで『やりたい』を『できる』に変えること。『すぐ動け、完璧じゃなくていい』『前例は自分たちで作れ』というバリューも掲げている。こうした考えに沿って、ファーストペンギンとしてチャレンジすることにした。2バイト文字など、国内のメインフレーム要件をしっかりとAWSに伝えることで、 他の日本企業も同じことができる環境を作れるのではないかと思った」(古賀氏)

当然、自動変換ツールを使うだけでは済まない

 とはいえ、実際の移行作業はビジネスロジックの自動変換ツールを使うだけでは済まない。明治は下図のような課題を個別に解決してきた。

移行における課題と解決策

 例えば、明治では多数のユーティリティプログラムを開発しており、一部はアセンブリ言語で書かれていた。こうしたプログラムは全処理で使われていたという。同社ではこれらをJavaで書き換えてAWSに渡し、自動変換ツールに組み込んでもらったという。

 今回のプロジェクトで、明治はAWSのBlu Ageチームによる技術支援に加え、AWSジャパンのプロフェッショナルサービスを活用した。

 英語でのコミュニケーションのサポートの他、プロジェクトの進行や課題の管理、インフラ構成に関しての提案などの支援を受けたという。

 「初事例ということで課題点も多かったが、このサポートがあってこそ、今回のプロジェクトが成功したと考えている」(古賀氏)

 古賀氏は、メインフレームからの全面移行による成果として、「年間のホスト維持運用コストを約80%削減できる」「データ連携の強化でデータドリブン経営を加速できる」「2025年の崖として指摘されているリスクを全てヘッジできる」の3つを挙げた。

 明治は、メインフレームからの完全脱却とオープン化により、システムのデータ連携がしやすくなったことで、データ利活用のためのベースが整ったとしている。今後は各種システムのAWSへの集約をさらに進めてデータ連携を高度化し、AIにも取り組むなどして、データ活用によるDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進していくという。

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