TechTargetはGitLabの開発者向けツール戦略に関する記事を公開した。GitLabは、プラットフォームエンジニア間におけるAI自動化への関心の高まりに応えるため、次期リリースで同社「Duo」のAIツールをDevSecOpsパイプライン全体に結び付ける予定だ。
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TechTargetは2024年4月18日(米国時間)、GitLabの開発者向けツール戦略に関する記事を公開した。
2024年4月上旬、GitLabの「Duo Chat」ツールの一般提供が開始された。これにより、GitLabは、GitHubの「Copilot Enterprise」や「Copilot Chat for Visual Studio」が備える多くの機能(プロンプトベースのコードリファクタリング、コードの説明、自動テスト生成など)に匹敵する機能を提供している。
今後数カ月以内にリリースされる「GitLab Duo Enterprise」の新たなエディションでは、GitHub Copilot Enterpriseのユーザーが使い慣れたプルリクエストのサマリー作成機能など、開発者向けに多くの機能の追加が予定されている。
GitLab Duo Enterpriseには、根本原因の自動分析やセキュリティの脆弱(ぜいじゃく)性のトラブルシューティングなど、DevSecOpsパイプラインにおける開発以外のステージ向けのAI自動化機能も盛り込まれる予定だ。「企業での生成AI導入が進むにつれ、こうした機能の新たな成長が見込まれる」と語るのは、RedMonkのアナリスト、ジェームス・ガバナー氏だ。
「イシューの作成、保守、ドキュメント化のような作業は、現代のソフトウェアビルド手順の大きな部分を占めるため、GitLabがこうした機能を提供することはそれだけで非常に魅力的だ。AIによるコード生成は、アプリケーション開発だけでなく管理面でも今後間違いなく重要かつ意義深いことの一つになる」(ガバナー氏)
Duo Chatは、ソフトウェア開発者向けの「GitLab Duo Pro」ツールセットの中で最後に更新されるβ段階の機能だ。Duo Chatには、2024年1月に一般公開されたコード補完ツールやコード生成ツールも含まれている。Duo Proは、「GitLab Premium」サブスクリプションおよび「GitLab Ultimate」サブスクリプションを購入しているユーザーに月額19ドルで提供される。Duo Proでは、プロジェクト、グループ、サブグループに応じた一元管理型アクセス制御がサポートされるため、DevSecOpsチームが生成AI機能にアクセスする権限を細かく管理できる。
AIに対するセキュリティとエンタープライズ制御の重視は、2023年に顧客データをプライベートに保つことを約束してGoogleの「Vertex AI」統合の追加を行って以来、GitLabのAI方針の主要テーマになっている。こうした方針により、ガバナンスに関心のある企業IT部門がGitLab Duoを魅力的に感じる可能性は高いとガバナー氏は語る。
「GitLabが当初人気を博した理由の一つは、オンプレミスでの作業を望み、データの常駐場所などに懸念を抱く企業に直接採用を働きかけたことだ。こうした企業はAIツールにも同じ懸念を抱くに違いない。GitHub Copilotは優れたツールだが、現時点ではもう少し物事をロックダウンしたいと考える顧客もいる」(ガバナー氏)
GitHubはMicrosoftとの連携によって、約1億人というアプリケーション開発者のユーザーベースを擁し、統合開発環境(IDE)の「Visual Studio Code」と開発者コードアシスタントの「Copilot」によって圧倒的な競争力を誇っている。両社の連携には、「ChatGPT」を生み出したOpenAIとの緊密なパートナーシップというさらなるメリットがあり、両社はOpenAIの最新モデル「GPT-4 Turbo」へのアクセスも既に提供している。一方のGitLabはGoogleの最新モデル「Gemini 1.5 Pro」との統合をいまだ果していない。
「当社はGemini Pro 1.5の特徴はコンテキストウィンドウの広さと見ている。だが、コードの提案などに必要なのはレイテンシ(待機時間)の短さだ。Googleは『Gecko』や『PALM2 chat-bison』のようなコーディングモデルのGeminiバージョンをまだ提供していない」と語るのは、GitLabで最高製品責任者(CPO)を務めるデビッド・デサント氏だ。
ただし、2024年4月上旬に一般利用が開始されたGitLab Duo Chatでは、Anthropicの最新モデル「Claude 3」がサポートされる。このモデルは、開発者の間で人気が高まっているとガバナー氏は述べる。
「Claudeは良質でクリーンなコードを生成するため、現在注目する開発者が増えている。MicrosoftとGitHubはOpenAIとの関係によってメリットを得ているが、業界他社も静観しているわけではない」(ガバナー氏)
「GitLabが企業を重視していることを考えると、GitLab Duo Chatのコードリファクタリングサポートは特に重要になる」と話すのは、Forrester Researchのアナリスト、デビン・ディッカーソン氏だ。
ディッカーソン氏によると、現在利用可能な最大のコンテキストウィンドウを誇るGoogleのGemini 1.5 Proモデルでさえ収容できるコードは3万行で、企業のレガシーアプリケーションはその行数をはるかに上回るため、AIを利用するコードリファクタリングはまだ発展途上だという。だが、長い目で見ると、AIを利用する企業開発者にとっては生産性が最大限に高まる可能性がある。
「キャンバスが真っ白ならば、提案を受け入れやすい。シナリオの複雑さが増せば、既存のコードが増え、依存関係も多くなるため、そうした複雑さと制約を認識するコード提案が必要になる」(ディッカーソン氏)
セキュリティを重視する企業やプラットフォームエンジニアにとっては、GitLabはGitHubとMicrosoftの連携との形勢を逆転する可能性を秘めている。例えば、GitHubの「GitHub Actions」ではホステッドランナー向けに「Microsoft Azure」のプライベートネットワークサポートを2024年4月初旬に公開したばかりだ。だが、GitLabはこの機能を長年にわたってサポートしている。
アナリストによるDevOpsプラットフォームに対するGitHubとGitLabの評価は同等だ。GartnerはDevOpsプラットフォームの2023年版マジッククアドラントでMicrosoftとGitHubを首位に、GitLabをわずかな差で2位にランク付けしている。だが、GitLabはForrester Researchの「The Forrester Wave: Integrated Software Delivery Platforms, Q2 2023」(The Forrester Wave:2023年度第2四半期統合ソフトウェアデリバリープラットフォーム)に掲載されたベンダー13社の中で唯一「リーダー」の称号を得ている。
GitLabはエンタープライズプラットフォームAI製品の分野ではRed Hatなどと競わなければならない。Red Hatは同社のIT自動化プラットフォーム「Ansible」でAIを活用する機能を提供し、可観測性に基づくAIOpsに関してDynatraceと提携している。
「Atlassian Intelligence」もプラットフォームエンジニアの選択肢の一つで、AIの組み込みを希望するエンタープライズプラットフォームエンジニアにクラウドベースのオプションを提供する。2024年4月、GitLabのパートナーであるGoogleは、アプリケーションライフサイクルの自動化を目的として、同社独自のAIツール「Gemini Cloud Assist」をリリースしている。
全体としてみると、ベンダー各社は企業での生成AI導入という重要なトレンドに注目しているものの、運用環境ではいずれもまだ主流になっていないとディッカーソン氏は指摘する。
「Gemini Code Assistのようなツールは興味深い方向に進んでいる。というのも、企業顧客から耳にする悩みを実際に解決するためだ。企業顧客は開発者がイノベーションを起こせるような組織にすることを模索している。このようなツールは、開発者の混乱を招く複雑さを抽象化するのに役立つプラットフォームを確立するための前段階にすぎない」(ディッカーソン氏)
コロナ禍でテクノロジーへの支出が急増した。全体的に経済情勢が不透明な状況では、開発チームよりもエンタープライズプラットフォームエンジニアリングチームの方がAIツールへの購買力が高くなっている可能性があるとガバナー氏は語る。
「3〜4年前のような『開発者の好きにさせればよい』という状況ははるかに少なくなっている。企業は投資を考えており、AIに可能性を見いだしている。だが、企業は『自社にもたらすメリットを正確に示す必要がある』と求める」(ガバナー氏)
ここで大きな魅力を発揮するのがAIによる自動化だ。これにより、既存のプラットフォームエンジニアリングツールの効率が高くなるとディッカーソン氏は指摘する。
「テスト機能を備え、何らかのセキュリティ機能を提供する自動パイプラインを通じてコードをプッシュできれば、運用環境へのイテレーションが迅速になる。ただし、そうしたツールを自身で追加しなければならなかったり、サードパーティーのサービスを利用したりしなければならないとしたら、課題は多くなる」(ディッカーソン氏)
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