ビジョンの確立は転職活動前までに:転職失敗・成功の分かれ道(1)
毎日、人材紹介会社のコンサルタントは転職希望者と会う。さまざまな出会い、業務の中でこそ、見えてくる転職の成功例や失敗例。時には転職を押しとどめることもあるだろう。そんな人材コンサルタントが語る、転職の失敗・成功の分かれ道。
転職活動の始まりはいつか
あるとき、フッと転職を考える。転職意識・意欲が顕在化したときである。そして情報収集に走る、友人や周囲にそれとなく聞いたりする、転職関連の各種セミナーに出席する、人材紹介会社へ登録する。転職活動の始まりである。
ここが転職のスタート地点か。否である。あなたはまだスタートラインについているわけではない。スタートラインをしゃにむに探し始めた、といった方が正確である。学生のころの受験勉強を思い出そう。ねじり鉢巻きで猛然と受験勉強に突入できたのは、何があったからか。自分の実力(偏差値)が客観的に分かり、自分の強み・弱みが浮き彫りになり、目標となるやりたいことや高校や大学が、あるいはそこでの具体的な生活イメージが、鮮明な映像として大脳の中で煮詰まったとき、それと同時に自分の実力とそれら目標とのギャップが鮮明になって認識できたとき、猛然とファイトがわいてきたはずである。そう、受験勉強では。
転職活動で、同じ原理が働くのか。否である。受験勉強でのスタートラインは比較的容易に探せるが、転職活動は一筋縄ではいかないはずである。時として、大幅な方針転換を迫られる。いろんな人に聞けば聞くほど、違うことを勧められてしまう。ノウハウ本や転職サイトである程度の手順は分かる。人材紹介会社のコンサルトも懇切丁寧に教えてくれる。でも、何となくホントにほんとかよ、と思ってしまう。考えれば考えるほど自分のやりたいことが分からなくなってくる。私はかつて、転職とはギャップに気付き、そのギャップを乗り越えることである、と書いたことがある(「ITエンジニアの転職現場から 第4回 ギャップを見つけ、乗り越えよう!」を参照)
2つのギャップを認識することの重要性
そこで解説したことだが、ギャップには2つあって、1番目は自分の中の「できること」(実力の部分)と「やりたいこと」(目標)とのギャップ。2番目は、自分の実力の部分と企業が求める部分とのギャップだ。転職活動におけるスタートラインとは、まさにこの2つのギャップに客観的に気付くことである。
よく自分の市場価値分析、という話を聞くが、これは2番目のギャップに気付くことにほかならない。転職の成功とは、自分のやりたいことと企業が求める部分が一致する企業・仕事を獲得できたときであり、転職の失敗とは、何らかの理由によりこれらのギャップが埋まらないとき、あるいは、無理にこのギャップを埋めようとしたときである。
1番目のギャップ、つまり理想が高い場合は、1ステップでそれを満足させることをやめて、数ステップに分割して、時間をかけてそのギャップを埋める戦略を取るべきである。
2番目のギャップがなかなか埋まらない場合は、自分のやりたいことをさせてもらえる企業がないわけだから、妥協せずに気長に探すことである。ある意味出会いを期待して、積極的にいろんな人に会える機会を自分で作るべきだろう。
私は最近、ある意味珍しい転職の仕方をする人と知り合った。その人は、とにかく自分のやりたい仕事内容や新しいアイデアを面接場面でどんどん話すそうだ。当然、受け入れられないケースが圧倒的に多いが、いくつかの企業は熱心に耳を傾けてくれる場合もあるそうだ。そうした方法を実践し、絶対に妥協しないで、自分のやりたいことを100%やらせてもらえる企業を見つけて転職したという。
ここまでこだわって探した企業に入社して、もし自分のやりたいことをさせてもらえなかったり、何らかの事情により自分のやりたいことができなくなったとしても、そのときは自分自身で納得がいくはず、とのこと。ここまで徹底した人には、ある種清々しいものを感じないだろうか。
転職するときにギャップを感じても遅い
転職に走る、ということは、ある意味道に迷うことにほかならない。何らかの打開をしたい、という欲求の表れでもある。そこで初めて自分の市場価値に気付く、ギャップに気付きぼうぜんとする。まさに非日常の世界に迷い込むことだと思う。逆のいい方をすると、いままで漫然と流されてきた日々、無意識のうちに「楽」を選んできた日々は、自分と市場両方に目隠しをし続けてきたことにほかならない。ここで初めて、キャリアビジョン、プランを常に明確にし続けることの重要性、つまりやりたいことを常に明確に認識することの重要性に気付く。転職に走りだしてから気が付くのでは遅い。
私は、人材紹介の仕事を始めて以来、あまりに多くの「遅かりし認識」に驚いてきた。それがあって以前、@IT自分戦略研究所で「エンジニアの職種別「キャリア点検」のポイント」と「エンジニアの職種別「キャリア点検」のポイント2004年版」を書いた。
幸いなことに、最近ではキャリアプラニングの重要性が個人レベルにまで浸透しつつあり、それをトリガにした転職相談を依頼されたり、上述したような、自分のやりたいことを重要視するエンジニアに遭遇したりするようになってきた。
ITSSをキャリアやスキルの土台にする方法も
IT業界では、ここ1、2年、ITSS(IT Skill Standard:ITスキル標準)が大きく取り上げられ、多くの企業で人材育成の共通指標として採用する動きが加速している。ITSSの浸透の次のステップとして、協力会社の調達やエンジニアの中途採用の場面への適用が検討されつつある。今後、IT業界でより良い人生を送っていくためには、このITSSのような共通プラットフォーム上で、自分のキャリア、スキルをどうデザインしていけばよいのか、ということが非常に大きなキーポイントになってくると思っている。まさに転職感が大きく変わる時代を迎えようとしている。
どうか皆さん、将来大海で方向を見失うことなく、ITSSのような共通プラットフォームの座標の中で、自分の確たる羅針盤を使って、悠々とかつ堂々と船を走らせてほしい。われわれキャリアコンサルタントは、時には無線で、時には寄港された港で直接皆さんと会うことによって、あなた方の羅針盤が正常に機能するようにサポートしたいと思っている。そのときには、大いに語り合いましょう。皆さんの成功を心より祈念している。
著者紹介
キャリアコンサルタント
杉山 宏氏
大手SI企業にて、SE、プロジェクトマネージャ、営業、事業部長を歴任後、外資系大手コンピュータメーカーにてマーケティング、プロジェクトマネージャを経験。20年にわたる豊富なノウハウを生かし、IT業界向けの転職カウンセラーを約8年間経験、面談者は3000名以上、通算500名以上の転職を成功させた。現在@ITジョブエージェントのパートナーとしても活躍中
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