異なる文化の企業への転職。その現実:転職失敗・成功の分かれ道(13)
毎日、人材紹介会社のコンサルタントは転職希望者と会う。さまざまな出会い、業務の中でこそ、見えてくる転職の成功例や失敗例。時には転職を押しとどめることもあるだろう。そんな人材コンサルタントが語る、転職の失敗・成功の分かれ道。
皆さん、こんにちは。テクノブレーンの八子です。今回は「まったく企業文化の異なる企業への転職の現実」について述べてみたいと思います。
具体的には、
(1)大手企業からベンチャー企業への転職
(2)ベンチャー企業から大手企業への転職
の2点です。なお本論はあくまでも私の経験に基づいたことですので、読者の皆様それぞれの価値観に基づいて参考にしていただけましたら幸いです。
どんな優秀なエンジニアであっても人間です。中途入社の社員が多い企業では、異文化のさまざまな企業から人が集まって来ますので、人間同士のコミュニケーションが大切なことはいうまでもありません。
大手企業とベンチャー企業の違い
大手企業とベンチャー企業との相互での転職について語る前に、双方の比較をしたいと思います。
社会人としての「仕事や社員としての価値観」は、一般的には最初に入社した会社で決まるのではないかといわれています。もちろん育った環境や個人に依存することは多いですが、入社した会社での研修や数年の勤務の中で価値観が醸成されることは多いのではないでしょうか。
一般的に大手企業とベンチャー企業では、何がどのように違うといわれているのでしょうか。
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それぞれの価値観によって感じ方もさまざまですが、一般的には上記内容のような違いがあるのではないかと思います。
観点を変えますと、上記内容が大手企業やベンチャー企業への志望動機になっているのではないかと思います。
大手企業からベンチャー企業への転職での留意点
大手企業に数年勤め、ベンチャー企業を目指して転職なさる方もいらっしゃると思いますが、このケースの留意点と事例を述べたいと思います。
ベンチャー企業には大手企業ほど整った環境はない
大学を卒業してすぐに大手企業へ入社なさった方には、大手企業の安定感や完備された環境は、「当たり前の環境」です。しかしベンチャー企業には、その当たり前の環境がない場合が多いでしょう。整備された環境は大手企業独特のもので、自分の職務以外のことはほとんどやらなくてよい環境です。従って自分の職務の遂行に没頭できます。
しかしベンチャー企業ではそんなことはいっていられません。雑用も誰かがしなければ誰もしません。「自分の職務以外の雑用」もやらなければなりません。極端な例を挙げますと、来客時のお茶出しも自分でしなければいけなかったり、顧客向けの作成資料のプリントアウトも自身で対応しなければならなかったりします。当然ですが、自身の業務以外の仕事が増えるわけですから業務量は非常に多く、夜遅くまでの職務もやむを得ない場合が多いでしょう。
自分の職務領域を決め付けるのはタブー
従いまして、整った環境がないことを前提に、自身の職務の領域を決めないで「何でもやる」という意気込みが必要でしょう。「こんな雑用はばかばかしい」とか、「なんでこのようなシステムがないのか」などの「前職と比較して環境が整っていないことの愚痴」はタブーです。中途入社の社員でもあくまで「新入り」なのですから、初めは率先して雑用もこなしましょう。
それではベンチャー企業のだいご味とは何でしょうか。それは、「自分で会社を成長させていく」ことだと考えられます。すると、何でも進んで遂行していくことで、皆の信頼を得ることができ、また自分も「自分の会社なんだ」と実感できるのではないでしょうか。自分の会社が成長していくためには、どんな仕事も手作りなのですから、雑用も重要な仕事なのです。
大手企業からベンチャー企業への転職での失敗事例
ベンチャー企業志望の橋本さん(仮名)は30歳、大手企業でそれなりの成績を挙げて、某ベンチャー企業へ入社しました。しかし入社後3カ月で違和感を覚え、入社6カ月で退職することになりました。私はこの退職間際のタイミングで橋本さんに、「自分の希望がかなったベンチャーへの転職だったのに、なぜ入社間もなくして自己都合で退職するのか」と問い掛けました。
返ってきた答えは「こんなに(環境が)整っていないとは思わなかった」「○○のはずではなかった」などでした。つまりは、(1)環境が整っていないベンチャー企業への心構えができていなかった、(2)面接の際に何も質問していなかった、などがポイントだったのではないかと私は考えました。
ベンチャー企業から大手企業への転職の留意点
次に「ベンチャー企業から大手企業へ転職する場合」について述べたいと思います。
大手企業は人間関係も手続きも煩わしい
そもそも大手企業に比較すると、社員数が極端に少ないベンチャー企業では超実力主義だったり、稟議などの手続きが簡略だったりします。社内の風通しが良く、何でもいえて、また何でも聞ける環境です。
しかし大手企業では社員数が多く、その結果として管理職者も多いことから、稟議に時間がかかり手続きも煩雑になります。また組織が縦割り的な側面もあり、「何をするにも調整が必要」と痛感するのではないでしょうか。稟議のステップが多ければそれだけ説明を要するシーンも増え、ベンチャーからの転職者は「見えない壁」に悩まされるのではないでしょうか(図1)。
毎日が交渉なので、大手企業では一匹狼はNG。しかし結果として人脈が圧倒的に広がったり、スケールの大きな仕事ができるのが大手企業です。
社員数が多く、何かと気を使わなければならない大手企業。すべて事前の調整が重要です。最近は以前より風通しが良くなったとは聞きますが、ベンチャー企業よりはあらゆる面が整っている半面、さまざまなミッションをそれぞれの社員が持っていますので、時には同じ会社の中でも大きな利害関係が生ずる場合もあります。
しかしそういった交渉ごとや調整が、きっと将来自分のヒューマンスキルの大幅なレベルアップにつながるはずです。IT業界にいるためにはコミュニケーション能力が高くないと生き延びていけません。そういった環境で、技術面と同時に交渉ごとのスキルも向上させることが可能でしょう。
ベンチャー企業から大手企業への転職での失敗例
瀬川さん(仮名)は32歳。ベンチャー企業でプロジェクトマネージャとして活躍し、大手企業へ転職なさいましたが、入社して半年で違和感を覚え、結局1年後に退職。その後私と面談することになりました。再度転職したい理由を聞くと、「何でも調整ばかりで、組織の動きが鈍い」「自分の発言が反感を買ったようで、以来プロジェクト内での立場が良くない」との返答でした。
特に瀬川さんは、ベンチャー企業で規模は小さいながらもプロジェクトマネージャを経験していましたので、多少「自分はできる」との自負はあったようです。「以前の会社だったらこのようなスピードのない対応はしない」と、ある場でつい発言してしまったことが反感を買ったようなのです。
大きな組織に所属するにはさまざまな調整は必要です。その結果としてスケールの大きな仕事ができるのではないでしょうか。大きな組織を動かせる人が大きな仕事を完成させられる、といった例もあります。
両方のケースからいえること
最後に両方のケースを含め、転職活動や転職後においての注意点を2項目説明します。
(1)面接で十分に質問する
転職する際には、入社後のすべてのことが見えるということはまずないと思います。だからリスクがあるのです。そのリスクを最小限にするためには、面接でかなりの質問をなさることをお勧めします。もちろん選考される立場での質問ですので、業務内容や仕事の進め方を中心に質問し確認することです。要するに入社後に自分がどのような業務をするのかを可能な限りイメージできるようにしておくことだと思います。面接の指導などは人材紹介会社が対応してくれると思います。
(2)入社後は、以前の会社と比較した批判はしない
「前の会社は○○があったのに、何でこの会社はないのだろうか」などの発言は好ましくないと思います。中途採用人材が入社後に新しい「風」を運んでくれることは好ましいことではあります。が、一般的には何の実績も出していない人のいうことを誰が聞いてくれるでしょうか。まずは入社後すぐに実績をつくり、皆に高く評価してもらうことが先決なのではないかと思います。
いずれにしましても、入社前に可能な限り転職希望企業の内容や想定される業務の内容や進め方をイメージできるぐらいになるために、人材紹介会社を利用なさることをお勧めします。
著者紹介
大手金融機関、ドイツ系ソフトウェアベンダなどを経て、現職(テクノブレーン キャリアコンサルタント)。キャリアプランからライフプランまで幅広いアドバイスを行う。特にITコンサルタント職や大手システムインテグレータへの転職支援の実績は豊富という。
- 情報が転職を成功に導く
- 年齢とともに変わる求められる能力
- 論理思考は転職でどれほど大切か
- キャリアプラン、作成したことありますか?
- 30代後半の転職、その現実とは?
- 重要なのは、転職の目的を見失わないこと
- 上流工程にいきたいなら新幹線に乗り換えろ
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