うまくいかないときはスタイルの転換期:心の健康を保つために(12)(2/2 ページ)
ITエンジニアの周りにはストレスがいっぱい。そんな環境から心身を守るためのヒントを、IT業界出身のカウンセラーが分かりやすく伝えます。
折り合いをつけるのは悪いことではない
Bさんは、Aさんのグループへの納期に遅れても、グループ員に無理を強いませんでした。Bさんに部下思いの気持ちがなければ、部下の誰かが体調を崩していたかもしれません。
「グループ員の健康を守りながら納期も遅れないようにする」というのは困難なことです。簡単に答えが出る問題ではないと思いますが、業務の緊急度や重要性、リスク、自分を含めたグループ員の状況などを多面的に考慮して、優先順位をその都度判断していくしかないのではないでしょうか。Bさんのケースを題材に、その判断のプロセスで考えるべきことを見てみましょう。
Bさんは、自分自身がやらなければならない仕事がたまっていました。「これは無理だから断る」という取捨選択の交渉が、早い段階なら多少可能だったかもしれません。
「“できない”っていえない、意地っ張りな性格なんです」とBさん。
Bさんの気持ちの中には、会社組織の権威や圧力に屈したくない思いがありました。「上司から責められることは恐れないぞ」という信念もあったでしょう。しかし、その思いの強さが“無理”を生じさせたのではないでしょうか。
時には信念と折り合いをつけることも必要です。折り合いをつけるということは、“精いっぱいやっている自分を認めること”でもあります。
・他部署も含めたチームワーク
部下に無理をさせたくない思いが強かったBさんは、不満が募っていく職場でグループ員への対応に気を使っていました。人員が増強されないことをどう納得してもらうか、苦慮していました。1人で問題を抱え込んでいたのです。
Bさんは、関連するほかの部署に対して、コミュニケーションを閉ざす傾向があったと考えられます。例えば、隣のグループのAさんに相談することができれば、状況は変わっていたのではないでしょうか。
中間管理職は、上と下から挟まれ、最もストレスの高いポジションです。同じ立場でないと分からないつらさもあります。同僚で安心して愚痴をこぼせる仲間がいることが大切です。
・家族のサポート
Bさんには、大学や高校に通う子どもがいて、父親としての責任を強く感じていました。妻はいつもBさんを頼りにしているタイプの人でした。ですからBさんは、家で仕事の愚痴を口にすることはなく、体調の不良も伝えていませんでした。
でも、家族に「時にはお父さんだって、しんどいときがある」という面を見せてもよいのではないでしょうか。頑張っている夫や父親の姿は、家族のきずなを強めるきっかけになるかもしれません。
生き方の転換地点
体力に自信のあったBさんにとって、“1人で音を上げずに頑張るスタイル”はこれまで有効な生き方でした。本当に芯(しん)の強い人といえます。
ただ、50歳という年齢からくる体力の衰えは認めざるを得ません。“体力だのみ”では立ち行かなくなることも出てきます。また、自分1人の仕事であれば可能なスタイルであっても、仲間や部下とともに仕事をする場合には、適切でなくなることがあります。周りの力を引き出しながら進めていくことに重点をシフトする必要があるでしょう。
スタイルや生き方を見直して、未来への扉を開く
何かうまくいかない事態が生じたときは、自分のスタイルや生き方に“転換”が求められているのかもしれません。
一時は自信を大きくなくしてしまい、無力感を感じたり、自己否定したりしてしまうこともあるでしょう。しかし、「これまでの自分」をすべて否定してしまうことはないのです。ただ、「いまの自分」と「これまでのやり方」にミスマッチが起きているだけなのです。環境や自分の成長(老いも含めて)の変化が生じていることに気が付く必要があります。
そのうえで、自分の良さはどういう点にあるのか、視点を変えて見直してみるとよいでしょう。
自分の良さをどう生かしてゆけばいいのか、これまでの強みに何を加えればいいのか、模索する時間をつくりましょう。考えることで、未来を開く扉は開けるかもしれません。
「自分の良さは信念を貫こうとすること。でも、貫くことにのみ夢中になりすぎていたかもしれません。大事なのは、どうやったら自分の信念が実現できるかを周囲の状況も併せて、プロセスを柔軟に考えることだったのでしょうね」
Bさんはこのように話してくれました。
著者紹介
ピースマインド 石川賀奈美
臨床心理士、産業カウンセラー。米国フォーカシング・インスティチュート認定フォーカシング・トレーナー。現在、ピースマインドで成人を対象に幅広い相談に応じるとともに、定期的に企業に赴き、社員のカウンセリングを行う。高齢者虐待防止に関連し、在宅介護者のカウンセリングにもかかわっている。著書に『SEのためのうつ回避マニュアル 壊れていくSE』(翔泳社刊、分担執筆)がある。
「出口のないトンネルはない。しばし、一緒に光を目指して歩いていきましょう」
- 「幸せになる」ではない。幸せは「感じる」ものである
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